朽木蒼純編
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家について、今日買ってきたものを順に直す。
白哉も分からないなりに二人を手伝った。
まさかこんなことを手伝わされるに至るとは、鍛錬後に咲に逢瀬相手を紹介しろと迫った時には思いもしなかった。
咲が意味ありげな笑みを残して、部屋から出ていった。
緋真 は今日買った新しい着物を嬉しそうに畳んで仕舞っている。
白哉は僅かに眉を顰めたのち、小さく溜息をついた。
緋真はその音に振り返り、すまなそうに眉尻を下げた。
「あ・・・すみません。
すっかりお手伝いいただいてしまって。」
まだ幼いというのに気づかいのできる娘だ、と思うと同時に、白哉は僅かに自分が恥ずかしくなった。
自分は確かに四大貴族の朽木家の嫡男だ。
人から敬意を払われるのは当然といえば当然ではあるし、こんなことを手伝うなどあり得ない。
あり得ないことではあるが、白哉自身はそれほど嫌なことではなかった。
そうであるのに目の前のまだ幼い少女に謝罪させ、気づかいを求めるほど自分は幼くもないし、暴君ではありたくはなかった。
「その・・・なんだ。
これを渡そうと思ったのだ。」
咄嗟に懐から包みを取り出して少女の目の前に突き出す。
もう少しうまく渡す方法もあっただろうと、今更ながら後悔された。
出された小さな手に、包みを乗せる。
「これを、私に・・・?
どうしてくださるのですか?」
まさかそう問われるとは思いもしなかった。
「・・・出会ったときにひどいことを言ったからな。」
口早にそう誤魔化す。
「そんなの、私も悪かったわ。」
恐縮する様子に、白哉は困ったと思いその手から包みを取り上げる。
包装を解くと出てきた簪に、緋真はようやく顔をほころばせた。
「かわいい!
でもこれ、高価だったのに・・・。」
「何、このくらい。」
そう言ってから、自分とて己の金で買ったわけではないことをふと思い出す。
全ては父や祖父が働いて得た給金。
朽木家の財産だ。
緋真は咲が養っているのだと聞いた。
咲とて働きづめだ。
もちろんそれなりの給金を得ている。
だが今日の一連の買い物を見ていても緋真に必要以上のものを与えることはなかった。
むしろ二人で、時間をかけて最適な物を選んでいた。
欲しいものであっても、必要でないものは買わなかった。
ーなぜだ?
なぜ買ってやらんのだ?ー
それを問いかけた白哉に、咲は緋真に聞こえないよう囁くように答えた。
ー私はいつまでも緋真さんと一緒にいられるわけではありません。
いつか緋真さんが、この流魂街で自立して生きていくことが何よりも大切なのです。
近々、奉公の話も進めようと思っています。
そうなれば自分で得た給金を適切に使って生活しなければなりません。
適切な金銭感覚を身につけることが、彼女には必要なのです。ー
(だから私はまだ子ども扱いされるのだな。)
白哉は悲し気に目を細めてから、緋真の後ろに回った。
「白哉様?」
「じっとしておれ。」
小さい子の頭は、こんなに小さく、髪は指どおりがいいのだな、と驚く。
緊張した背中に思わずくすりと笑い、それから髪をまとめる。
白哉も長い髪を簪で止めることもあるので、この程度お手の物だ。
「ほら。」
窓に映った姿を指さすと、緋真はぱっと顔を輝かせ、簪を見るために頭を軽く振った。
子どもらしいその姿に、思わず顔が緩む。
「ありがとうございます、白哉様!
緋真、一生大切にします!」
花のような笑顔に、随分と子どもらしいことを言うものだ、と白哉も穏やかに微笑む。
襖の影で成り行きを見守っていた咲も、くすりと笑った。
「どうでしたか。」
食後、明翠に尋ねられ、白哉は首をかしげる。
「咲さんとお出かけなさったのでしょう?」
うきうきと尋ねてくるこの人は、いつまでたっても美しいままだ、と思う。
白哉が入隊するまで成長したのであるから、彼女もそれなりに歳を重ねているが、一向に歳を取った気がしない。
今からでも、嫁の貰い手はあるのではないか、と思ってしまうほどである。
「そうですが・・・。」
まさか荷物持ちをさせられたとは言えず、言葉を濁した。
昔であれば、どこで甘味を食べただの、どこの花が美しかっただの、咲との思い出を母親代わりの彼女に話したものだが、もうそれほど幼くはなくなってしまった。
(それに私は、いつまでたっても咲の弟分。
どうあがいても年上の男にはなれぬ。)
大人の階段を上りつつある子に明翠は寂しくも思いながら、努めて明るくふるまう。
「小さなお嬢さんにお会いになったのでは?」
「・・・ああ、そうです。
変わった娘でした。」
白哉は緋真を思い出す。
彼女の表情は面白いほどくるくると変わった。
「まだ幼い小娘ですが、口が達者で、思いのほか生活力もある。」
まさか彼の口から「生活力」という言葉が飛び出してくるとは思いもせず、明翠は目を瞬かせる。
そして彼は何を思い出しているのか、眉を顰めたり、口の端を上げたりしていて、それを見ているだけで今日は彼にとってなかなか刺激的な一日だったのだろう、とくすりと笑った。
白哉も分からないなりに二人を手伝った。
まさかこんなことを手伝わされるに至るとは、鍛錬後に咲に逢瀬相手を紹介しろと迫った時には思いもしなかった。
咲が意味ありげな笑みを残して、部屋から出ていった。
白哉は僅かに眉を顰めたのち、小さく溜息をついた。
緋真はその音に振り返り、すまなそうに眉尻を下げた。
「あ・・・すみません。
すっかりお手伝いいただいてしまって。」
まだ幼いというのに気づかいのできる娘だ、と思うと同時に、白哉は僅かに自分が恥ずかしくなった。
自分は確かに四大貴族の朽木家の嫡男だ。
人から敬意を払われるのは当然といえば当然ではあるし、こんなことを手伝うなどあり得ない。
あり得ないことではあるが、白哉自身はそれほど嫌なことではなかった。
そうであるのに目の前のまだ幼い少女に謝罪させ、気づかいを求めるほど自分は幼くもないし、暴君ではありたくはなかった。
「その・・・なんだ。
これを渡そうと思ったのだ。」
咄嗟に懐から包みを取り出して少女の目の前に突き出す。
もう少しうまく渡す方法もあっただろうと、今更ながら後悔された。
出された小さな手に、包みを乗せる。
「これを、私に・・・?
どうしてくださるのですか?」
まさかそう問われるとは思いもしなかった。
「・・・出会ったときにひどいことを言ったからな。」
口早にそう誤魔化す。
「そんなの、私も悪かったわ。」
恐縮する様子に、白哉は困ったと思いその手から包みを取り上げる。
包装を解くと出てきた簪に、緋真はようやく顔をほころばせた。
「かわいい!
でもこれ、高価だったのに・・・。」
「何、このくらい。」
そう言ってから、自分とて己の金で買ったわけではないことをふと思い出す。
全ては父や祖父が働いて得た給金。
朽木家の財産だ。
緋真は咲が養っているのだと聞いた。
咲とて働きづめだ。
もちろんそれなりの給金を得ている。
だが今日の一連の買い物を見ていても緋真に必要以上のものを与えることはなかった。
むしろ二人で、時間をかけて最適な物を選んでいた。
欲しいものであっても、必要でないものは買わなかった。
ーなぜだ?
なぜ買ってやらんのだ?ー
それを問いかけた白哉に、咲は緋真に聞こえないよう囁くように答えた。
ー私はいつまでも緋真さんと一緒にいられるわけではありません。
いつか緋真さんが、この流魂街で自立して生きていくことが何よりも大切なのです。
近々、奉公の話も進めようと思っています。
そうなれば自分で得た給金を適切に使って生活しなければなりません。
適切な金銭感覚を身につけることが、彼女には必要なのです。ー
(だから私はまだ子ども扱いされるのだな。)
白哉は悲し気に目を細めてから、緋真の後ろに回った。
「白哉様?」
「じっとしておれ。」
小さい子の頭は、こんなに小さく、髪は指どおりがいいのだな、と驚く。
緊張した背中に思わずくすりと笑い、それから髪をまとめる。
白哉も長い髪を簪で止めることもあるので、この程度お手の物だ。
「ほら。」
窓に映った姿を指さすと、緋真はぱっと顔を輝かせ、簪を見るために頭を軽く振った。
子どもらしいその姿に、思わず顔が緩む。
「ありがとうございます、白哉様!
緋真、一生大切にします!」
花のような笑顔に、随分と子どもらしいことを言うものだ、と白哉も穏やかに微笑む。
襖の影で成り行きを見守っていた咲も、くすりと笑った。
「どうでしたか。」
食後、明翠に尋ねられ、白哉は首をかしげる。
「咲さんとお出かけなさったのでしょう?」
うきうきと尋ねてくるこの人は、いつまでたっても美しいままだ、と思う。
白哉が入隊するまで成長したのであるから、彼女もそれなりに歳を重ねているが、一向に歳を取った気がしない。
今からでも、嫁の貰い手はあるのではないか、と思ってしまうほどである。
「そうですが・・・。」
まさか荷物持ちをさせられたとは言えず、言葉を濁した。
昔であれば、どこで甘味を食べただの、どこの花が美しかっただの、咲との思い出を母親代わりの彼女に話したものだが、もうそれほど幼くはなくなってしまった。
(それに私は、いつまでたっても咲の弟分。
どうあがいても年上の男にはなれぬ。)
大人の階段を上りつつある子に明翠は寂しくも思いながら、努めて明るくふるまう。
「小さなお嬢さんにお会いになったのでは?」
「・・・ああ、そうです。
変わった娘でした。」
白哉は緋真を思い出す。
彼女の表情は面白いほどくるくると変わった。
「まだ幼い小娘ですが、口が達者で、思いのほか生活力もある。」
まさか彼の口から「生活力」という言葉が飛び出してくるとは思いもせず、明翠は目を瞬かせる。
そして彼は何を思い出しているのか、眉を顰めたり、口の端を上げたりしていて、それを見ているだけで今日は彼にとってなかなか刺激的な一日だったのだろう、とくすりと笑った。