新副隊長編
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「異動、と」
浮竹は真剣な面持ちでそう返した。
「左様」
銀嶺は俯きそう静かに言った。
入隊以来見続けている彼が急にひどく年老いたように見えた。
「彼奴は我が隊では生きて行けぬ。
あまりに残酷な仕打ちよ」
絶望感の漂う言葉だった。
不器用な銀嶺にとって、彼女を救う術は異動以外に思いつかないというのだろう。
敬愛した蒼純を殺した咲は、まるで抜け殻だった。
それもそうだろう。
彼女を救った響河を封印し、絶望の淵に立たされた咲を救ったのは蒼純だったのだから。
(蒼純副隊長は、彼女の全てだったーー)
浮竹は苦しげに目を歪める。
自惚れでなければ、先日の自分の言葉で彼女が多少救われたように見えた。
だが傷は深い。
短い言葉で、多少の温もりで、到底癒しきれるものではないのだ。
おそらくそれには多くの年月が必要だ。
(響河の傷が60年以上彼女を蝕み続けたように)
自分が蒼純と同じ様に命を落としたら、彼女はやはり同じように抜け殻のようになるだろう。
分かっている。
自分も蒼純も、咲にとってはかけがえの無い存在なのだ。
(それでもどこか嫉妬してしまう俺は、何と愚かなのだろうか)
今の咲は白哉に怨まれ、己への仇打ちを果させるためだけに生きているようなものだ。
その細い一本の糸が切れれば、今の彼女の精神状態では間違いなく死ぬだろう。
そしてそんな無気力な彼女を放置することは出来ない。
彼女の力は最早彼女1人のものではない。
護廷の戦力なのだから。
(だがそういう問題ではなく、銀嶺隊長なりの愛着故の相談なのだろう)
彼女が彼の隊に入隊して以来、100年近い時が過ぎていた。
少女だった彼女が、多くの悲しみと微かな喜びの中を潜り抜け、1人の隊士として成長してきた様を見守ってきた。
そしてその中で、2人の息子と娘をこの世から消した。
蒼純だけでない。
銀嶺自身もまた、複雑な思いで彼女を見ていることに、浮竹は気づいていた。
その生きてきた年数による達観とら朽木家当主の誇り故、全てを押さえ込んでいるけれども、彼女を見て苦痛が、怒りが、悲しみがない筈がない。
だがその一方で、朽木家の為に幾多の罪と苦痛を背負い、息子の誇りのために刃を振るう彼女への感謝や罪悪感もまた、あるに違いなかった。
浮竹の耳にも藍染が蒼純の死際に立ち会ったこと、咲の自死を押し留めたことは届いていた。
四番隊に気を失った咲を届けた際には、涙を堪えて烈に言ったそうだ。
ー彼女はあの場にいてせねばならない事全てを完璧に成しました。
己の心を捻じ曲げてでも、蒼純副隊長の為に、尽くしたのです。
あまりに強く、あまりに正しく、あまりに素直で、そしてあまりに哀しい。
……また誰かが導いてやらねばならないと、そう思いましたー
そのやり取りを浮竹に告げた烈は、他隊の隊長でありながら藍染は見舞いにも顔を出したと言葉を続け、悲しげに淡く微笑んだ。
ー咲はかけがえのない方を失いました。
けれども、もうあの子は独りではない。
銀嶺隊長が、藍染隊長が、京楽隊長が、そして貴方がいる。
大丈夫、必ず彼女はまた立ち上がれますー
(藍染隊長ならば、彼女の進む道を照らす上司になり得る、か)
銀嶺がそう思っていることも、薄々わかった。
そしてそうする事がまた彼女を救うことになることも。
異動というのは死神にとって大きな転機だ。
(五番隊への異動の流れがこうして現れてきていると言うのもまた運命と考えることも出来る)
目には見えない何かに流されることもある程度必要だと思えるくらいには浮竹は歳を重ね、経験を重ねていた。
実際彼とて彼女の絶望している姿を見ていたいものではない。
細い背中の震える様子は、肺が握り潰されるような痛みを与える。
潤んだ揺れる瞳は、息の根が止まるような息苦しさを覚える。
だがその度に彼女は立ち上がった。
それは自分達友の支えであり、六番隊の上司の支えでもあった。
浮竹はゆっくりと瞬きをして、それから口を開いた。
浮竹は真剣な面持ちでそう返した。
「左様」
銀嶺は俯きそう静かに言った。
入隊以来見続けている彼が急にひどく年老いたように見えた。
「彼奴は我が隊では生きて行けぬ。
あまりに残酷な仕打ちよ」
絶望感の漂う言葉だった。
不器用な銀嶺にとって、彼女を救う術は異動以外に思いつかないというのだろう。
敬愛した蒼純を殺した咲は、まるで抜け殻だった。
それもそうだろう。
彼女を救った響河を封印し、絶望の淵に立たされた咲を救ったのは蒼純だったのだから。
(蒼純副隊長は、彼女の全てだったーー)
浮竹は苦しげに目を歪める。
自惚れでなければ、先日の自分の言葉で彼女が多少救われたように見えた。
だが傷は深い。
短い言葉で、多少の温もりで、到底癒しきれるものではないのだ。
おそらくそれには多くの年月が必要だ。
(響河の傷が60年以上彼女を蝕み続けたように)
自分が蒼純と同じ様に命を落としたら、彼女はやはり同じように抜け殻のようになるだろう。
分かっている。
自分も蒼純も、咲にとってはかけがえの無い存在なのだ。
(それでもどこか嫉妬してしまう俺は、何と愚かなのだろうか)
今の咲は白哉に怨まれ、己への仇打ちを果させるためだけに生きているようなものだ。
その細い一本の糸が切れれば、今の彼女の精神状態では間違いなく死ぬだろう。
そしてそんな無気力な彼女を放置することは出来ない。
彼女の力は最早彼女1人のものではない。
護廷の戦力なのだから。
(だがそういう問題ではなく、銀嶺隊長なりの愛着故の相談なのだろう)
彼女が彼の隊に入隊して以来、100年近い時が過ぎていた。
少女だった彼女が、多くの悲しみと微かな喜びの中を潜り抜け、1人の隊士として成長してきた様を見守ってきた。
そしてその中で、2人の息子と娘をこの世から消した。
蒼純だけでない。
銀嶺自身もまた、複雑な思いで彼女を見ていることに、浮竹は気づいていた。
その生きてきた年数による達観とら朽木家当主の誇り故、全てを押さえ込んでいるけれども、彼女を見て苦痛が、怒りが、悲しみがない筈がない。
だがその一方で、朽木家の為に幾多の罪と苦痛を背負い、息子の誇りのために刃を振るう彼女への感謝や罪悪感もまた、あるに違いなかった。
浮竹の耳にも藍染が蒼純の死際に立ち会ったこと、咲の自死を押し留めたことは届いていた。
四番隊に気を失った咲を届けた際には、涙を堪えて烈に言ったそうだ。
ー彼女はあの場にいてせねばならない事全てを完璧に成しました。
己の心を捻じ曲げてでも、蒼純副隊長の為に、尽くしたのです。
あまりに強く、あまりに正しく、あまりに素直で、そしてあまりに哀しい。
……また誰かが導いてやらねばならないと、そう思いましたー
そのやり取りを浮竹に告げた烈は、他隊の隊長でありながら藍染は見舞いにも顔を出したと言葉を続け、悲しげに淡く微笑んだ。
ー咲はかけがえのない方を失いました。
けれども、もうあの子は独りではない。
銀嶺隊長が、藍染隊長が、京楽隊長が、そして貴方がいる。
大丈夫、必ず彼女はまた立ち上がれますー
(藍染隊長ならば、彼女の進む道を照らす上司になり得る、か)
銀嶺がそう思っていることも、薄々わかった。
そしてそうする事がまた彼女を救うことになることも。
異動というのは死神にとって大きな転機だ。
(五番隊への異動の流れがこうして現れてきていると言うのもまた運命と考えることも出来る)
目には見えない何かに流されることもある程度必要だと思えるくらいには浮竹は歳を重ね、経験を重ねていた。
実際彼とて彼女の絶望している姿を見ていたいものではない。
細い背中の震える様子は、肺が握り潰されるような痛みを与える。
潤んだ揺れる瞳は、息の根が止まるような息苦しさを覚える。
だがその度に彼女は立ち上がった。
それは自分達友の支えであり、六番隊の上司の支えでもあった。
浮竹はゆっくりと瞬きをして、それから口を開いた。