原作過去編ー110年前
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自分たちは突然現世にやってきて暮らすことになったが、ここはいわゆる明治時代の日本。
尸魂界とは勝手が違う。
あれこれ不便な点については、培ってきた技術で何とかやり繰りしている。
十分な機材がないだけに義骸の性能保持も一苦労だ。
現世に来て、虚化したメンバーが無事に内なる虚を抑えることに成功してからは、浦原は研究室と名前を付けた一室にこもりっぱなしである。
不意に入口で人の気配がして振り返った。
「今いいか?」
六車の問いかけに浦原は作業の手に持っていたピンセットを置き、体ごと後ろに向いた。
その話が真剣なものだと思ったからだ。
「なんでしょう?
どうぞお入りください。」
勧められるままに、六車は部屋に入り胡座をかいた。
彼もまだ傷が完全に治りきっておらず、折れた左手は三角巾で吊った状態だ。
「あいつは・・・六番隊の卯ノ花は、どうなったか知らねぇか。」
彼女のことを気にするのも無理はない。
事に巻き込まれたのは、彼の受け持った任務に就いていたからに外ならないからだ。
(でもあの人はなぜか、虚化もせず、殺されもしなかった。)
その疑問は、現場で彼女を見つけてすぐに沸き上がったが、その答えを導き出せないままここまで来た。
「ひどい怪我でしたから、鉄斎さんに四番隊に運んでもらいました。
疑いの目を向けられても、蒼純副隊長が何とかされたんじゃないかなとは思います。
随分かわいがっておいででしたから。」
六車は溜息をついて、そうか、といった。
浦原はというと難しい顔をしている。
「彼女はなぜか、虚化が見られなかったんです。
魂魄消失案件に関わった隊士については、六車サンと久南サンは虚化。
他の隊士については、東仙五席以外は彼により刺殺されている。
咲サンは確かに九番隊ではありません。
だが・・・生かす必要が分からない。」
「たまたまじゃねぇのか。
お前んとこの任務に行ったと聞いたぞ。
なんでもどうしても片づけないといけないっつって。」
「ええ、そうです。
新種の虚で、彼女の力が必要でした。
でもなんていうか、何かが引っかかっているんッスよ。
僕が藍染であれば、彼女も殺したでしょう。
彼女も、虚化の一端を垣間見ているわけです。
その上この魂魄消失案件調査において、彼女がどれほどの働きをしたかは六車サンの報告で明白だった。
ならば、生かしておく必要など、猶のことないはずだ。
鼻のいい彼女のこと。
生かしておけば、事がばれる可能性も格段に上がる。
そして藍染ならば、彼女を殺すタイミングなど、きっといくらでもあった。」
六車も腕を組んで考え込む。
浦原は、おや、と立ち上がると、六車の隣を通り、部屋の入り口からから廊下を覗いた。
「ひよ里さん、そんなところでこそこそ聞かずに中に入ったらどうです。」
「こそこそなんてしとらんわ!」
思わず怒鳴り返した少女に、へらりと笑う。
「気になるんですか、咲さんのこと。」
その問いかけに、少し間をおいてから猿柿はそっぽを向く。
「当たり前やろ。
・・・うちのせいで死にかけたんや。」
早口で紡がれた言葉に浦原は目を細める。
この少女なりに、思うこともあったのだろう。
「ただの罪人ですが、ね。」
そう猿柿は咲を呼んでいた。
だから浦原もわざとそう言った。
「罪人や、罪人。
・・・でもあいつがしようとした事も、言うことも、正しかった・・・と、思う。」
珍しく歯切れの悪い様子に、くすりと笑う。
彼女も六車と同じく虚化して友を殺していた可能性に直面し、思いに変化もあったのだろう。
「こちらへどうぞ。」
部屋の奥へと引っ込んだ浦原に続いて、猿柿も室内へ入り、そして六車の隣に座した。
「何を言ったんだ、卯ノ花は。」
片眉を上げて六車が問う。
虚化した久南と共に戦い、そして虚化する己を諌めようとした事は知っているのだ。
だが彼女が猿柿に言ったことまでは知らない。
「・・・命じたもののために、生きて帰れ、みたいなことや。」
その言葉に二人は黙った。
響河の反乱では多くの者が死んだ。
彼を討つように命令を受けたものの殆どが、操られて死に、操られた仲間によって殺された。
特に咲は響河に操られた多くの、親しかった人も殺したと聞く。
そして死した彼らに命じた者の背中も、幾度となく見たに違いない。
だがそれは、言い方は悪いが隊士がいるからこそなせたこと。
虚圏はそれとは真逆だろう。
隊士がいないからこそ、何よりも命が優先された。
生きることが仲間を生かすことに直結する世界だったに違いない。
その2つの戦況を見てきた彼女の結論は、「命じたもののために、生きて帰れ」だった。
護挺のために命を捧げられることが求められる中で、それに反する意見を猿柿に訴えた。
そしてまた浦原自身も、迷うことなくその選択をした。
してしまっていた。
本来、目の前の彼らを殺すという選択肢が護挺の為には1番であったはずだ。
虚となった隊長格を生かすなど、どうかしている。
運良く正常な意思を保てる状況まで持ってくることはできたが、全ては賭け。
本来であれば、彼らの命を潰さねばならなかった。
護挺入隊時に聞かされた総隊長の言葉を思い出す。
ー隊士須 らく護廷に死すべし
護廷に害すれば自ら死すべしー
(ボクは隊長としての器がなかったんでしょう。)
思わず自嘲的に笑う。
「そうッスね、彼女の言うことは正しい。」
六車と猿柿は浦原を見つめた。
「ボクはひよ里サンに生きて帰ってきて欲しいと願った。
危険な任務に送り込んだことを、悔やみすらした。
隊長失格ッス。」
そう言って笑ってみせた。
現世は咲が言った虚圏のように過酷な場所ではないけれど、仲間の数が限られているという状況は同じだ。
ならば、何よりも仲間を守り切らねばならない。
生き抜かねばならない。
そのためには、心に強く、思ってもらわねばならないのだ。
生きたい、と。
そのために浦原は言葉を選んだ。
「みんな、貴方のことが好きなんですよ、ひよ里さん。
ボクも、平子サンも、六車さんも、他のみんなもね。
向こうにはもう戻れないかもしれないけれど、仲間はいる。
貴方は、独りじゃない。
だからここで一つ生き抜いて、藍染達をぶっ潰す機会を狙おうじゃないですか。」
猿柿はじっと浦原の顔を見つめていて、自分の言った言葉がしっかり心に届いたか分からない。
様子を窺うように、浦原も彼女を見つめ続けた。
「ならうちも言わせてもらうけど。」
目をそらすことなく、猿柿は腕を組んだ。
「隊長になったことはないからわからん。
うちは虚化した拳西に刀を向けられへんかった。
でも、お前んとこに帰ろうと思ったのは事実や。
お前はもう隊長ちゃうけど、お前みたいな隊長でも、うちはええと思う。」
少女の真っ直ぐな言葉と真っ直ぐな瞳に、浦原は目をわずかに見開く。
「戦いでは命を懸けることを求められることもある 。
でもうちは、命じる側の人間が、死ねゆうよりも、生きて帰ることを待っていてくれたほうが、頑張れる。
もちろん心配されるんは悔しいし、そんな隊長は不安や。
でーん!と構えとけ、と思う。」
そう言い切ってから、猿柿はついっと視線を落として、頬を掻いた。
「・・・でもちょっとだけ、嬉しい。」
その言葉に、浦原は穏やかに微笑んだ。
こういう上司と部下の形もまた、自分たちらしい形なのかもしれない、と。
遠い昔虚圏に旅立つ前に見た、咲の凛とした背中を思い出す。
彼女もまた命じた者の為に、命を懸け、そして生きて帰ってくるのだろう。
そして彼女の上司である蒼純もまた、それを望み、願い、待つ。
きっと浦原と同じく、少しばかりの後悔を抱えながら。
「あーあ!
喜助もあいつと同じ罪人になってもうたしな!
ほんましゃーないな!
うちらなんか虚化や、あいつ以下やんか!」
場の空気をほぐすように、猿柿がそう文句を言った。
「でも生きててよかった。
拳西も、白を殺さんで済んでよかったな。」
黙って事の成り行きを見ていた六車に、猿柿がにやっと笑う。
「まぁな。」
六車は微笑む。
浦原と猿柿の成長をくみ取ったのだろう。
「ま、これで面倒くせぇ雑務に追われることもなくなったし、掟に縛られることもない。
次の機会には、必ず殺してやるさ。」
その殺意は他の仲間も同じこと。
闘志を内に秘めながら、浦原も猿柿も一つ頷いた。
尸魂界とは勝手が違う。
あれこれ不便な点については、培ってきた技術で何とかやり繰りしている。
十分な機材がないだけに義骸の性能保持も一苦労だ。
現世に来て、虚化したメンバーが無事に内なる虚を抑えることに成功してからは、浦原は研究室と名前を付けた一室にこもりっぱなしである。
不意に入口で人の気配がして振り返った。
「今いいか?」
六車の問いかけに浦原は作業の手に持っていたピンセットを置き、体ごと後ろに向いた。
その話が真剣なものだと思ったからだ。
「なんでしょう?
どうぞお入りください。」
勧められるままに、六車は部屋に入り胡座をかいた。
彼もまだ傷が完全に治りきっておらず、折れた左手は三角巾で吊った状態だ。
「あいつは・・・六番隊の卯ノ花は、どうなったか知らねぇか。」
彼女のことを気にするのも無理はない。
事に巻き込まれたのは、彼の受け持った任務に就いていたからに外ならないからだ。
(でもあの人はなぜか、虚化もせず、殺されもしなかった。)
その疑問は、現場で彼女を見つけてすぐに沸き上がったが、その答えを導き出せないままここまで来た。
「ひどい怪我でしたから、鉄斎さんに四番隊に運んでもらいました。
疑いの目を向けられても、蒼純副隊長が何とかされたんじゃないかなとは思います。
随分かわいがっておいででしたから。」
六車は溜息をついて、そうか、といった。
浦原はというと難しい顔をしている。
「彼女はなぜか、虚化が見られなかったんです。
魂魄消失案件に関わった隊士については、六車サンと久南サンは虚化。
他の隊士については、東仙五席以外は彼により刺殺されている。
咲サンは確かに九番隊ではありません。
だが・・・生かす必要が分からない。」
「たまたまじゃねぇのか。
お前んとこの任務に行ったと聞いたぞ。
なんでもどうしても片づけないといけないっつって。」
「ええ、そうです。
新種の虚で、彼女の力が必要でした。
でもなんていうか、何かが引っかかっているんッスよ。
僕が藍染であれば、彼女も殺したでしょう。
彼女も、虚化の一端を垣間見ているわけです。
その上この魂魄消失案件調査において、彼女がどれほどの働きをしたかは六車サンの報告で明白だった。
ならば、生かしておく必要など、猶のことないはずだ。
鼻のいい彼女のこと。
生かしておけば、事がばれる可能性も格段に上がる。
そして藍染ならば、彼女を殺すタイミングなど、きっといくらでもあった。」
六車も腕を組んで考え込む。
浦原は、おや、と立ち上がると、六車の隣を通り、部屋の入り口からから廊下を覗いた。
「ひよ里さん、そんなところでこそこそ聞かずに中に入ったらどうです。」
「こそこそなんてしとらんわ!」
思わず怒鳴り返した少女に、へらりと笑う。
「気になるんですか、咲さんのこと。」
その問いかけに、少し間をおいてから猿柿はそっぽを向く。
「当たり前やろ。
・・・うちのせいで死にかけたんや。」
早口で紡がれた言葉に浦原は目を細める。
この少女なりに、思うこともあったのだろう。
「ただの罪人ですが、ね。」
そう猿柿は咲を呼んでいた。
だから浦原もわざとそう言った。
「罪人や、罪人。
・・・でもあいつがしようとした事も、言うことも、正しかった・・・と、思う。」
珍しく歯切れの悪い様子に、くすりと笑う。
彼女も六車と同じく虚化して友を殺していた可能性に直面し、思いに変化もあったのだろう。
「こちらへどうぞ。」
部屋の奥へと引っ込んだ浦原に続いて、猿柿も室内へ入り、そして六車の隣に座した。
「何を言ったんだ、卯ノ花は。」
片眉を上げて六車が問う。
虚化した久南と共に戦い、そして虚化する己を諌めようとした事は知っているのだ。
だが彼女が猿柿に言ったことまでは知らない。
「・・・命じたもののために、生きて帰れ、みたいなことや。」
その言葉に二人は黙った。
響河の反乱では多くの者が死んだ。
彼を討つように命令を受けたものの殆どが、操られて死に、操られた仲間によって殺された。
特に咲は響河に操られた多くの、親しかった人も殺したと聞く。
そして死した彼らに命じた者の背中も、幾度となく見たに違いない。
だがそれは、言い方は悪いが隊士がいるからこそなせたこと。
虚圏はそれとは真逆だろう。
隊士がいないからこそ、何よりも命が優先された。
生きることが仲間を生かすことに直結する世界だったに違いない。
その2つの戦況を見てきた彼女の結論は、「命じたもののために、生きて帰れ」だった。
護挺のために命を捧げられることが求められる中で、それに反する意見を猿柿に訴えた。
そしてまた浦原自身も、迷うことなくその選択をした。
してしまっていた。
本来、目の前の彼らを殺すという選択肢が護挺の為には1番であったはずだ。
虚となった隊長格を生かすなど、どうかしている。
運良く正常な意思を保てる状況まで持ってくることはできたが、全ては賭け。
本来であれば、彼らの命を潰さねばならなかった。
護挺入隊時に聞かされた総隊長の言葉を思い出す。
ー隊士
護廷に害すれば自ら死すべしー
(ボクは隊長としての器がなかったんでしょう。)
思わず自嘲的に笑う。
「そうッスね、彼女の言うことは正しい。」
六車と猿柿は浦原を見つめた。
「ボクはひよ里サンに生きて帰ってきて欲しいと願った。
危険な任務に送り込んだことを、悔やみすらした。
隊長失格ッス。」
そう言って笑ってみせた。
現世は咲が言った虚圏のように過酷な場所ではないけれど、仲間の数が限られているという状況は同じだ。
ならば、何よりも仲間を守り切らねばならない。
生き抜かねばならない。
そのためには、心に強く、思ってもらわねばならないのだ。
生きたい、と。
そのために浦原は言葉を選んだ。
「みんな、貴方のことが好きなんですよ、ひよ里さん。
ボクも、平子サンも、六車さんも、他のみんなもね。
向こうにはもう戻れないかもしれないけれど、仲間はいる。
貴方は、独りじゃない。
だからここで一つ生き抜いて、藍染達をぶっ潰す機会を狙おうじゃないですか。」
猿柿はじっと浦原の顔を見つめていて、自分の言った言葉がしっかり心に届いたか分からない。
様子を窺うように、浦原も彼女を見つめ続けた。
「ならうちも言わせてもらうけど。」
目をそらすことなく、猿柿は腕を組んだ。
「隊長になったことはないからわからん。
うちは虚化した拳西に刀を向けられへんかった。
でも、お前んとこに帰ろうと思ったのは事実や。
お前はもう隊長ちゃうけど、お前みたいな隊長でも、うちはええと思う。」
少女の真っ直ぐな言葉と真っ直ぐな瞳に、浦原は目をわずかに見開く。
「戦いでは命を懸けることを求められる
でもうちは、命じる側の人間が、死ねゆうよりも、生きて帰ることを待っていてくれたほうが、頑張れる。
もちろん心配されるんは悔しいし、そんな隊長は不安や。
でーん!と構えとけ、と思う。」
そう言い切ってから、猿柿はついっと視線を落として、頬を掻いた。
「・・・でもちょっとだけ、嬉しい。」
その言葉に、浦原は穏やかに微笑んだ。
こういう上司と部下の形もまた、自分たちらしい形なのかもしれない、と。
遠い昔虚圏に旅立つ前に見た、咲の凛とした背中を思い出す。
彼女もまた命じた者の為に、命を懸け、そして生きて帰ってくるのだろう。
そして彼女の上司である蒼純もまた、それを望み、願い、待つ。
きっと浦原と同じく、少しばかりの後悔を抱えながら。
「あーあ!
喜助もあいつと同じ罪人になってもうたしな!
ほんましゃーないな!
うちらなんか虚化や、あいつ以下やんか!」
場の空気をほぐすように、猿柿がそう文句を言った。
「でも生きててよかった。
拳西も、白を殺さんで済んでよかったな。」
黙って事の成り行きを見ていた六車に、猿柿がにやっと笑う。
「まぁな。」
六車は微笑む。
浦原と猿柿の成長をくみ取ったのだろう。
「ま、これで面倒くせぇ雑務に追われることもなくなったし、掟に縛られることもない。
次の機会には、必ず殺してやるさ。」
その殺意は他の仲間も同じこと。
闘志を内に秘めながら、浦原も猿柿も一つ頷いた。