朽木蒼純編

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己の愚かさに身が震えた。
あのままでは目の前の幻覚に惑わされて無残に死ぬ所であった。
身体はひどく重く、霊圧がかなり減っている。
虚に何かされたのは明白だ。

「お前が相手をすると言うのか蒼純!」

の前に立ちはだかる凛々しい黒い背中の向こうで、虚は響河の声で叫んだ。

「大罪人の姿をしてなにを偉そうに言う。」

冷たい蒼純の言葉に、虚は目を見開いた。

「大罪人であるのか!
となれば其奴も大罪人か?
では喰らうても問題あるまい!」

響河の姿の虚がを見据えて舌舐めずりをする。
はどこか嫌な予感がした。

「どう言う意味だ?
なぜ彼女が罪人と言える?」

「どうせお前らも数分後には俺の腹の中だ。
教えてやっても問題はない。」

虚は高笑いをして、言葉を続けた。

「俺はその者の霊圧を使い、その者の心の中にある一番強い者の姿となることが出来る。」

の顔は蒼ざめ、思わず叫んだ。

「違う!
最もお強いのは、総隊長だ!」

その必死なを見据え、虚は酷く楽しげに笑った。

「俺が姿を持つために必要なのは、明確なイメージだ。
つまり、戦いを良く見、強く記憶に、心に残っている者ということになる。」

狛村が虚を発見したときに五席の姿であったのは、彼の部下の記憶を読み取ったからだ。

「そして憧れを含む記憶は、実際よりも強い事が多い。」

が言葉を無くした。

「お前の記憶は邪魔が入ったせいで途中までしか見えてはおらんが、大罪人を今なお慕うとは!!!
愚かな小娘め。
その上!」

虚は蒼純に嘲笑を向けた。

「響河の義兄であり、副隊長のお前が今の上司であるのに。」

「黙れっ!!!」

は叫び、蒼純の横を風のように駆け抜けて虚に躍り掛かった。
だが虚はの記憶通り逃げる。
どれ程激しい剣戟も、全てを見通したかのような余裕で。
忘れられない人の顔をして。

「やめろ。」

掛けられた一言に冷水を浴びせられたように感じ、は動きを止めた。

「退がれ。」

蒼純が、目を見開き固まるに近づく。

「私の命令が聞けないのか。」

冷たい視線に射抜かれ、咲は固くなった身体で無理にぎこちなく首を振り、よたよたと後退する。

「いえ、申し訳、あり、ま、せん。」

その隣を、銀白風花紗をはためかせ颯爽と蒼純が歩く。

「残念ながらお前が化けた相手は、私が殺したくて殺したくて仕方がない相手なのだ。」

目の前の背中はそう言って静かな怒りに燃えていた。
戸惑いを抱えたの姿とはまるで違う。
そこにあるのは、敵を殺す目をした、一人の男の背中だった。

「・・・それは楽しめそうだ。」

その背中に臨む虚の顔は、の記憶の響河そのものだった。
が敬愛し、付き従い、命を懸けた、その人だった。
その声も、全て、正にその人であった。
どれほど傷つけられようと、死の淵まで追いやられようと、彼はを始めて取り立ててくれた、信頼してくれた上司。
忘れられない人であった。
は視線を足元に落とした。
響河への後悔と、蒼純への畏怖に近い懺悔に身体が震えた。

「面を上げろ。
目を背けるな。」

静かであるのに、鞭打つような蒼純の言葉に弾かれたように顔を上げる。
視線の先には、冷たいまでの背中がある。
を虚から庇った背中が。

(そうだ、なぜ、副隊長は、私を庇ったのだろう・・・)

心の奥底の裏切りを暴いたと言うのに、その背中は冷たいのに、誰よりも強くを守る。

「お前は誰の部下だ?」

それはほんの少し前までは自明な問いであるはずであったが、目の前の虚が響河の姿をとった今、非常に複雑な問題を孕む。

「わ、たし、は・・・」

虚の指摘は正しい。
咲の中で、忘れられない上司・・として、響河がいるのだ。
そして彼を超える上司に出会っていないから、虚は響河の姿となった。
だが。



「そこで直って見ていなさい。」



蒼純の厳しい声に、は震える。
彼は、そこに直り居ることを命じた。
つまり、蒼純は部下・・として導こうとしているのだ。

そしてこの時初めては、響河を思い出さないようにと蒼純が様々な工夫をしていてくれたことに気づいた。
呼び名も、労わる時の頭の撫で方も、必ず帰ることを誓わせるのも、彼がを過去から守ろうとしていたから。


「はいッ!!!」


は短くそう答え、狛村の少し後ろまで下がる。

「案ずるな。
副隊長の補佐は儂がする。」

背中ごしにそう言う大男に、は辛そうに俯いた。

「だからお前はしっかり目を開けて、目の前の戦いを見ておれ。
蒼純副隊長がどれほどお強いか。
お前の記憶にある男等より、副隊長はよほど強いことを、しかと見届けろ。」

は唇を噛み締めた。

「よいな。」

鉄笠の隙間から、強い瞳に負けじと、は深く頷いた。

「はい!」
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