朽木蒼純編
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咲は目を開き、そして一瞬の隙をついて、月雫の技を使う。
「光錠 。」
触れた相手を光の輪で取り巻き、動きを封じる技だ。
続けて鎖結 と魄睡 を一瞬で貫いた。
副隊長級でも目視で確認できる者は少ないほどのスピードであった。
蒼純の虚と化した口があと僅かで咲の首筋に触れようとしていた。
人にはない牙が生えた口からは唾液に血が混じり、死覇装に染みを作った。
咲は光錠 を解いた。
蒼純は目を歪め、咲の腕の中に倒れ込む。
苦しげな呼吸に慌てて彼を横たわらせようとして、鋭い角が咲の銀白風花紗を引き破き、また首筋を浅く裂き、赤色従首輪に当たって折れた。
はっと気づいた瞬間にはその仮面も、刀身と化した腕も灰のように砕け、徐々に元の蒼純へと戻ってゆく。
咲はその死神に戻った上司の頭を、膝に乗せ、痛まないか、苦しくないか聞くことを躊躇った。死を前にして、そんな問いは無意味だ。
蒼純は言葉を選びきれず口を開くのを躊躇った。
だが躊躇うほどの時間さえ、己には残されていないことに気付き、己の血と唾液で汚れた薄い唇を、仕方なく開く。
「・・・すまな・・・。」
掠れ途切れた謝罪に咲は首を振る。
「副隊長のご命令とあらば。」
涙で光るその瞳は、絶望の中でも穏やかであった。
追って死のうとしていることは、蒼純にもわかった。
そうさせてやることが、ひとつの幸せだということも、理解していた。
それでも、彼は望んでしまった。
蒼純は最後の力を振り絞って、咲の頬に手を添えた。
滑り落ちそうになるその手を、咲が慌てて頬に当てがう。
「白哉を・・・頼む。」
咲の目が見開かれる。
彼女が逃げられぬ、一番重い命令だった。
母を失い、目指す父が虚化して殺される。
あの才気溢れる少年は、エネルギーをもてあまし、道を誤って命を落としかねない。
それを思い出させるのに、充分な言葉だった。
(貴女との約束は果たせそうにない。
申し訳ない、卯ノ花隊長。)
背中を追わせてくれと頼んだ彼女の義母に、心の中で謝る。
(私を殺せと命令するなど、最悪だ。)
今にも泣き出しそうな瞳に、懺悔が込み上げる。
(刑が決まった日、必ずこの子を守ろうと決めたのに・・・
そしてあれほど憎んだのに・・・)
「すまない・・・それでも私は、お前に生きていてほしいんだ。」
自分は言葉を尽くしたかった。
口数の少ない父に変わり、彼女に全てを伝えたかった。
誰かに仕えることで得られる緊張も、成長も、安堵も、喜びも。
その全てを到底伝えきれなかっただろう。
その一方で蓋をした言葉たちがある。
彼女への疑念、憎しみ、怨み。
その隠した全てが伝わらなかったかと聞かれれば、わからない。
そしてもうひとつ。
決して口にすまいと想い続けてきた言葉が今、涙と共に溢れようとしていた。
心に満ちる、最期の感情を。
「お前が・・・お前が愛おしいよ、咲。」
咲は目を見開く。
その思いが部下としてなのか、妹分としてなのか、一人の人としてなのか、女としてなのか、その結論は蒼純の中でも最期まで出ることはなかった。
それが考える為の時間が短かったからだとは、思ってはいない。
生きている限り、多くの感情に苛まれる限り、答えは出なかっただろう。
咲の涙が蒼純の手を転がり、それについていくように蒼純の手が地面に落ちた。
蒼純は終ぞ咲を殺せないままーー逝った。
「
触れた相手を光の輪で取り巻き、動きを封じる技だ。
続けて
副隊長級でも目視で確認できる者は少ないほどのスピードであった。
蒼純の虚と化した口があと僅かで咲の首筋に触れようとしていた。
人にはない牙が生えた口からは唾液に血が混じり、死覇装に染みを作った。
咲は
蒼純は目を歪め、咲の腕の中に倒れ込む。
苦しげな呼吸に慌てて彼を横たわらせようとして、鋭い角が咲の銀白風花紗を引き破き、また首筋を浅く裂き、赤色従首輪に当たって折れた。
はっと気づいた瞬間にはその仮面も、刀身と化した腕も灰のように砕け、徐々に元の蒼純へと戻ってゆく。
咲はその死神に戻った上司の頭を、膝に乗せ、痛まないか、苦しくないか聞くことを躊躇った。死を前にして、そんな問いは無意味だ。
蒼純は言葉を選びきれず口を開くのを躊躇った。
だが躊躇うほどの時間さえ、己には残されていないことに気付き、己の血と唾液で汚れた薄い唇を、仕方なく開く。
「・・・すまな・・・。」
掠れ途切れた謝罪に咲は首を振る。
「副隊長のご命令とあらば。」
涙で光るその瞳は、絶望の中でも穏やかであった。
追って死のうとしていることは、蒼純にもわかった。
そうさせてやることが、ひとつの幸せだということも、理解していた。
それでも、彼は望んでしまった。
蒼純は最後の力を振り絞って、咲の頬に手を添えた。
滑り落ちそうになるその手を、咲が慌てて頬に当てがう。
「白哉を・・・頼む。」
咲の目が見開かれる。
彼女が逃げられぬ、一番重い命令だった。
母を失い、目指す父が虚化して殺される。
あの才気溢れる少年は、エネルギーをもてあまし、道を誤って命を落としかねない。
それを思い出させるのに、充分な言葉だった。
(貴女との約束は果たせそうにない。
申し訳ない、卯ノ花隊長。)
背中を追わせてくれと頼んだ彼女の義母に、心の中で謝る。
(私を殺せと命令するなど、最悪だ。)
今にも泣き出しそうな瞳に、懺悔が込み上げる。
(刑が決まった日、必ずこの子を守ろうと決めたのに・・・
そしてあれほど憎んだのに・・・)
「すまない・・・それでも私は、お前に生きていてほしいんだ。」
自分は言葉を尽くしたかった。
口数の少ない父に変わり、彼女に全てを伝えたかった。
誰かに仕えることで得られる緊張も、成長も、安堵も、喜びも。
その全てを到底伝えきれなかっただろう。
その一方で蓋をした言葉たちがある。
彼女への疑念、憎しみ、怨み。
その隠した全てが伝わらなかったかと聞かれれば、わからない。
そしてもうひとつ。
決して口にすまいと想い続けてきた言葉が今、涙と共に溢れようとしていた。
心に満ちる、最期の感情を。
「お前が・・・お前が愛おしいよ、咲。」
咲は目を見開く。
その思いが部下としてなのか、妹分としてなのか、一人の人としてなのか、女としてなのか、その結論は蒼純の中でも最期まで出ることはなかった。
それが考える為の時間が短かったからだとは、思ってはいない。
生きている限り、多くの感情に苛まれる限り、答えは出なかっただろう。
咲の涙が蒼純の手を転がり、それについていくように蒼純の手が地面に落ちた。
蒼純は終ぞ咲を殺せないままーー逝った。