学院編Ⅲ
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咲は相手の攻撃をかわしながら木々を飛び移る。
虚の爪が幹を裂き、通ったところだけが道のように開けた。
「欲しい……待て!」
(誰が待つか)
正面大きな木が見えてくるとスピードを上げる。
そしてその大きな幹を蹴り、今まで走ってきた方向、つまり虚の背後の斜め上に瞬歩で飛び上がる。
一瞬のことで虚は咲を見失った。
その瞬間に咲は霊圧を高める。
霊圧に押され、咲を中心に風が吹いた。
「雷鳴の馬車 糸車の間隙 光もて此を六に別つ」
狙いを定め、右手をつきだした。
「縛道の六十一 六杖光牢!」
6つのの帯状の光が胴を囲うように突き刺さり動きを奪う。
「な、何!?」
虚はなんとか逃げようとするが、咲の高められた霊圧の前に為す術もない。
咲はその様子から一瞬たりとも目を離すことなく、そのまま虚の頭に刀を向ける。
「渦風!」
斬魂刀の先端から気流が生まれ、咲の姿が見えなくなるほど激しくうねる。
そしてその竜巻が一瞬で虚の頭から地面へと走った。
辺りに一瞬爆風が走り、それがやむと草木が咲を中心に円状に刈り取られた。
虚の姿はない。
その代わり、体液の雨が空高くから降り注ぎ、地面に届く前に灰に変わり、その中で時折金色の砕けた六杖光牢が煌めいている。
汚れのない咲がその中ですくっと立ち上がった。
(……先が怖いくらいだぜ)
近くの木の上から様子を見ていた山本は目を細めた。
(変な奴らに目をつけられねぇと良いが)
突然鎌居達が虚の足を襲う。
訳も分からぬまま何本もの鎌居達によって腱が切断され、虚は悲鳴を上げた。
「今だ!」
浮竹が空を振り仰ぎ声をかける。
「はあぁっ!!」
月を背に刀を振り下ろすのは、姿をくらましていた京楽。
力いっぱい振り下ろした刀だったが、巨大な虚の仮面にヒビを入れる事しかできなかった。
(でかすぎる……)
京楽へと襲いかかる腕を、今度は浮竹が切りつける。
「ウォォォォォ!!」
虚が呻いているうちに2人は距離をとって木陰に隠れる。
「あれはとてもじゃないが一太刀じゃ無理だ」
悔しげに呟く京楽は、額から血を流している。
「大丈夫か?」
浮竹は眉を寄せた。
「うん、ちょっとくらくらするけど問題ない。
額の傷は打って出来たんじゃなくて引っ掻いただけだから」
そう言って笑う友に、安堵のため息をつく。
しかしすぐに顔を引き締めて作戦を練る。
「鬼道は使えないだろう。
たぶんあの虚は鬼道を吸収して、その霊圧を基にスピードを上げることができる。
ちゃんと分析できたわけじゃないから、鬼道を使わないからと言って油断は出来んが」
「うん、見てた。
確かに危険な橋は渡らない方がいい。
でも鬼道が使えないとなると辛いねぇ。
ボク達の斬術では悔しいがあの仮面はなかなか砕けない」
「いや、一太刀では難しいが、何度か攻撃すればいけるはずだ」
「まあそれもそうだけど、あまりに正面からぶつかりすぎてやしないかい?
何か策を練った方が」
京楽と浮竹は虚をうかがいながら少しの間頭をひねる。
虚はどうやらもう回復したらしく、2人を探して徘徊している。
「……やっぱり試してみるしかないか、な」
「だな」
立ち上がると刀を握り直す。
「嫌なやり方だが、仮面は最後だな。
腕と足を落とす方がいい」
「仕方なさそうだ。
じゃあボクは左をいこう」
「では俺は右だな」
2人は拳をぶつけ合うのを合図に、それぞれ虚の左右に走り出す。
そして、2人は同時に飛び上がった。
京楽は左手を、浮竹は右腕を切りつける。
しかし腕が太く、一太刀では斬り落とせない。
「グァァァァァ!!」
虚が痛みのせいか暴れ始める。
反対側の樹の幹に着地し、すぐに蹴ってまた攻撃するが、暴れているせいで同じ場所を狙いにくい。
それは京楽も同じで、傷は増えるもなかなか斬り落とせないようだ。
再び今度は足に攻撃を加える。
愚鈍な虚には何が起きているのかは分からないようだが、大きな体と、暴れているせいでなかなか決着がつかない。
地面に一瞬足をつけ、すぐに折り返して傷が治る前にもう一撃くわえる。
ようやく右腕が落ちた。
「ギャァァァァ!!」
先に落ちた右に虚は狙いを定めるようで、京楽の方に背を向け、残りの手足をばたつかせ、何とか浮竹を捕えようとする。
少し攻撃の手を緩めると、回復能力が高いため傷がどんどん治って行ってしまう。
虚の手足を避けて、2人は攻撃を続ける。
(刀がもう一本ほしいくらいだ!)
着地してすぐにまた跳び、足を切りつける。
京楽が左腕を切り落としたらしく、ドゴッと音を立てて腕が落ちた。
「ガァァァァ!!」
(もう一本あったら……!)
ー欲しいの?
もう一本ー
不意に声が聞こえた。
ー欲しいの?
僕らー
空耳かと思ったが、再度聞こえた声に、誰かが話しかけているのだと気づく。
その時には浮竹は見覚えのある水底にいて、ふわふわと漂っていた。
ー君がほしいというなら、いいかなー
ー君が名前を呼んでくれるなら、いいかなー
何かが近づいてくる音がする。
水の中を、泳いでくる、何か。
気配は二つだ。
浮竹の心臓が大きく脈打つ。
そして、彼らは浮竹の目の前に現れた。
白い髪が、その流れによってふわふわと揺れる。
ーー待っていたよーー
目を閉じる。
今ならできる気がした。
心が思うままに、口を動かす。
「波悉く我が盾となれ 雷悉く我が刃となれ 双魚理!!」
刀が光を帯び、2本に分かれた。
その様を目にした京楽が目を見開く。
浮竹は微笑んだ。
(俺も、待っていたさ)
そして2本を振りあげる。
(お前たちを!)
「ガァァァァァ!!!」
悲鳴の中、浮竹の振り上げた2本の斬魂刀を大きく振りおろす。
巨大な虚の仮面が、ようやく砕け散った。
それと共に浮竹もその場に崩れ落ちた。
「浮竹!」
京楽が駆け寄り、抱き起こすと、どうやら発作が起きたらしくごほごほとむせている。
「やった、か……?」
咳の間に辺りを苦しげに見回すから、京楽は思わず苦笑した。
「もちろんだよ、君のお手柄だ」
「ちがっ……おま、えが……」
「あぁ、もういいから」
必死に否定するところが憎めないやつだと、京楽は天を仰ぎながら背中をさする。
そして、
「始解、おめでとう」
ただ一人取り残された寂しさと、悔しさをかみしめながら、なんとかそう呟いた。