朽木蒼純編
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光の収束し、その跡地は蒼純1人の背中以外、何もない。
虚もすっかり姿を消していた。
狛村と咲の瞼には、美しい輝きがまだ残っている。
そしてその記憶の中央にいる強い背中がある。
病と闘う細身の、それでもやはり凛々しい副隊長の背中が。
だがゆっくりと振り返るその人は、顔色がひどく悪い。
「大丈夫かな?」
それでもそう心配そうに問いかける様子は、直前までの冷酷さを微塵も感じさせない、穏やかで部下を気遣う優しい副隊長であった。
「は、はい!」
答える狛村の横を走り、咲は蒼純に駆け寄る。
これだけの技を使えば彼が倒れることを、知っているからだ。
支えようとすると蒼純に鋭い視線と手振りで制され、咲は戸惑いを隠せないまま、引き下がり、片膝をついて視線を爪先に落とした。
「もう一度問う。
お前は誰の部下だ。」
厳しい声が降ってきた。
咲ははっと顔を上げる。
鋭い眼光は、嘘をつくことを許さない。
だが咲の持つ答えはただ1つであり、それを偽る必要もない。
紛れも無い真実である。
「蒼純副隊長、貴方です。」
はっきりとした声に、蒼純は一瞬、泣きそうな顔をして微笑んだ。
それだけこの人は自分の事を思っていてくれたのだと思うと、咲は自分が孤独だと一瞬でも思った事を恥じた。
己の置かれた状況を悲観したことを悔いた。
(私はこの方に、死ぬまで着いて行く。)
咲の頬に涙が伝う。
そんな咲の頭を撫でようとして、蒼純はそのまま力尽きたように倒れ込む。
咲はそれを受け止めるとゆっくりと地面に横たえ、頭を膝に乗せた。
彼の頬に涙が落ちて、慌てて拭う。
「怪我をされたのか?」
慌てて駆け寄る狛村に首を振る。
「霊圧の使い過ぎでお身体に障ったのでしょう。」
2人は上司の青い顔を見つめる。
彼が倒したのは虚だ。
彼が刀を向けたのも、虚だ。
だが、蒼純が戦ったのは咲の記憶であり、咲の後悔であり、懺悔であり、憧れであり、良い意味でも悪い意味でも、護挺での彼女を、彼女たらしめたものだ。
彼は普段使わない己の魂の片割れである斬魂刀で、それを切った。
己の身体を傷つけるのに。
(私は、この方を命に代えてでも守る。)
咲の濡れた拳を狛村は見つめ、彼女の決意の瞳を見た。
涙を浮かべる様は少女のようなあどけなさを残しながらも、誰よりも強く、そして何処か脆くみえた。
彼女の能力は高い。
自分を守った鬼道で明白だ。
鬼道だけで言えば、狛村を優に上回るだろう。
先程見た剣の腕も、一桁台の席官と並んでも何ら遜色ない。
だが、彼女はまだ弱い。
副隊長という存在があろうと、その唯一の存在に依存する彼女は、圧倒的に孤独なのだ。
(彼女は副隊長のために、命をかけるだろう。)
それは深い関わりを持たない狛村にも一目瞭然だった。
2人の関係は、狛村が思っていた以上に、そして本人達が認識していた以上に複雑だった。
義弟が殺そうとした部下。
彼女に妻を殺された夫。
反逆者である義弟を封印した部下。
息子の命を救われた父。
そして、その罪人を尚も忘れられなかった部下。
彼女を憎いほどに思う上司。
だが今、その関係を超えた固い信頼が2人の間にあると感じる。
互いに命をかけるほどの。
だがそれが、彼らにとって幸を招くとは思い難い。
彼らはそれ程迄に強く、闇を抱え、一方は責務を担い、また一方は孤独だ。
「お前は・・・」
気づけば話しかけていて、狛村は次の言葉を迷う。
願うことは多い。
だが叶うことは極めて稀だ。
「間違えるな。」
そう言ってから、それだけでは伝わらないと、言葉を続ける。
「副隊長は、お前を守った。
お前の命は、お前一人のものではない。」
咲は力強く頷いた。
「それから・・・」
言葉を続けようか一瞬迷ってから、狛村は少し照れたように早口で続けた。
「儂はお前に借りがある。
次は儂が、お前を守ろう。」
一瞬きょとんとしてから淡く微笑み、はい、と頷く姿に、彼女にもこんな可愛らしさがあるのかと、狛村も思わず微笑んだ。
虚もすっかり姿を消していた。
狛村と咲の瞼には、美しい輝きがまだ残っている。
そしてその記憶の中央にいる強い背中がある。
病と闘う細身の、それでもやはり凛々しい副隊長の背中が。
だがゆっくりと振り返るその人は、顔色がひどく悪い。
「大丈夫かな?」
それでもそう心配そうに問いかける様子は、直前までの冷酷さを微塵も感じさせない、穏やかで部下を気遣う優しい副隊長であった。
「は、はい!」
答える狛村の横を走り、咲は蒼純に駆け寄る。
これだけの技を使えば彼が倒れることを、知っているからだ。
支えようとすると蒼純に鋭い視線と手振りで制され、咲は戸惑いを隠せないまま、引き下がり、片膝をついて視線を爪先に落とした。
「もう一度問う。
お前は誰の部下だ。」
厳しい声が降ってきた。
咲ははっと顔を上げる。
鋭い眼光は、嘘をつくことを許さない。
だが咲の持つ答えはただ1つであり、それを偽る必要もない。
紛れも無い真実である。
「蒼純副隊長、貴方です。」
はっきりとした声に、蒼純は一瞬、泣きそうな顔をして微笑んだ。
それだけこの人は自分の事を思っていてくれたのだと思うと、咲は自分が孤独だと一瞬でも思った事を恥じた。
己の置かれた状況を悲観したことを悔いた。
(私はこの方に、死ぬまで着いて行く。)
咲の頬に涙が伝う。
そんな咲の頭を撫でようとして、蒼純はそのまま力尽きたように倒れ込む。
咲はそれを受け止めるとゆっくりと地面に横たえ、頭を膝に乗せた。
彼の頬に涙が落ちて、慌てて拭う。
「怪我をされたのか?」
慌てて駆け寄る狛村に首を振る。
「霊圧の使い過ぎでお身体に障ったのでしょう。」
2人は上司の青い顔を見つめる。
彼が倒したのは虚だ。
彼が刀を向けたのも、虚だ。
だが、蒼純が戦ったのは咲の記憶であり、咲の後悔であり、懺悔であり、憧れであり、良い意味でも悪い意味でも、護挺での彼女を、彼女たらしめたものだ。
彼は普段使わない己の魂の片割れである斬魂刀で、それを切った。
己の身体を傷つけるのに。
(私は、この方を命に代えてでも守る。)
咲の濡れた拳を狛村は見つめ、彼女の決意の瞳を見た。
涙を浮かべる様は少女のようなあどけなさを残しながらも、誰よりも強く、そして何処か脆くみえた。
彼女の能力は高い。
自分を守った鬼道で明白だ。
鬼道だけで言えば、狛村を優に上回るだろう。
先程見た剣の腕も、一桁台の席官と並んでも何ら遜色ない。
だが、彼女はまだ弱い。
副隊長という存在があろうと、その唯一の存在に依存する彼女は、圧倒的に孤独なのだ。
(彼女は副隊長のために、命をかけるだろう。)
それは深い関わりを持たない狛村にも一目瞭然だった。
2人の関係は、狛村が思っていた以上に、そして本人達が認識していた以上に複雑だった。
義弟が殺そうとした部下。
彼女に妻を殺された夫。
反逆者である義弟を封印した部下。
息子の命を救われた父。
そして、その罪人を尚も忘れられなかった部下。
彼女を憎いほどに思う上司。
だが今、その関係を超えた固い信頼が2人の間にあると感じる。
互いに命をかけるほどの。
だがそれが、彼らにとって幸を招くとは思い難い。
彼らはそれ程迄に強く、闇を抱え、一方は責務を担い、また一方は孤独だ。
「お前は・・・」
気づけば話しかけていて、狛村は次の言葉を迷う。
願うことは多い。
だが叶うことは極めて稀だ。
「間違えるな。」
そう言ってから、それだけでは伝わらないと、言葉を続ける。
「副隊長は、お前を守った。
お前の命は、お前一人のものではない。」
咲は力強く頷いた。
「それから・・・」
言葉を続けようか一瞬迷ってから、狛村は少し照れたように早口で続けた。
「儂はお前に借りがある。
次は儂が、お前を守ろう。」
一瞬きょとんとしてから淡く微笑み、はい、と頷く姿に、彼女にもこんな可愛らしさがあるのかと、狛村も思わず微笑んだ。