新副隊長編
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緋真はいつものように奉公先の店の掃除をしていた。
この店の夫婦は子どもはいないがとても親切で、緋真のことをまるで孫のようにかわいがってくれた。
それはただ優しくするという意味ではなく、仕事に関しては時には厳しく的確に指導もした。
それがとても有難く、緋真はしばらく会えていない咲に次会えたならば、京楽にお礼を伝えてもらわねばと思っていた。
室内の拭き掃除が終わり、表の掃除をしようと竹箒を手に外に出た時だった。
目の前に黒い影が突然現れ、きゃっと竹箒を握りしめる。
それからその影が誰かを認識したが、声を掛けるのを戸惑った。
相手を竦ませるほど、彼の霊圧は波立っていた。
「緋真、あやつはここに来たか」
地を這うような声に、一瞬言葉を忘れ、慌てて首を横に振る。
彼が尋ねるとすれば、それはただ1人だ。
不安が胸を占める。
目の前の白哉は、彼でいて彼でなかった。
恐ろしく怒りを抱えている。
もともと感情的ではあるが、根が優しいだけにこれほどの怒りを抱くなど異常だ。
「流石にお前の元にももう来ないか」
なんの別れを告げることなく彼女が自分の前から姿を消すという事は衝撃的ではあったが、今の白哉を前にして自分の感情を優先することはできなかった。
緋真はそっと彼の袖を掴み、店の裏へと誘う。
人通りのある店の表では話し難い事であろうと察しての事だった。
正面から向かい合うのは気まずくて、横に並んで躊躇いがちに尋ねる。
「咲さんに、何か……?」
「……あやつは私の父を殺した」
緋真は目を見開き思わず口を覆う。
手にしていた竹箒が、派手な音を立てて地面に転がった。
「そんな……そんなことがあるはず!
だって、お父様は副隊長で咲さんが尊敬する上司で……」
彼女が刃を向けるはずも、そして彼が負けるはずもないと、そう言いたかった。
それは大好きな咲を庇う為の言葉であったが、彼の冷たい怒りの溢れる表情に言葉を続ける事はできなかった。
彼の父への冒涜となるからだ。
「……そうだ、私は許さない。
父の仇は私が打つ。
いつの日か力量も、地位も、心の強さも、全て父を越え、あやつを越え、そして……息の根を止めてやると誓った」
返す言葉など、見つかるはずがなかった。
事実を知らない自分は、どんなに自分の命を救ってくれた咲を信じたいと思ったところで、彼の思いを止めることはできないしその権利はない。
だからと言ってこの怒りを慰める言葉も知らなければ、家族を失う哀しみを紛らわす方法もまた知らない。
こんな未来をいつ誰が想像しただろう。
あんなに穏やかな、陽だまりのような日々を経て、こんな日が来ることを誰が。
すぐ隣にある背中におずおずと手を伸ばす。
そして一瞬ためらった後、そっと手を乗せた。
大きな背中だ。
いつもすくりと伸びた強い背中だが、今日は違う。
小さく震えているようにさえ、感じられた。
まるであの虚に襲われた夜に汚れ震えていた幼き日の自分の背中のようだ、と。
(きっと何かの間違いよ、そうに違いない)
そう思うことしか、彼女にはできなかったし、そうすることが一番正しいように思った。
(私はその日まで、この人を支えよう。
闇に飲まれてしまわないように……)
この店の夫婦は子どもはいないがとても親切で、緋真のことをまるで孫のようにかわいがってくれた。
それはただ優しくするという意味ではなく、仕事に関しては時には厳しく的確に指導もした。
それがとても有難く、緋真はしばらく会えていない咲に次会えたならば、京楽にお礼を伝えてもらわねばと思っていた。
室内の拭き掃除が終わり、表の掃除をしようと竹箒を手に外に出た時だった。
目の前に黒い影が突然現れ、きゃっと竹箒を握りしめる。
それからその影が誰かを認識したが、声を掛けるのを戸惑った。
相手を竦ませるほど、彼の霊圧は波立っていた。
「緋真、あやつはここに来たか」
地を這うような声に、一瞬言葉を忘れ、慌てて首を横に振る。
彼が尋ねるとすれば、それはただ1人だ。
不安が胸を占める。
目の前の白哉は、彼でいて彼でなかった。
恐ろしく怒りを抱えている。
もともと感情的ではあるが、根が優しいだけにこれほどの怒りを抱くなど異常だ。
「流石にお前の元にももう来ないか」
なんの別れを告げることなく彼女が自分の前から姿を消すという事は衝撃的ではあったが、今の白哉を前にして自分の感情を優先することはできなかった。
緋真はそっと彼の袖を掴み、店の裏へと誘う。
人通りのある店の表では話し難い事であろうと察しての事だった。
正面から向かい合うのは気まずくて、横に並んで躊躇いがちに尋ねる。
「咲さんに、何か……?」
「……あやつは私の父を殺した」
緋真は目を見開き思わず口を覆う。
手にしていた竹箒が、派手な音を立てて地面に転がった。
「そんな……そんなことがあるはず!
だって、お父様は副隊長で咲さんが尊敬する上司で……」
彼女が刃を向けるはずも、そして彼が負けるはずもないと、そう言いたかった。
それは大好きな咲を庇う為の言葉であったが、彼の冷たい怒りの溢れる表情に言葉を続ける事はできなかった。
彼の父への冒涜となるからだ。
「……そうだ、私は許さない。
父の仇は私が打つ。
いつの日か力量も、地位も、心の強さも、全て父を越え、あやつを越え、そして……息の根を止めてやると誓った」
返す言葉など、見つかるはずがなかった。
事実を知らない自分は、どんなに自分の命を救ってくれた咲を信じたいと思ったところで、彼の思いを止めることはできないしその権利はない。
だからと言ってこの怒りを慰める言葉も知らなければ、家族を失う哀しみを紛らわす方法もまた知らない。
こんな未来をいつ誰が想像しただろう。
あんなに穏やかな、陽だまりのような日々を経て、こんな日が来ることを誰が。
すぐ隣にある背中におずおずと手を伸ばす。
そして一瞬ためらった後、そっと手を乗せた。
大きな背中だ。
いつもすくりと伸びた強い背中だが、今日は違う。
小さく震えているようにさえ、感じられた。
まるであの虚に襲われた夜に汚れ震えていた幼き日の自分の背中のようだ、と。
(きっと何かの間違いよ、そうに違いない)
そう思うことしか、彼女にはできなかったし、そうすることが一番正しいように思った。
(私はその日まで、この人を支えよう。
闇に飲まれてしまわないように……)