朽木蒼純編
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上司である朽木蒼純という人は、優れ秀でた、正に優秀という言葉を体現したような人だと、三席の狛村は思っていた。
貴族だからと決して驕らず、努力を惜しまない。
先を見据えて行動し、事の真を見定める。
優男に見えて案外骨があり、義理堅い人だと言うことも知っていた。
(副隊長たるもの、こうあらねばならぬ。)
尊敬の念を込めて、いつも見ていた。
だからこそ、自分の存在に気付くことなく行われる部下たちの会話に、眉を顰めた。
彼らは今日の鍛錬場の掃除当番である。
「副隊長に付いている女って、この前の?」
「ああ。
あれから調べてみたが、詳しくは何も分からん。
隊士名簿にも名前がなかったんだぜ。」
「そんなことあるか?
見落しじゃないか?」
「じゃあお前も見てみろって。
とにかく、おかしいんだろ、あの雰囲気。
なんつーか、なんか訳ありって感じだったよな。」
「確かにな。」
通常、咲は隊士の前に姿を見せることはない。
だから何か不意なことでその姿を見られてしまった、というところだろう。
「先輩に聞いても知らないって言うしよ。」
「朽木家の方の関係じゃねぇの?」
「だがあの副隊長に女だぜ、興味あるだろ?」
「まぁそりゃ・・・
四大貴族にして跡継ぎがいるとはいえ、何十年も前に奥方をなくされてから後妻を取ることもなく、浮いた噂の一つもない。」
「だろ!?」
こういった噂好きな連中がいることは理解はしているが、狛村にしたらため息が出るばかりだ。
それも自分の上司の浮いた話を求めていると来た。
時間があるならば鍛錬を積めといいたい。
そしてもう一人、この話を耳にしているであろう人物の影を認め、ついに会話をやめさせに入る。
「不躾なことを言うな。」
「ひっ!」
「こ、狛村三席っ!!」
顔を青くする二人に睨みを利かせる。
「自隊の副隊長に不埒なことを。
腕立て100回!!!」
「ハイッ!!!」
二人はその場で腕立てを始めた。
一瞬迷ったが、狛村は隠すことでもないし、ここで黙らせてはまた余計な憶測が噂を呼ぶことになるだろうと、口を開いた。
「お前達が見たのは、罪人だ。」
「罪人?」
腕立て伏せをしているため、下に伏せたまま、二人の部下は無理に狛村を見上げた。
「腕立て!」
「ハイッ!!」
二人は慌てて腕立て伏せを再開する。
「そうだ。
現在刑期中であり、副隊長が手綱を握っておられる。」
「何故牢につながれないのですか?」
腕立て伏せをしながら問いかけられたため、狛村は先程のように怒鳴ることはなく、一つ頷いてから答える。
「罰には様々な形があるということだ。」
「じゃああの罪人はどのような罰が?」
「詳しくは儂も知らん。
だがとにかく!
己の隊の隊長、副隊長に対して不躾な噂を立てるものではない!
あのお二人の背中を見ておらんのか。
この六番隊隊士として、恥ずかしくないのか。」
100回の腕立て伏せを終えた2人は息を切らしながら、そのまま膝をつき頭を垂れた。
「申し訳、ありませ・・・んでした。」
「恥ずべき行為と、思い、今後致し、ません。」
多少は反省している様子である。
だが、今は反省していても、またすぐに元の調子に戻るであろうことは想像にたやすい。
だが、こういう連中は正直どうしようもないのだ。
それが性格なのだろう。
「分かればよし。
行け。」
「ハイッ!」
二人の部下は鍛錬場の西出入口から駆けていった。
その姿が見えなくなってから、狛村は後ろを振り返る。
そこにあるのは鍛錬場の東出入口だ。
「入れ。」
声をかけられた方は少しためらってから、姿を見せた。
「話を聞いていたか、白哉。」
狛村は静かに問いかける。
この4月、自分の班に配属されたのは、先の噂の副隊長の息子であった。
問われた方は表情を押し隠しながらも、微かに怒りを滲ませていた。
「はい。」
「お前が怒りを覚えるのも当然だ。」
青年の隣まで歩み寄る。
「だがそれを耐えるお前は、立派な隊士となるだろう。」
「狛村三席は・・・いえ、何でもありません。」
何かを飲み込むように俯く姿に、狛村は腰を下ろして部下を見上げる。
大男の狛村が彼の表情を見るにはこうするしかないのだ。
「話さなければ分からん。
言ってみろ。」
すると白哉は少し迷った後に口を開いた。
「卯ノ花咲を・・・ご存知ですか。」
さすがに名前は知っているのかと思いながら、狛村は頷いた。
「まだ罪人とされる前にごく短い間だけ私の班に所属していたことがある。」
白哉ははっと顔をあげる。
その様子に驚いたのは狛村だ。
「お前も知っているのか?」
「知っているもなにも、あ奴は私の育ての母の友であり、家によくやって来ていました。
私もよく鍛練してもらった身です。」
彼女にそんな一面があるとは、と狛村は腕を組む。
孤独な娘だと思っていたが、きちんと支えられる場所はあったのだ。
「何かあるとは感じていましたが、これ程他の隊士と差があるとは・・・。」
親しい間ながら詳しいことはなにも聞かされていないのだろう。
戸惑いを覚えて当然である。
「儂も詳しいことは知らん。
・・・だが必要があれば、副隊長はお話になるだろう。」
「必要があれば・・・。
そうですね。
私とあ奴の間には溝がある。」
白哉は苦しげに視線をおとした。
「やはり越えられぬか。」
彼の様子に、二人がただの知り合いと言うには深すぎる仲だというのは察された。
だが部外者である狛村は、かける言葉を持たなかった。
貴族だからと決して驕らず、努力を惜しまない。
先を見据えて行動し、事の真を見定める。
優男に見えて案外骨があり、義理堅い人だと言うことも知っていた。
(副隊長たるもの、こうあらねばならぬ。)
尊敬の念を込めて、いつも見ていた。
だからこそ、自分の存在に気付くことなく行われる部下たちの会話に、眉を顰めた。
彼らは今日の鍛錬場の掃除当番である。
「副隊長に付いている女って、この前の?」
「ああ。
あれから調べてみたが、詳しくは何も分からん。
隊士名簿にも名前がなかったんだぜ。」
「そんなことあるか?
見落しじゃないか?」
「じゃあお前も見てみろって。
とにかく、おかしいんだろ、あの雰囲気。
なんつーか、なんか訳ありって感じだったよな。」
「確かにな。」
通常、咲は隊士の前に姿を見せることはない。
だから何か不意なことでその姿を見られてしまった、というところだろう。
「先輩に聞いても知らないって言うしよ。」
「朽木家の方の関係じゃねぇの?」
「だがあの副隊長に女だぜ、興味あるだろ?」
「まぁそりゃ・・・
四大貴族にして跡継ぎがいるとはいえ、何十年も前に奥方をなくされてから後妻を取ることもなく、浮いた噂の一つもない。」
「だろ!?」
こういった噂好きな連中がいることは理解はしているが、狛村にしたらため息が出るばかりだ。
それも自分の上司の浮いた話を求めていると来た。
時間があるならば鍛錬を積めといいたい。
そしてもう一人、この話を耳にしているであろう人物の影を認め、ついに会話をやめさせに入る。
「不躾なことを言うな。」
「ひっ!」
「こ、狛村三席っ!!」
顔を青くする二人に睨みを利かせる。
「自隊の副隊長に不埒なことを。
腕立て100回!!!」
「ハイッ!!!」
二人はその場で腕立てを始めた。
一瞬迷ったが、狛村は隠すことでもないし、ここで黙らせてはまた余計な憶測が噂を呼ぶことになるだろうと、口を開いた。
「お前達が見たのは、罪人だ。」
「罪人?」
腕立て伏せをしているため、下に伏せたまま、二人の部下は無理に狛村を見上げた。
「腕立て!」
「ハイッ!!」
二人は慌てて腕立て伏せを再開する。
「そうだ。
現在刑期中であり、副隊長が手綱を握っておられる。」
「何故牢につながれないのですか?」
腕立て伏せをしながら問いかけられたため、狛村は先程のように怒鳴ることはなく、一つ頷いてから答える。
「罰には様々な形があるということだ。」
「じゃああの罪人はどのような罰が?」
「詳しくは儂も知らん。
だがとにかく!
己の隊の隊長、副隊長に対して不躾な噂を立てるものではない!
あのお二人の背中を見ておらんのか。
この六番隊隊士として、恥ずかしくないのか。」
100回の腕立て伏せを終えた2人は息を切らしながら、そのまま膝をつき頭を垂れた。
「申し訳、ありませ・・・んでした。」
「恥ずべき行為と、思い、今後致し、ません。」
多少は反省している様子である。
だが、今は反省していても、またすぐに元の調子に戻るであろうことは想像にたやすい。
だが、こういう連中は正直どうしようもないのだ。
それが性格なのだろう。
「分かればよし。
行け。」
「ハイッ!」
二人の部下は鍛錬場の西出入口から駆けていった。
その姿が見えなくなってから、狛村は後ろを振り返る。
そこにあるのは鍛錬場の東出入口だ。
「入れ。」
声をかけられた方は少しためらってから、姿を見せた。
「話を聞いていたか、白哉。」
狛村は静かに問いかける。
この4月、自分の班に配属されたのは、先の噂の副隊長の息子であった。
問われた方は表情を押し隠しながらも、微かに怒りを滲ませていた。
「はい。」
「お前が怒りを覚えるのも当然だ。」
青年の隣まで歩み寄る。
「だがそれを耐えるお前は、立派な隊士となるだろう。」
「狛村三席は・・・いえ、何でもありません。」
何かを飲み込むように俯く姿に、狛村は腰を下ろして部下を見上げる。
大男の狛村が彼の表情を見るにはこうするしかないのだ。
「話さなければ分からん。
言ってみろ。」
すると白哉は少し迷った後に口を開いた。
「卯ノ花咲を・・・ご存知ですか。」
さすがに名前は知っているのかと思いながら、狛村は頷いた。
「まだ罪人とされる前にごく短い間だけ私の班に所属していたことがある。」
白哉ははっと顔をあげる。
その様子に驚いたのは狛村だ。
「お前も知っているのか?」
「知っているもなにも、あ奴は私の育ての母の友であり、家によくやって来ていました。
私もよく鍛練してもらった身です。」
彼女にそんな一面があるとは、と狛村は腕を組む。
孤独な娘だと思っていたが、きちんと支えられる場所はあったのだ。
「何かあるとは感じていましたが、これ程他の隊士と差があるとは・・・。」
親しい間ながら詳しいことはなにも聞かされていないのだろう。
戸惑いを覚えて当然である。
「儂も詳しいことは知らん。
・・・だが必要があれば、副隊長はお話になるだろう。」
「必要があれば・・・。
そうですね。
私とあ奴の間には溝がある。」
白哉は苦しげに視線をおとした。
「やはり越えられぬか。」
彼の様子に、二人がただの知り合いと言うには深すぎる仲だというのは察された。
だが部外者である狛村は、かける言葉を持たなかった。