原作過去編ー110年前
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咲は飛び起きた。
状況が理解できない。
なぜ自分はベッドに寝かされているのか。
六車は、久南は、そして猿柿はどうなったのか。
案件に従事していた他の隊員は・・・三席の笠城は無事なのか。
(そもそもあれは何だったのか、まるで悪夢のような・・・)
誰もいない個室。
自分が着ているのは病人服で、辺りは明るい。
身体はあちこち痛むが、確実に処置がされて治りつつある。
(あれから一体どれほどの時間が経過したのだろうか。)
まるで本当に夢であるかのような穏やかな空間に、咲はベッドから降りて事を知る人を探しに出かけようとしたが、部屋に人が入ってきてそちらを見る。
「まだ動いてはいけませんよ。」
「山田副隊長・・・。」
副隊長の山田の命令は、咲にとっては絶対だ。
それは烈の命令でもあるからだ。
「あの、六車隊長と久南副隊長はご無事ですか?」
その声はかすれていた。
サイドテーブルに治療セットを置く山田は、咲の問いかけにすぐには答えなかった。
それが何よりの答えだ。
「猿柿副隊長は・・・笠城三席は?」
「詳しいことを伝えるのは、私がするべきことではありません。
私がするべきことは、貴女の治療です。」
穏やかな言葉に、咲は黙る。
彼の言うことはもっともだ。
そして彼がそういうということは、
(誰も、助からなかったということ・・・)
あまりの事実に顔を覆う。
なぜ、技術開発局からの依頼を受けてしまったのだろう。
なぜあのタイミングで向かってしまったのだろう。
後悔してもしきれない。
その様子に、彼女の想像以上の結果が待っているということだけでも伝えるべきか迷ったが、山田は口をつぐんだ。
どうせショックを受けるという未来は変えられない。
ならば無駄に不安をあおることもないだろう、と。
「貴女の目覚めを心から望んでいた方々もおられます。
貴女は、回復を第一に考えて下さい。
卯ノ花隊長もそれを望まれています。」
烈の名を出すことが何よりも咲に効くことを、山田は熟知している。
「貴女の傷は、想像以上に深い。」
生きているのが不思議なくらいだった。
元々戦闘力の高い彼女が、これほどの怪我を負ったことなど、長い間彼女を診てきたとはいえ山田は知らない。
それほど、敵の力が強かったことを示している。
(罪深い・・・真に罪深い。)
つい先日目の前の彼女と同じく罪人とされた優男の顔が頭をよぎった。
穏やかなのは顔ばかりで性格が悪いといわれる自分が言うのもなんだが、彼がそんな残虐なことをするなどとは、山田も微塵も思ってはいなかった。
「・・・よかった。」
病室にやってきた蒼純のほっとした顔に、自分が戻ってこれてよかったと、心底思う。
そして還らなかった人を、そして彼女達を待つ人を思った。
「ご心配おかけして申し訳ありません。」
ベッドから降りようとすればそれを身振りで制され、傷のこともあるためそのままで失礼する。
「あの、他の魂魄消失案件部隊の皆様は・・・。」
ご無事ですか、と聞こうとして、彼らがここにもう居ないことに気付いている分、言葉をつづけられなかった。
「お前には伝えねばならないね。
例えそれが、辛い事実であろうとも。」
蒼純は一瞬俯き辛そうな顔をした後、再び咲を見つめた。
「今回の案件は、浦原喜助による“虚化”の実験、というのが事の真相らしい。」
「虚、化・・・。」
瞼に蘇るのは、虚のような姿となった六車と久南の姿だった。
「その実験対象となったのは、六車隊長、久南副隊長、平子隊長、猿柿副隊長、愛川隊長、鳳橋隊長、矢胴丸副隊長、有昭田副鬼道長。」
「そんな、喜助様が・・・そんなことをするはず・・・。」
普段蒼純の話の腰を折ることなど決してしない咲だが、流石に戸惑いを隠しきれない。
「確かに信じがたいことだけれど、実際研究の痕跡も確認された。」
咲は言葉を失う。
「鬼道衆総帥・大鬼道長であった握菱は禁術の使用により第三地下監獄“衆合”に投獄、そして浦原喜助は全霊力剥奪の上 現世に永久追放、虚化した隊長、副隊長については虚として厳正なる処理を、という処分が下った。」
「そん、な・・・。」
動揺する咲の目の前で、蒼純は淡々と事の終息を述べた。
「だがどうやら、四楓院夜一が彼らの逃走幇助をしたらしい。
11人の行方は、不明だ。」
それは生きているということでも、死んでいるということでもない。
無事なのかどうか分からないし、浦原がそもそも本当に罪を犯しているのかということさえ、信じられない。
「他の隊士の方は?」
「笠城三席、衛島四席については死亡。
東仙五席は魂魄消失案件の始末特務部隊と入れ違いに報せに戻ってきたから無事だったようだ。」
咲は俯く。
その肩に蒼純はそっと手を置く。
笠城三席のことを思っているであろうことは、彼にもわかった。
彼もまた同じことを思ったのだ。
(彼は、咲が裏切って自分を殺したと思って、死んでいったのではないだろうか。)
死んだ人の考えなど知る由はないし、知ったところで訂正することもできやしない。
それでも考えてしまう。
最期まで和解できなかった、互いに互いを許せなかった人のことを。
「では私は・・・私はなぜ、四番隊へ運ばれたのでしょうか。」
「お前は握菱前大鬼道長により四番隊に運ばれたらしい。」
全くもって予想外の話だ。
当然ながら咲は前大鬼道長等と知り合いではない。
それも今や罪人として身を隠したその人に、四番隊に運ばれる理由など、思い付くはずもない。
だが、不安が頭をよぎる。
「私には・・・虚化の疑いや、浦原隊長に加担した疑いはかけられていないのですか。」
罪人となった握菱が助けたのだ、疑われてもおかしくないし、あの現場にいた全員が虚となったというのであれば、咲が実験台になっていないなどと断言することなどできないはずだ。
「もちろんかけられた。」
咲は体を固くする。
あの日と同じだと、思った。
また罪人として、罰を与えられると。
震えるな、震えるな、と自分に言い聞かせ、咲は深く頭を垂れ、あの日のように与えられた罰を告げられるのを待った。
「だから四十六室には私が責任を持つと申し上げた。」
咲は予想だにせぬ言葉にはっとして、顔を上げた。
その先では、穏やかに微笑む上司がいた。
「もしお前が虚となれば、私が殺す。
もしお前が護挺を裏切るのならば、私が殺す。
お前の首に赤色従首輪がある限り、それは今までと何一つ変わらない。」
優しい手がそっと首に触れた。
この首輪は、主と定められたものの力で死ぬまで締め上げることが可能だ。
その霊圧も補足されており、常に監視下にある。
罪人を働かせるための赤色従首輪なのだ。
だが咲は今までたった一度も、締められたことはない。
装着してすぐの試験でさえ、蒼純は頑なに拒んだ。
「お前が忠義を尽くす限り。」
首に触れていた手がそっと頭を撫でた。
優しい手だ。
咲を護る、温かな手。
咲の命を握る、主の手。
咲は俯き、静かに目を閉じた。
状況が理解できない。
なぜ自分はベッドに寝かされているのか。
六車は、久南は、そして猿柿はどうなったのか。
案件に従事していた他の隊員は・・・三席の笠城は無事なのか。
(そもそもあれは何だったのか、まるで悪夢のような・・・)
誰もいない個室。
自分が着ているのは病人服で、辺りは明るい。
身体はあちこち痛むが、確実に処置がされて治りつつある。
(あれから一体どれほどの時間が経過したのだろうか。)
まるで本当に夢であるかのような穏やかな空間に、咲はベッドから降りて事を知る人を探しに出かけようとしたが、部屋に人が入ってきてそちらを見る。
「まだ動いてはいけませんよ。」
「山田副隊長・・・。」
副隊長の山田の命令は、咲にとっては絶対だ。
それは烈の命令でもあるからだ。
「あの、六車隊長と久南副隊長はご無事ですか?」
その声はかすれていた。
サイドテーブルに治療セットを置く山田は、咲の問いかけにすぐには答えなかった。
それが何よりの答えだ。
「猿柿副隊長は・・・笠城三席は?」
「詳しいことを伝えるのは、私がするべきことではありません。
私がするべきことは、貴女の治療です。」
穏やかな言葉に、咲は黙る。
彼の言うことはもっともだ。
そして彼がそういうということは、
(誰も、助からなかったということ・・・)
あまりの事実に顔を覆う。
なぜ、技術開発局からの依頼を受けてしまったのだろう。
なぜあのタイミングで向かってしまったのだろう。
後悔してもしきれない。
その様子に、彼女の想像以上の結果が待っているということだけでも伝えるべきか迷ったが、山田は口をつぐんだ。
どうせショックを受けるという未来は変えられない。
ならば無駄に不安をあおることもないだろう、と。
「貴女の目覚めを心から望んでいた方々もおられます。
貴女は、回復を第一に考えて下さい。
卯ノ花隊長もそれを望まれています。」
烈の名を出すことが何よりも咲に効くことを、山田は熟知している。
「貴女の傷は、想像以上に深い。」
生きているのが不思議なくらいだった。
元々戦闘力の高い彼女が、これほどの怪我を負ったことなど、長い間彼女を診てきたとはいえ山田は知らない。
それほど、敵の力が強かったことを示している。
(罪深い・・・真に罪深い。)
つい先日目の前の彼女と同じく罪人とされた優男の顔が頭をよぎった。
穏やかなのは顔ばかりで性格が悪いといわれる自分が言うのもなんだが、彼がそんな残虐なことをするなどとは、山田も微塵も思ってはいなかった。
「・・・よかった。」
病室にやってきた蒼純のほっとした顔に、自分が戻ってこれてよかったと、心底思う。
そして還らなかった人を、そして彼女達を待つ人を思った。
「ご心配おかけして申し訳ありません。」
ベッドから降りようとすればそれを身振りで制され、傷のこともあるためそのままで失礼する。
「あの、他の魂魄消失案件部隊の皆様は・・・。」
ご無事ですか、と聞こうとして、彼らがここにもう居ないことに気付いている分、言葉をつづけられなかった。
「お前には伝えねばならないね。
例えそれが、辛い事実であろうとも。」
蒼純は一瞬俯き辛そうな顔をした後、再び咲を見つめた。
「今回の案件は、浦原喜助による“虚化”の実験、というのが事の真相らしい。」
「虚、化・・・。」
瞼に蘇るのは、虚のような姿となった六車と久南の姿だった。
「その実験対象となったのは、六車隊長、久南副隊長、平子隊長、猿柿副隊長、愛川隊長、鳳橋隊長、矢胴丸副隊長、有昭田副鬼道長。」
「そんな、喜助様が・・・そんなことをするはず・・・。」
普段蒼純の話の腰を折ることなど決してしない咲だが、流石に戸惑いを隠しきれない。
「確かに信じがたいことだけれど、実際研究の痕跡も確認された。」
咲は言葉を失う。
「鬼道衆総帥・大鬼道長であった握菱は禁術の使用により第三地下監獄“衆合”に投獄、そして浦原喜助は全霊力剥奪の上 現世に永久追放、虚化した隊長、副隊長については虚として厳正なる処理を、という処分が下った。」
「そん、な・・・。」
動揺する咲の目の前で、蒼純は淡々と事の終息を述べた。
「だがどうやら、四楓院夜一が彼らの逃走幇助をしたらしい。
11人の行方は、不明だ。」
それは生きているということでも、死んでいるということでもない。
無事なのかどうか分からないし、浦原がそもそも本当に罪を犯しているのかということさえ、信じられない。
「他の隊士の方は?」
「笠城三席、衛島四席については死亡。
東仙五席は魂魄消失案件の始末特務部隊と入れ違いに報せに戻ってきたから無事だったようだ。」
咲は俯く。
その肩に蒼純はそっと手を置く。
笠城三席のことを思っているであろうことは、彼にもわかった。
彼もまた同じことを思ったのだ。
(彼は、咲が裏切って自分を殺したと思って、死んでいったのではないだろうか。)
死んだ人の考えなど知る由はないし、知ったところで訂正することもできやしない。
それでも考えてしまう。
最期まで和解できなかった、互いに互いを許せなかった人のことを。
「では私は・・・私はなぜ、四番隊へ運ばれたのでしょうか。」
「お前は握菱前大鬼道長により四番隊に運ばれたらしい。」
全くもって予想外の話だ。
当然ながら咲は前大鬼道長等と知り合いではない。
それも今や罪人として身を隠したその人に、四番隊に運ばれる理由など、思い付くはずもない。
だが、不安が頭をよぎる。
「私には・・・虚化の疑いや、浦原隊長に加担した疑いはかけられていないのですか。」
罪人となった握菱が助けたのだ、疑われてもおかしくないし、あの現場にいた全員が虚となったというのであれば、咲が実験台になっていないなどと断言することなどできないはずだ。
「もちろんかけられた。」
咲は体を固くする。
あの日と同じだと、思った。
また罪人として、罰を与えられると。
震えるな、震えるな、と自分に言い聞かせ、咲は深く頭を垂れ、あの日のように与えられた罰を告げられるのを待った。
「だから四十六室には私が責任を持つと申し上げた。」
咲は予想だにせぬ言葉にはっとして、顔を上げた。
その先では、穏やかに微笑む上司がいた。
「もしお前が虚となれば、私が殺す。
もしお前が護挺を裏切るのならば、私が殺す。
お前の首に赤色従首輪がある限り、それは今までと何一つ変わらない。」
優しい手がそっと首に触れた。
この首輪は、主と定められたものの力で死ぬまで締め上げることが可能だ。
その霊圧も補足されており、常に監視下にある。
罪人を働かせるための赤色従首輪なのだ。
だが咲は今までたった一度も、締められたことはない。
装着してすぐの試験でさえ、蒼純は頑なに拒んだ。
「お前が忠義を尽くす限り。」
首に触れていた手がそっと頭を撫でた。
優しい手だ。
咲を護る、温かな手。
咲の命を握る、主の手。
咲は俯き、静かに目を閉じた。