朽木蒼純編
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
悲痛な声に蒼純は目を開けた。
仮面の面積は広がり、左目を残すだけとなった。
額から生える2本の折れ曲がった角は酷く攻撃的で、恐ろしい。
だが彼の中にそんな攻撃性が秘められている事に、咲はどこかで気づいていた。
白目と黒目が反転した両眼は、最早人とは思えないが、咲にとってはかけがえのない上司の瞳であった。
「そうだ私は、お前の・・・。」
仮面のせいでくぐもる声に咲は耳を澄ます。
「最期の命令だ。
・・・私を、月雫の刀で殺せ。」
その気迫に息を飲んだ。
「頼む。
私を虚に、反逆者にないでくれ!」
構えた刀が戦慄く。
自分がこの人を斬るべきではない。
斬られるべき人は自分であり、それは自分が彼への忠義を失した時だ。
そしておそらくそれは、永遠に来ない。
彼の心を護る為に、彼の身体を斬ることが正しいのなら、それこそが忠義なのだというのなら。
ー私を、斬ってくださいー
そう懇願したい。
咲は己の鋒 に目を落とした。
蒼純の最期は一心よりは自分が、とつい先に思ったばかりであるのに、いざ対峙するとその鋒は揺れる。
(迷ってはだめだ、私が・・・)
蒼純は咲の斬魂刀の本当の能力を知る数少ない人であった。
破涙贄遠 の能力は表立っては風殺系とされている。
解放時は象牙のように美しいランス(槍)となり、表面にある無数の穴から風を起こして攻撃するのが常であった。
それは学院時代に咲が看取った山本末雪の虚としての能力に酷似している。
それもそのはずで、破涙贄遠 の真の能力は、斬魂刀を記憶である。
一度刃を交えたことのある相手の斬魂刀を記憶し、相手が死した際にその魂の欠片を刃に呼び込み蓄積していく。
そしていざ咲が過去に交えた刃の解号を唱えると、破涙贄遠 に蓄積された魂が呼び起こされ、一時の間その斬魂刀が蘇るのだ。
末雪の魂は一番初めに咲の刀に取り込まれた故、解放時には自動的に彼の刀へと姿を変えていたということに咲が気づいたのは響河の一件が終息した更に後の話であった。
だから当然、咲が知る解号を唱えることで、彼女の斬魂刀は姿を変える。
「輝け、仁智燐 。」
黄金の刀身、柄頭には力強い陽を思わせる正円を持つ刀。
それを見た蒼純は、懐かしさに微かに目を細めた。
陽のような刀を振るう月雫は、持ち主である死神の霊力で出来ているということを体現するように、同じく陽のような明るい髪を輝かせて閃光のように戦った。
だが今その刀を構えるのは、深い深い黒い髪と、漆黒の瞳の、咲であり、陽と影が、互いの存在をより際立たせているように思えてならない。
喪った人を思ったからか、胸がひどく苦しくなり、蒼純は吠え、そして咲に斬りかかった。
切りかかってくる姿が一瞬、遠い昔に封印した上司に見えた。
きっと朦朧とした意識の彼の心にも同じ人物が浮かんでいる。
「これ以上っ!!」
蒼純の目には、咲1人しか映っていなかった。
目を逸らしたくても体が言うことを聞かない。
吸いつけられるように、見入ってしまう。
ーなんて、美味そうな・・・ー
聞こえてくる己の中の虚の声。
それが自分の声なのか、見分けがつかない。
確かにいつの間にか少女は女になっていた。
それだけ長い時間が過ぎていたのだ。
ようやく癒えつつあるように見えた義弟の傷であったのに。
(今度は私が彼女を傷つける。)
あれほど愛情だけでなく憎しみも抱いた女であるのに、いざ殺す時となると愛しさばかりが胸を占める。
その愛しさが己を狂わせる。
襲いかかられた咲は逆に懐に入りこみ、腹に拳を叩き込む。
激しく噎せると同時に、彼女の迷いを感じた。
(刀で刺し貫くこともできたろうに。)
「副隊長ッ!」
暗い瞳が蒼純をすがるように見上げた。
潤んだ瞳に捕らえられて逸らせない。
そしてそれが、あまりに食欲をそそる。
「お願いです、どうか。」
その体に刀身と化した腕が迫る。
「逃げろ!!!」
嫌な感触だった。
「なぜ・・・なぜ逃げないッ!!!」
悲鳴のような声に、咲は苦しそうに顔を歪めた。
それまでもが食欲を誘う。
奇しくも彼の手は昔村正が指し貫いた腹に深く刺さっていた。
その爪先から血が滴るのも、また同じ。
彼女に襲いかかる醜い己。
食べたいと思うほど侵されている己。
「私は・・・」
迫る白い仮面に咲は目を閉じた。
瞼に甦る日々。
初めて彼を見たのは、霊術院に視察に銀嶺と共に来た時だった。
優しい彼に、強い彼に、どれほど救われたか。
孤独からも、死闘からも、侮蔑の眼差しからも、彼は咲を守った。
頭を撫で、微笑みを向けた。
守り、生かした。
「生きろ咲ッ!!!」
そう叫ぶのに、蒼純の中の虚は、同時に叫ぶ。
ー今喰らってやるッ!!!ー
仮面の面積は広がり、左目を残すだけとなった。
額から生える2本の折れ曲がった角は酷く攻撃的で、恐ろしい。
だが彼の中にそんな攻撃性が秘められている事に、咲はどこかで気づいていた。
白目と黒目が反転した両眼は、最早人とは思えないが、咲にとってはかけがえのない上司の瞳であった。
「そうだ私は、お前の・・・。」
仮面のせいでくぐもる声に咲は耳を澄ます。
「最期の命令だ。
・・・私を、月雫の刀で殺せ。」
その気迫に息を飲んだ。
「頼む。
私を虚に、反逆者にないでくれ!」
構えた刀が戦慄く。
自分がこの人を斬るべきではない。
斬られるべき人は自分であり、それは自分が彼への忠義を失した時だ。
そしておそらくそれは、永遠に来ない。
彼の心を護る為に、彼の身体を斬ることが正しいのなら、それこそが忠義なのだというのなら。
ー私を、斬ってくださいー
そう懇願したい。
咲は己の
蒼純の最期は一心よりは自分が、とつい先に思ったばかりであるのに、いざ対峙するとその鋒は揺れる。
(迷ってはだめだ、私が・・・)
蒼純は咲の斬魂刀の本当の能力を知る数少ない人であった。
解放時は象牙のように美しいランス(槍)となり、表面にある無数の穴から風を起こして攻撃するのが常であった。
それは学院時代に咲が看取った山本末雪の虚としての能力に酷似している。
それもそのはずで、
一度刃を交えたことのある相手の斬魂刀を記憶し、相手が死した際にその魂の欠片を刃に呼び込み蓄積していく。
そしていざ咲が過去に交えた刃の解号を唱えると、
末雪の魂は一番初めに咲の刀に取り込まれた故、解放時には自動的に彼の刀へと姿を変えていたということに咲が気づいたのは響河の一件が終息した更に後の話であった。
だから当然、咲が知る解号を唱えることで、彼女の斬魂刀は姿を変える。
「輝け、
黄金の刀身、柄頭には力強い陽を思わせる正円を持つ刀。
それを見た蒼純は、懐かしさに微かに目を細めた。
陽のような刀を振るう月雫は、持ち主である死神の霊力で出来ているということを体現するように、同じく陽のような明るい髪を輝かせて閃光のように戦った。
だが今その刀を構えるのは、深い深い黒い髪と、漆黒の瞳の、咲であり、陽と影が、互いの存在をより際立たせているように思えてならない。
喪った人を思ったからか、胸がひどく苦しくなり、蒼純は吠え、そして咲に斬りかかった。
切りかかってくる姿が一瞬、遠い昔に封印した上司に見えた。
きっと朦朧とした意識の彼の心にも同じ人物が浮かんでいる。
「これ以上っ!!」
蒼純の目には、咲1人しか映っていなかった。
目を逸らしたくても体が言うことを聞かない。
吸いつけられるように、見入ってしまう。
ーなんて、美味そうな・・・ー
聞こえてくる己の中の虚の声。
それが自分の声なのか、見分けがつかない。
確かにいつの間にか少女は女になっていた。
それだけ長い時間が過ぎていたのだ。
ようやく癒えつつあるように見えた義弟の傷であったのに。
(今度は私が彼女を傷つける。)
あれほど愛情だけでなく憎しみも抱いた女であるのに、いざ殺す時となると愛しさばかりが胸を占める。
その愛しさが己を狂わせる。
襲いかかられた咲は逆に懐に入りこみ、腹に拳を叩き込む。
激しく噎せると同時に、彼女の迷いを感じた。
(刀で刺し貫くこともできたろうに。)
「副隊長ッ!」
暗い瞳が蒼純をすがるように見上げた。
潤んだ瞳に捕らえられて逸らせない。
そしてそれが、あまりに食欲をそそる。
「お願いです、どうか。」
その体に刀身と化した腕が迫る。
「逃げろ!!!」
嫌な感触だった。
「なぜ・・・なぜ逃げないッ!!!」
悲鳴のような声に、咲は苦しそうに顔を歪めた。
それまでもが食欲を誘う。
奇しくも彼の手は昔村正が指し貫いた腹に深く刺さっていた。
その爪先から血が滴るのも、また同じ。
彼女に襲いかかる醜い己。
食べたいと思うほど侵されている己。
「私は・・・」
迫る白い仮面に咲は目を閉じた。
瞼に甦る日々。
初めて彼を見たのは、霊術院に視察に銀嶺と共に来た時だった。
優しい彼に、強い彼に、どれほど救われたか。
孤独からも、死闘からも、侮蔑の眼差しからも、彼は咲を守った。
頭を撫で、微笑みを向けた。
守り、生かした。
「生きろ咲ッ!!!」
そう叫ぶのに、蒼純の中の虚は、同時に叫ぶ。
ー今喰らってやるッ!!!ー