朽木蒼純編
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「呉服屋さん?」
緋真は目を瞬かせる。
「そうです。
私もこんな仕事についている以上、いつ命を落とすか分かりません。
緋真さんは、この流魂街で、自分の力で生きていかねばならないのです。」
少女は俯いて少し考えてから、再び咲を見上げた。
「私も死神になりたいです。」
咲は首を振った。
「おすすめできません。
剣拳走鬼、いずれの才能も不可欠ですが、残念ながら緋真さんには・・・」
「わ、わかっています。
あの白哉様でさえ日々血の滲むような努力をされているのですもの。」
自分でいうのも悲しくなるが、緋真は自分に何一つないことは十二分に自覚している。
あるとすれば、霊圧の高さだけだ。
それもこの流魂街で生活するには、空腹の原因になるばかりで、何ひとついいことなどない。
咲の言う通り、奉公に出るのがもっとも堅いだろう。
「わかりました。
私、呉服屋さんで精一杯頑張ります。」
彼女にはこの5年ほどの間、少しずつ料理、礼儀作法、教養をはじめ、様々な教育を行ってきた。
その間に少しずつ女性の階段を上り始めた緋真は、勘が良く飲み込みも早かった。
今では呉服屋に奉公に勤めても遜色ないであろうと咲は思っている。
咲にとって少女はいつの間にか、妹であり娘のような存在になっていた。
そんな彼女を奉公に出してしまうのは、正直なところ寂しくもあるが、彼女のこれからのためである。
穏やかに微笑むと1つ頷いた。
「本当にありがとうございます。
私・・・嬉しいです。」
緋真は強く決意した目で咲を見つめる。
「私、実は・・・犬吊に来た時、幼い妹も一緒でした。
でも私、生活に困って・・・その子を・・・」
一度俯いた緋真に、彼女の言葉の先を悟った咲はそっとその肩に手を乗せた。
「無理にお話ししなくても。」
だが少女は首を振る。
「私は、あの子を捨てたんです。」
膝の上の拳は震えていた。
「なんて事をしたんだろうと、後悔しない日はありません。
私はこうして毎日穏やかに過ごしていて、あの子はどうしているのかと思うと・・・」
出会った日に泣きながら何度も謝っていたのはこの事だったのかと、咲は目を細める。
まだ自分自身も幼かった緋真に、妹ともに犬吊で生き残る事など不可能に近い。
「そんな私が言う権利なんてないんですけれど、あの子は生きていると思うんです。
私はあの子を迎えに行きたい。
謝りたい。
一生懸命働いて、あの子を・・・幸せにしたい。」
涙を浮かべた瞳は強い。
「だから、教育をしてくださって、その上奉公先を探してくださったことに、本当に感謝しているんです。」
咲は深く1つ頷く。
「願いと言うのは、悲しいことに叶う事は稀です。」
静かな咲の言葉に、緋真は表情を固くする。
「ですが願い続けなければ叶うことはない。
・・・緋真さん。
その願いを、大切にしてください。」
この人はどれほど願い、どれ程叶えたのだろう。
そしてどれ程打ち砕かれたのだろう。
その過去を感じさせる寂しくも穏やかな表情に、緋真はしっかりと頷いた。
それを確認すると、咲は空気を変えるように明るく笑った。
「紹介したい方がいるんです。」
その言葉に緋真はことりと首をかしげる。
咲は立ち上がると扉を開けて、外で気配を消して待っている男に声をかけた。
「京楽、浮竹。」
久しぶりに見る私服姿の二人に、思わず微笑む。
ここに来てもらうことになった時に頼んでおいたのだ。
目立たないように、私服で、と。
だが霊圧も高く、同期の贔屓目かもしれないが、見目優れた二人。
私服であったとしても、やはり街を歩けば目立ったことだろうと思う。
先に中に入ったのは京楽だ。
「こんにちは、緋真ちゃん。」
「・・・こんにちは。」
突然現れた大きな男に、緋真は小さい声で挨拶をした。
そんな友をよいしょ、と押して浮竹も入ってくる。
彼はしゃがんで視線を合わせ優しく微笑みかけた。
「心配するな、取って喰やしないさ。
こんにちは。
俺は浮竹。
あいつは京楽だ。」
鳶色の瞳に見つめられ、緋真は頬が赤らむのを感じる。
「ここで止まるな、邪魔だ。」
さらにその後ろから声がして、咲と緋真は驚いたように目を向けた。
「白哉様!
今日はどうされたんですか?」
「近くまで来たら、二人に会って・・・頼まれてな。」
無邪気な問いに、そっぽを向きながら白哉は口早に答える。
その理由の言い様に、浮竹と京楽は顔を見合わせて小さく笑い合った。
「上がって。」
咲の言葉に、それじゃあ、と3人は草履を脱ぐ。
「お茶を入れてきます。」
緋真はそう笑顔で家の奥へと入っていった。
「かわいい子じゃないか。」
浮竹が腰かけながら咲に話しかける。
「うん。
生前は貴族だったらしいから、身のこなしにも品がある。」
「それは何よりだ。
身体に染み付いたことっていうのは、ひょんなことで出てしまうからねぇ。」
咲と彼らのやりとりに、今日ここにやってきた理由がいまいち掴めず、だからと言って尋ねるのも癪で、白哉は口を結んだままいつもの席に着いた。
緋真が落ち着いてお茶を出し、全員そろったと、京楽が口を開いた。
「じゃあ白哉くん。」
京楽のどこかわざとらしい声に、白哉が睨む。
「なんだ。」
「そう怖い顔しなさんな。
手伝ってくれると言ったじゃないか。」
にんまりと笑う様子に、こういう時の彼は嫌いだと、顔を引きつらせた。