朽木蒼純編
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蒼純は、狛村と咲はどこか似ていると思っていた。
例えば物音に対して過敏なところ。
反射神経が良く、瞬発力がずば抜けていること。
勘が鋭いところ。
自分達とは違う、体に染み付いたセンスがある。
死神としてと言うよりは、生物として。
狛村の鉄笠と手甲の下を知る身としては、やはり獣と呼ばれるものは違う、という感想を抱かざるを得ない。
だからこそ、この二人を近づかせたかった。
この二人なら、分かりあえることがあるに違いないと確信していた。
いつまでも自分が彼女を導けるなら、それに越したことはないだろう。
だが死神である以上、また病弱である以上、それは叶わぬことだ。
義弟に傷つけられ、四番隊のベッドに横たわる彼女を前にしたあの日、蒼純は彼女に、そして彼女の養母に酷く申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
ー義兄として、上司として、不甲斐なく、申し訳ないと思うのです。ー
そう思わず溢れた言葉に、養母烈は静かに言った。
ー蒼純副隊長、この子は更木で生まれ獣のように育った。
必死で目標に向かって走って、ようやく優しく強くなり始めたのです。
この子はまだ心が幼い。
誰か、自分が追いかける存在が必要なのです。
今まではそれが響河元三席でした。
もしあなたが申し訳ないと思ってくださるのなら・・・
貴方が新たな目標になってあげてください。ー
その時気づかされたのだ。
彼女がこれからも正しき道を歩める力を付けさせることが、何よりも大切な事なのだと。
罪を償おうというのなら、その罪を心の重石とするばかりでなく、本当に彼女の為になるべきことをするべきであると。
ー強く、優しい上司として、この子を導いてあげて下さいませんか。ー
烈の言葉に、必ずや、と誓ったのだ。
必ずやこの傷だらけの少女を導こうと。
(だが今思えば、卯ノ花隊長は全て見通しておられたのだろう。)
蒼純は胸に手を当てる。
あの時は罪悪感から折れそうな蒼純の心を救う為の言葉であろうと思ったものだが、今は込められた意味がそれだけでは無いと勘付いていた。
(私の胸に巣食う、この憎しみを、牽制なさったのだな。)
胸元の着物をくしゃりと握る。
事故とはいえ妻を殺した部下を、冷静に導き続ける事は難しい。
時折脳裏をかすめるのだ。
もし彼女に力がなければーー
もし彼女にこの勘の良さがなければーー
もし彼女がこれ程瞬歩に優れていなければーー
(
その“もし”を考えても仕方がないし、その方が良かったとは思えない。
だが。
(2人が生きる道は無かったのか。)
時折どうしようもない後悔と、憎しみと、悲しみに苛まされる。
義弟を憎み、その場に一歩遅れた己を恨み、
そしてーー
蒼純は頭を振る。
考えたところで喪った者は生き返ることはない。
それは世の理だ。
今のように己を見失いそうになる度、蒼純は妻が幼いころから何度もかけてくれた言葉を思い出す。
ー人は体の強さも大事だろうが、何より心の強さが大事だと思う。
心の強さは、優しさだよ。
お前は優しい。
優しいお前は、強いよ、蒼純。ー
彼女は眩しい金髪を揺らして微笑んだものだ。
その残像だけが、己を正しく在らせる。
(
強いのはお前だ、
私は残像となつたお前にまで頼ってばかりで、実に不甲斐ない。
だがお前に頼らねば私はあの健気で薄幸な彼女を・・・殺すだろう。)
目を閉じれば、浮かぶ少女の頃からの咲の姿。
響河の傍で輝いていた日々。
そしてその響河により血だらけにされた姿。
罪人として罰され屍のようになっていた姿。
そして自分の前に、部下として立った時の、あの寂しげな顔。
響河を背負う彼女を見る度、蒼純も義弟を思い出す。
そして、最愛の人を失った絶望も。
咲を殺すタイミングは、数えきれないほどあった。
自ら手を下さずとも、任務中に命を失うタイミングも多々あった。
それでも蒼純は、彼女を殺さなかった。
時には彼女を救った。
彼女は蒼純の愛息を世に連れ出した人物だ。
そして彼が生まれる直前まで最愛の人であった
現在の蒼純の幸せの在処を救ったのは彼女であり、同時に、彼の心の闇を作りだしたのも彼女だと言っても過言ではないだろう。
蒼純が思い出す
それに対し、咲は彼女の髪色のごとくひっそりとして闇のようである。
そしてその2人の哀しさが、胸を締め付ける。
光と闇は、対なるものだ。
日に日に
そしてその度、咲の闇色も深くなる。
(お前を守ると心に誓った私は、また、お前が私に忠義を尽くす限り、殺さないと約束した。
お前が忠義を違えば、その時は――)
刀を抜くのかと思うと、憎しみと愛しさで鳥肌がたつ。
己の中でも愛憎の区別できなくなった部下への思いは余りに重く、蒼純はもて余し始めていた。