朽木蒼純編
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額に冷たい何かが触れる感覚があって、緋真は目を開けた。
そこには少し眉を寄せた白哉がいた。
「・・・起こしてしまったか。
まぁ、ちょうど良い。
少し待っていろ。」
そう言うと緋真が止める間も無く部屋から出て行ってしまった。
何やらかちゃかちゃと音がして、彼が再び部屋に戻ってきた時にはお盆を持っていた。
枕元に置かれたその中身は、美味しそうに湯気を立てる卵粥。
すりおろしたリンゴもある。
「まさか、白哉様が?」
「まさかとは失礼な。」
不機嫌そうに眉を顰める。
「だって、白哉様は貴族のご子息で・・・」
緋真とて流魂街に来るまで料理などしたことがなかった。
上流貴族である白哉が料理をしたことがあるなどとは、夢にも思わなかったのだ。
白哉は粥を混ぜてふぅふぅと冷ましながら、小さく笑った。
「死神は遠征もある。
野営する事もあるのだ、簡単な料理はできる。
起きられるか?」
1つ頷き、ゆっくりと起きる。
白哉が家に来た時よりは幾分回復しているようだ。
これならば食べられるだろう。
差し出される椀を礼を言って受け取る。
一口、食べると卵の風味と米の甘さが口に広がった。
「おいしいです。」
思わず破顔すると、白哉も淡く微笑んだ。
「しっかり食べて早く治せ。」
咲に出会ってから人生は180度変わった。
沢山の優しさを与えられ、自分で生活できるようになった。
そして、大切な人達に出会えた。
「白哉様はお優しいのですね。」
今までのようには会えなくなると思うと、少し寂しい。
友達でもあり、兄のようでもあった彼は本当はこんな流魂街にいるはずもない、四大貴族。
気が強く不器用なところもあるが、思い遣りがあり困っている人を放っておかない優しさが彼にはあった。
それにどれほど助けられたか。
「私が生きていた頃、貴族が庶民の看病をすることなどありえませんもの。」
白哉は緩く首を横に振り、照れたように視線を外す。
「偶然だ。
偶然お前が1人で熱を出したところに私が来ただけだ。」
「偶然にこそ人の本性が表れるもの。
白哉様は、心優しい当主様に、そして隊長になるわ。
きっと、たくさんの人に慕われる、素敵な人に。」
紫藍色の瞳に見つめられ、白哉は彼女の瞳はどうしてこれほど澄んでいるのだろう、と思った。
まだ幼く世を知らないというだけではない。
彼女の心こそ真っ直ぐで、素直で、しなやかで、そして。
(美しいーー)
いつの間にか降り始めた雨の音が2人の耳に届いた。
2人は一緒に窓に目を向け、そして互いのその行動に気づく。
そんな何でもないことが幸せなのだと、言葉に出さずとも共感し、顔を見合わせて微笑みあった。