学院編Ⅲ
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「2匹の虚の存在が確認されている。
京楽と浮竹は2人で1匹。
空太刀1匹だ」
木立の中を駆けながら、獄寺の指示を受ける。
「空太刀はここから西に13キロ、2人は南に12.5キロ。
霊圧をたどっていけ。
良いな?」
「「「はい!」」」
3人は短く返事をする。
背後から微かな霊圧が迫ってくる。
それはよく知ったもので、4人は振り返ることはない。
既にここは、命を懸けた任務の場なのだ。
「行け!」
獄寺の命令に従い、3人はそれぞれ標的へと進行方向を変えてスピードを上げた。
逆に獄寺は立ち止まって、後ろを振り返る。
「山本遅ぇぞ」
獄寺は舌打ちをする。
「わりぃ、鮫島さんとちょっとな」
「何かあったのか?」
「いや。
また近いうちに来るみたいだった」
「そうか」
2人はそれだけ話すと、それぞれ追いかける。
山本は咲、獄寺は2人を。
霊圧は確かに近づいている。
咲はスピードを更にあげた。
小さな空き地があるのが、幹の間から見て分かる。
刀を握り、大きく跳んだ。
木立を抜け現れたのは、白い仮面と禍々しい霊圧。
すぐさま抜刀し、呟く。
「悲涙流れし 血を啜れ いざ目覚めよ 破涙贄遠」
刀は一瞬で象牙でできた大型の
そして次の瞬間には虚の首が吹き飛んでいた。
虚が悲鳴を上げる間も与えなかった。
せっかく闇に溶ける服を着ていても、これだけ目立つ姿の斬魂刀を始解して持ち歩いていては意味がない。
ギリギリまで姿を隠し、不意打ちを狙うのが今回の作戦だった。
木の上に登り、虚の姿をじっと見つめているが、一向に灰にならない。
ふいに虚の身体が波打ち、変形した。
傷口は見る間に塞がり、歪なその体のどこからともなくもうひとつの頭が現れた。
(厄介な)
始解も済ませた咲が虚の1体程度すぐに倒せることは山本達も知っていた。
だからこその選択だ。
虚は咲の姿を認めると、にちゃりと笑う。
月が照らすその体には、いくつも頭があった。
表から見えるだけで3つ。
人の頭蓋骨に見えるそれは、きっと喰らった人のものだろう。
(おぞましい)
「イイ顔だァ……欲しい」
(全ての頭を潰して行くか、まるごと消滅させるか)
どちらにせよ、手間がかかりそうだ。
咲は静かに霊圧を左手に込めた。
木陰に身を潜め、2人は様子をうかがう。
比較的図体は大きい虚で、2人の5倍程は在るだろうか。
愚鈍な様子だが、パワーはありそうだ。
木を容易く根こそぎ倒して歩いていく。
何度見ても虚の不気味な姿になかなか慣れることはない。
「計画通りいぞ」
浮竹の言葉に京楽も頷く。
「ああ」
2人は顔を見合わせ、そして京楽が虚を挟んで浮竹の反対側に移動する。
虚に気づかれる前に、2人は向かい合って左手を前につきだした。
「「縛道の十二 伏火」」
2人が同時に唱え、左手からクモの巣状に伏し火が虚に向かって伸びる。
虚も異変に気付いたが、逃げる暇もなく、両側からの網に捕えられてしまう。
浮竹の網と京楽の網が絡まり合い、ひとつになった。
片方の網を抑えるものがいなくなっただけで逃げられるものでもないと判断し、浮竹はその時点で網から手を離し、姿を消した。
しかしそれが甘かった。
「うわっ!」
虚が大きく腕を振りまわすと、京楽がそれに従って振り回されてしまったのだ。
「京楽!」
思わず隠れていることも忘れて京楽の方へと飛び出す浮竹。
「集中しろ!
綴雷電!」
黄色い電撃が虚を襲い、虚の動きが一瞬激しくなり、そのまま京楽は樹の幹に叩きつけられ、姿が見えなくなる。
「京楽!」
咄嗟に探そうとするが、なんとか踏みとどまる。
(今は目の前の敵を倒さねば2人とも殺られてしまう)
浮竹は刀を握りしめ木の裏に姿を隠し、様子をうかがう。
「どこだァどこに落ちたァァァ……」
浮竹と京楽を探しているのか、辺りを徘徊する虚。
焼け焦げた伏火が辺りを飛ぶが、虚は無傷のようだ。
(効いていない!?)
だがじっとしていても倒すことはできない。
愚鈍なのが幸いだと、浮竹はまず瞬歩で虚の足の裏に回り込み、腱を叩き斬る。
倒れた所を正面に移動して赤火砲を放ち、畳みかけるように上から襲いかかるも、思いのほか早い動きで防がれてしまう。
そうしているうちに足の傷が治っていく。
(……治りが早い)
新しい策を練らねばと、木陰に身を潜める。
辺りを見回して京楽を探すも、姿は見えない。
霊圧も隠しているのか、それとも消えているのか分からない。
(無事でいてくれるといいんだが)
問題は予想よりも速い動きを見せたこと、そして治癒能力が高いことだ。
何かきっかけがあると早く動けるのかもしれない。
(まさか!)
浮竹は試しに、充分に距離を取った上で背後からもう一度赤火砲を放つ。
愚鈍さ故にか、背中に命中した。
そこまでは問題がなかったのだ。
次の瞬間、浮竹は目を見開く。
あれほど愚鈍であった虚の腕が大きく振りあげられ、目の前にあったのだ。
今までのスピードとは比べ物にならず、慌てて飛び上がるも足に腕が当たり、バランスを崩し投げ出されるように地面に転がる。
(鬼道攻撃の霊圧を吸収して、次の動きのスピードを上げるのに使っているのか……?)
確証はない。
だが、これ以上観察している時間はなさそうだ。
(鬼道なしで、この巨体を倒すのは骨が折れそうだ……)
目の端に浮竹は何かを捕え、少し考えてから身を低くして、地面を蹴った。