朽木蒼純編
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「久しぶりですね、
隣を歩く咲が優しくそう言った。
白哉が入隊してから、互いの休みがなかなか合わず、足が遠のいていたのだ。
咲は1人で訪れているのだが、白哉は流石に1人では訪れにくい。
(訪れる理由もない。)
ふん、と鼻を鳴らした。
「そうだな。
咲がくすくすと笑うので、子どもっぽい言い方をしてしまったことを反省した。
緋真のところに来るときは、咲も死覇装を着ないことが多い。
流魂街で死神のことをあまりよく思わない人もいるためだろう。
今日は深い藍色の着物だ。
流魂街を歩いていても浮くことはないが、精霊挺を歩いていても違和感がない程品があった。
死覇装以外の服装の時は、髪を風車の簪で止め紅を差したりするものだから、ぐっと女性らしく見え、まるで別人のようでもある。
これは白哉にって緋真のところに行くことの楽しみの一つとなっている。
白哉も少しずつ年を重ね、背も伸び、咲と並んでも姉弟とは言われなくなった。
それがまた、少し嬉しい。
「あ、若様、ここからはゆっくり歩いてきてください。」
家が見えてきたところで、咲が急にそんなことを言ったので、白哉は眉を顰める。
「どういうことだ。」
「そういうことです。」
咲は楽し気に笑っている。
「悪いことはありませんから、どうぞひとつ、お願いします。」
その笑顔に、白哉は頷かざるを得ない。
咲はと言えば一瞬で家の前まで移動している。
瞬歩だ。
見事なものだ、と思っている間に家に入ってしまった。
白哉は一つ溜息をついてから、のんびりと歩き出す。
入隊してから1月以上たつが、護挺で咲と顔を合わせたことはない。
やはり彼女の請け負っている任務は、通常のものとは全く違うようだ。
(なぜだ。)
咲のことでは、確かに疑問が多い。
先日先輩隊士たちが話していたのを狛村が諫めていたが、落ち着いて考えてみると疑問を持たれても当然だろうとも思う。
彼女の罪についても、罰についても、分からないことが多すぎる。
そしてそれを尋ねてはならない朽木家の空気。
ー・・・誰にも尋ねてはなりませぬ。ー
数年前、本人に問い詰めたときの苦しそうな顔が蘇る。
一体彼女の過去に、何があったのだろう、と。
そしてなぜ、自分は尋ねてはならないのだろう、と。
そんなことをうっかり考え込んでしまっていた白哉は、無防備なまま家の戸口に立った。
そして声をかけようとした時だった。
突然扉が開き、思わず目を見開く。
「白哉様!
ご入隊おめでとうございます!!」
咲と緋真の明るい声に、白哉は呆気に取られてしまう。
室内は花や紙飾りで装飾されている。
壁にはワカメらしきものに顔と手足がついた謎のキャラクターが「おめでとう」と言っている横断幕。
机の上には落ちるのではないかと思うほどたくさんの料理が並んでいた。
「こ、れは・・・。」
「お祝いです。」
緋真が照れたように言った。
「ご入隊、おめでとうございます。」
頬を上気させて、白哉を見上げてくる瞳の、無垢な事。
「緋真さん、頑張ったんですよ。
若様のためと、朽木家の料理人に負けないようにと、たくさんたくさん練習なさって、火傷も切り傷もたくさん作って。」
「咲さん、それは秘密って!」
わたわたと首を振る様子が愛らしくて、思わず微笑む。
確かによく見れば、小さな白い手にはたくさんの包帯が巻かれている。
それも言わば、名誉の負傷だろう。
「ありがとう。」
自然と礼の言葉が出ていた。
緋真はぽっと頬を染めて、忙しく首を横に振った。
頭の上で、以前渡した簪の兎がゆらゆらと揺れる。
「料理が冷めないうちにいただきましょうか。」
咲がそっと促し、3人は席についた。
「いただきます。」
手を合わせてから料理をいただく。
小さな藍紫の目が不安げに白哉を見上げる。
食べづらくてしかたがないが、そこは致し方ない。
気にせぬようにして一口、まずは蒟蒻の煮物を摘まむ。
素朴な料理ではあるが、程よい七味の辛さと合わせ出汁は、朽木家の料理人顔負けだ。
「うむ、美味い。」
そう言えばまた緋真が嬉しそうに笑う。
白哉の知る咲の笑顔は、どこかひっそりとしていて寂しげだと感じていた。
悲しくも美しい、いつか出来ることならば自分が彼女を守りたいと、そう思ってきた。
だが目の前の少女は、花の開くような鮮やかな笑顔だ。
白哉も釣られて破顔するほど。
すると気持ちも明るくなる。
箸も進む。
「この出汁巻も美味い。」
緋真は嬉しそうに頷く。
「それは自信作なんです!」
幼い少女の笑顔に、この家に入るまでの鬱々とした気持ちは何処か遠くへ追いやられてしまった。
そんな微笑ましい2人を、咲はやはりどこかひっそりとした、穏やかな笑顔で眺めていた。