朽木蒼純編
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「白哉様も、本当に死神なのですよね?」
「どういう意味だ。」
「いつも素敵なお召し物なので、てっきり貴族の方だとばかり思っていました。」
目を瞬かせながらそう言われ、それならば悪い意味ではない、と眉間に寄せた皺を解く。
その様子に、剥いた林檎を運んできた咲はくすりと笑った。
咲の休みの日はもともと、白哉と鍛錬をすることが多かったのだが、最近はその前後に緋真のところに寄るようになった。
白哉と緋真はあっという間に打ち解けて、まるで兄妹のように喧嘩をすることもある。
咲はそんな二人の様子を眺めるのが楽しみになりつつあった。
「貴族だからと言って死神にならないという決まりはない。
朽木家は四大貴族ではあるが、男は皆死神だ。
私の祖父は今の六番隊の隊長で、父は副隊長だ。」
そう言って林檎をほおばる。
これは今日街で買ってきたもの。
格としては家で食べるものとは天と地ほどの差があるが、不思議と香りもよく、触感もしっかりしていて、程よく甘い。
「そうなんですか!
ということは、お爺様とお父様は咲さんと一緒に働いておられるのですね。」
緋真もつまようじで一切れぷすりとさして、口に運んだ。
「おいしいっ。」
そして嬉しそうに笑う。
(やはり緋真は、花のように笑うな。)
白哉は少女の横顔を眺めて、心の中で思った。
ちなみに緋色真の皿の林檎だけは、全て兎の耳がついている。
咲の計らいだ。
普段戦闘ばかりしているのに、器用に料理をする。
不思議だと思って尋ねてみたら、虚圏に行ったときの上司が潔癖症の上料理にも煩かったのだといっていた。
当然のことながら、様々な上司がいるものだ、と思ったものだ。
「ああ。
私も六番隊だぞ。」
「そうなんですか!
みなさん一緒だなんて羨ましい。
朽木家の方はみなさま六番隊と決まっているのですか?」
同じ隊だからと言っていつも一緒に居るわけでもないし、祖父や父と自分では席に大きな開きがありすぎて会話さえ少ない。
咲と自分など、猶の事。
だが、そんな己の鬱々としたことをこの少女に話したところで何の足しにもならないと、白哉は聞き流した。
「決まりと言うほどのことはないが、曾祖父も六番隊隊長だったと聞いた。
それぞれの隊にはその隊らしい気風がある。
六番隊は高潔な理性という花言葉をもつ椿を隊花とする。」
縁側で空を見上げながら、父の腕につけられた副隊長章を思う。
「まさにその通りの隊だ。
そして祖父も父も、その隊を率いるにふさわしい人格者だと私は思う。」
(そうだ、強くあらねばならぬ。
いつか私も、六番隊を率いるのだ。)
父も祖父も、その力は圧倒的だ。
それであるのに決して努力を怠らない。
勉強も、鍛錬も、いまだに欠かさないのだ。
一体いつ寝ているのだろうかと不思議に思う。
だが、朽木を背負う者、それが当然、当たり前の話なのだ。
他の隊士が何をしていようと、関係ない。
白哉は朽木家の嫡男として、いつの日か、誰よりも強くならねばならないのだ。
(だが私は・・・っ)
入隊して早5年。
先日、ようやく席を与えられたが、末席の二十席とあまりに低い。
(せめて十五席前後かと思っていたが・・・。)
悔しくて堪らないのだ。
朽木家の嫡男たる者、祖父や父のような誰にも負けない実力を身につけねばならない。
拳を握りしめる。
与えられぬ理由は分からないが、聞くのは憚られた。
なんでも聞くのは、子どもがすることだ、と。
ただただ己の力不足に違いないと自分で自分を納得させ、きりりと前を睨み、日々鍛錬を積む。
「やはり努力家のお手てですね。」
物思いに耽っていた白哉は、突然近くでした声に驚き、下を向けば、緋真が白哉の握りしめた手を覗き込んでいた。
「何のことだ。」
「私のお父様が・・・あ、まだ現世にいたころですよ。
おっしゃっていました。
剣を握ろうと、筆を握ろうと、努力する者の手には豆ができると。」
小さな手がそっと、膝の上の白哉の手をとり、拳を解いて手のひらに触れる。
小さな体からほんのりとぬくもりが伝わってくる。
(陽だまりのようだ。
子どもというのは、こんなものなのか。)
貴族育ちで一人っ子の白哉には、緋真の全てが新鮮であった。
「白哉様のお手てには、どちらもあります。
・・・努力されているのでしょうね。」
まだ少女のような子にしみじみとそう言われて、白哉はくすぐったくなって微かに頬を緩めた。
「私のしていることなど努力には入らぬ。
祖父も父も、優れた才能を持ちながら弛まぬ努力を続けられている。
お二人の努力に比べたら、私のことなど。」
「比べる必要なんてないわ。」
ぱっと緋真が白哉を見上げる。
深い
純粋で、真っすぐな瞳は、どこか昔の自分を思い起こさせる。
「お爺様もお父様もすごい方かもしれないけれど、白哉様も十分すごいもの!」
その言葉に目を見開く。
そんなことは言われたことはなかった。
強くあらねばならぬと自分に言い聞かせて生きてきた。
そんな白哉は霊術院では級友から少し距離のある存在でもあった。
咲は”強くなった”と褒めてはくれるが、それも指導する立場からの言葉であり、そういわれる度に白哉は、もっと強くならねばならぬと言い聞かせてきた。
何も分からぬ庶民の小娘の言葉である。
それでも白哉の手をつぶさに見つめ導いた答えであると思うと、不思議とストンと心に落ちてきた。
白哉はふっと、小さく笑った。
そして目の前の小さな頭に、そっと、”努力家のお手て”を乗せた。
「・・・ありがとう、緋真。」