朽木蒼純編
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「おはようございます。
昇格おめでとうございます。」
正面からやってきた上司の笑顔に、狛村は恐縮する。
「まだです、副隊長。
敬語は勘弁してください。
今月中は六番隊三席でいさせていただかねば。」
あと10日ほどまだ残っているのだ。
「いいではないですか、練習ですよ。
六番隊隊士が隊長となる等、素晴らしいことです。」
晴れやかな表情に、彼が隊長になれないことをうらやむ様子は見受けられない。
蒼純は六番隊以外の隊長になるつもりは、きっとないのだろう。
朽木家次期当主として、それ以外の選択肢などなく、それは現在の銀嶺が引退した際の話になる。
きっとそのころには、愛息である白哉が副隊長を務めていることだろう。
父親譲りの美しく非常に優秀な子だ。
間違いなかろう。
狛村は深く頭を下げた。
「副隊長のご指導あってこそです。」
「いや、狛村三席にはその器があった。
それだけの話だよ。」
穏やかな瞳をした上司の、壮絶な過去を知る隊員がこれでまた一人減るのだ、と狛村は思った。
当時のことを知る隊士自体が、護挺内には減ってきた。
響河の氾濫での死亡者ももちろん多かったが、それから80年以上の時を経て現場を離れるものや、命を落とすも者もいた。
六番隊にも最早、自分を含め数えるほどにしか残ってはいない。
それはやはり、彼も感じているらしかった。
「・・・狛村三席に頼むのもおかしな話かとは思いますが。」
蒼純は視線を窓の外にやった。
「卯ノ花咲のことです。
彼女のことを知る人は数えるほどになってしまった。」
己とて彼女とそれほどか関わったことがあるわけではないが、一時だけでも上司であった身。
気にならないわけではない。
孤独な上司に付き従い、孤独に戦い続け、そしてその結果、更なる孤独に立たされた少女。
いつしか大人となったが、大男の狛村にしたらその背中はまだ細くか弱い。
「・・・私も気にはしております。」
ただ、彼女の姿を見かけることは極めて稀だ。
暗躍する彼女は、表舞台に出てくることは決してない。
それでもまだ、狛村は他の隊士と比べたら見かけることが多い方だと思っていた。
それは、目の前の上司の信頼の証だとも思っている。
「私に何かあった時には・・・頼みますよ。」
零れるように呟かれた言葉に狛村は目を見開き、首を振る。
「何を・・・」
蒼純は視線を部下に戻し、穏やかに微笑んだ。
「生きとし生けるもの、いつかは命数尽きる。
命あるうちに、伝えなければなりません。
ただそれだけのお話ですよ。」
身体の弱い彼は、いつもそんなことを心のどこかに思っているのかもしれない、と思った。
もともと彼が当主も隊長の座も辞していたのは、体が弱いためだった。
そのために、響河が次期当主として名乗りを上げるに至ったのも、遠い昔の話。
「今夜の宴会が楽しみですね。」
「・・・ありがとうございます。」
病弱な副隊長が宴会に出席することは極めて稀で、それが今回の狛村の隊長昇進の祝賀会である。
彼に目をかけてもらった恩を、忘れることはできない。
義理堅い狛村は、咲のことを決して忘れまいと、心に誓った。
そして上司もそれをわかって、頼んだのだろうと、そう思った。