朽木蒼純編
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「緋真ちゃんは、人当たりがよさそうだね。」
「ああ。
流石庶民と言うところか。
誰に対しても正直で、分け隔てなく親切だ。」
「そうなんだね。
随分気に入っているようじゃないか。
君は言葉遣いだの礼儀作法だのに厳しいのに。」
「断じて違う!
私は客観的な意見を述べたまでだ。
緋真は咲が選んだ者が礼儀作法を教えている。
その者も庶民で隠居もしているが、朽木家ともやりとりのあった商人の娘だ。」
「なるほど、そりゃ安心だ。」
浮竹もうんうんと頷く。
咲はそんな様子がどこか態とらしく、笑いをかみ殺す。
「緋真ちゃんは、反物は好きかい?」
「はい、見ていて幸せな気分になります。」
「そうかい。
算盤は得意かな?」
「苦手、とは感じません。」
「いいことだ。
手習いは?」
「前のお稽古の時のものを取ってきてください。」
書棚から数枚の紙を持ってきて、恥ずかしげに咲に渡す。
咲はそれを見て1つ頷いてから2人の前に広げた。
「なかなか上手いじゃないの。」
「ああ、とてもよく書けている。」
緋真は嬉しそうにはにかむ。
「現世にいた頃、父によく習っていました。」
浮竹と京楽は顔を見合わせて頷き合った後、咲に目を向けた。
「僕達の目から見ても、充分やっていけると思うよ。
呉服屋の主人も奥さんも気の置けない良い人だ。
心配いらない。」
咲はほっと溜息をつき、それとは逆に白哉は驚いたように目を見開いた。
(いつか奉公にという話は聞いてはいたが、まさか)
「そんなっ・・・」
思わず声をあげてしまい、4人の8つの目を向けられ、白哉は戸惑う。
緋真までもが不思議そうに自分を見上げているところ、このことを知らなかったのは自分だけだったのだろう。
確かに成長はしたとはいえ、白哉にとって緋真はまだ子どもだ。
保護者が必要で、誰かが匿ってやらなければならない、弱い存在なのだ。
「緋真が、本当に奉公に出る、と?」
ぽろりとこぼれた疑問。
「そうです。」
咲に当然のように答えられ、白哉は口籠る。
彼女の答えに白哉が介入する余地は見いだされない。
白哉は手を膝の上で握りしめた。
自分が部外者なのは分かっている。
(だが、私は・・・)
この家に溢れた暖かな思い出が胸に押し寄せる。
その中央には、花のような笑顔の緋真がいた。
素直で、温かい陽だまりのような、子どもが。
この家は父の物で、遠征の多い咲がそれを借りているのだと聞いた。
だがいつの間にかこの家は、緋真の物だと勝手に思い込んでいた。
彼女がここにいないことが本来であるなどということは、疾うに忘れてしまっていたのだ。
だがふと咲の言葉を思い出す。
ー私はいつまでも緋真さんと一緒にいられるわけではありません。
いつか緋真さんが、この流魂街で自立して生きていくことが何よりも大切なのです。ー
(咲は、死神だ。
特に危険な任を受けることが多い。
そして、そういう私とて、明日何があるか分からない身。)
その時に彼女が1人で生きて行くために生きる場所を作ることこそ、一番なのだという話は白哉にも充分理解できる。
白哉は胸の内の感情を吐き出すようにためいきをついた。
「・・・お前はそれでいいのか?」
紫藍色の瞳が、白哉を見上げ、微笑む。
簪の兎がちりんと揺れた。
「はい。
私頑張ります。
貴族の白哉様がお店に来てくださるくらい、頑張ります。」
その表情は凛として、強ささえ感じた。
幼い子どもだと思っていたのは、自分だけなのかもしれないと、白哉は肩の力を抜く。
「そうだな、いつか・・・行ってやってもいい。」
緋真はぱっと顔を輝かせ、嬉しそうに頷いた。
「はい!
約束ですよ!」