原作過去編ー110年前
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野営用のテントで休んでいた六車は戦闘音に外に飛び出す。
目の前で見張りをしていた衛島が崩れ落ち、目を見開く。
だからと言って動きを止めるのは弱者。
六車はすぐに辺りの気配を探りながら斬魂刀を構える。
「笠城、構えろ!
まだ敵は近くにいる!」
同時に飛び出したはずの部下に声をかけるが、振り返ったときには崩れ落ちるのが目に映り、事態の異常さに奥歯を噛み締める。
倒れ伏した彼は、すでに事切れている。
敵の姿は見えない。
何が起きたのか、これこそが魂魄の消失につながるというのか。
(違う。
卯ノ花の報告では、認知されないような攻撃だといっていた。
こんな、刀傷ではないはずだ。)
笠城の倒れた辺りにはじわじわと血の池が広がりつつあった。
六車の周囲が突如真っ暗になり、そして次の瞬間、背後から刺し貫かれた。
身を捻り、その刀の持ち主を見、愕然とする。
「お前ッ!!!」
刀が引き抜かれ、激痛の内に片膝をつく。
相手は姿を消した。
それと入れ替わるように咲が現れた。
「っ!!
六車隊長!」
すぐに倒れている六車の傷を確認し、鬼道を施す。
「くそっ・・・」
「まだお話にならないでください。
傷に響きます。」
咲の言う通りだ。
ひどい痛みに顔を歪める。
こうなった以上は先ずは己の回復が第一である。
出血が止まり、じわじわと痛みが緩和されて行く。
四番隊でもないのに、随分と治癒に長けていると思い、ふと彼女の養い親が誰か思い出した。
(血は繋がってはいないが、どこか似ているかもな。)
呑気なことを考えたその時だった。
突然爆発的な霊圧と、虚の叫び声、破壊音に息を飲む。
否、息を飲んだのは咲に肩に担がれて瞬歩で移動した衝撃によるものだった。
その歩法は隊長クラスと称しても何ら遜色ない。
地面に足がついてから思わず噎せた。
「申し訳ありません。」
「いや・・・助かった。」
咲の声に首を振り、自分の足で立つ。
礼は言うものの、隊長としても男としても恥ずかしい。
だがそんなことを考えている場合ではないことは、先程まで自分が寝かされていた場所を見れば一目瞭然だった。
「・・・白・・・なのか?」
そこに立っていたのは、久南と同じ明るい緑の髪にすらりとした姿の、虚だった。
しかも彼女の立つ場所一帯が大きく陥没している。
「・・・なんとも判断は。」
苦し気に目を細める咲に、拳西は刀を握りしめる。
殺すならば、自分が殺さねばならない。
隣にいる彼女は六番隊の隊士であり、本来であれば無関係であるはずだ。
こんな危険な任務は、こんな同士討ちにような任務は、させられない。
「下がれ。」
「まだ傷が。」
まだ腕に添えられていた手を、そっと剥がす。
彼女の気遣いはありがたいが、六車は隊長として、目の前の部下、否、虚と戦わねばならない。
「あいつは底無しの馬鹿だ。
そんなあいつが副隊長を勤められるのは、その戦闘力故。
その上、先の攻撃を見る限り戦闘力は上がっている。
もしあの虚が本当に白であるならば・・・俺でなければ止められん。」
久南は言っていた。
ー誰でも、逆らうなら戦うでしょ?
そもそも分かっていたら謀反なんて起きないわけだし。
もし笠城が謀反を起こすなら斬るし、虚に操られても斬る。
拳西でもそう。
何としても止めるよ。ー
彼女は全てを理解している。
そして六車のことを、心の底から信頼している。
まるで子供が親を信じて疑わぬように。
それが彼女のうざくて、そしてどこか可愛く思えたところだ。
「ならば尚更。
助太刀致します。」
隣に立つ咲を、六車は見つめる。
彼女の実力の程は知らないが、この戦いが困難を極めることは想像にたやすい。
「・・・死ぬなよ。」
「はい。」
二人は同時に飛び上がる。
さっきまでたっていた場所はやはり、大きく陥没していた。
久南の力は確かに馬鹿がつくほど強いが、ここまでではなかったはずだ。
となれば、虚になることで力が増しているに違いない。
その分析に掛かっていたためできた一瞬の隙に、目の前まで久南が迫っていた。
だが彼女の姿は一瞬で雷撃に代わる。
咲の放った雷吼炮だ。
襲われたことに怒りを感じたのか、久南は咲に標的を変え、襲い掛かる。
息をつく間もないような蹴技の連続を、咲は受け流し、避け、飛び下がる。
瞬歩を繰り返しながらあちこちで行われる白打。
分析する必要もなく、咲が押されていると六車は思い、助太刀をせねばと思ったとき、詠唱が聞こえる。
「雷鳴の馬車 糸車の間隙 光もて此を六に別つ」
あれほど動いている敵を相手に、六杖光牢など掛けられるわけがないのにと訝しく思う。
だから次の瞬間、久南の攻撃が止まったことに目を見開く。
「縛道六十一 六杖光牢!!!」
鋭い声に、黄色い六つの帯状の光が胴を囲うように突き刺さり、久南の動きを奪う。
「六車隊長、跳んでください!」
鋭い声が頭上からする。
考える前に、六車は跳んだ。
「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 蒼火の壁に双蓮を刻む 大火の淵を遠天にて待つ」
早口で唱えられる呪文に、辺りが青白く光り輝く。
その時初めて、久南の体も青白く輝いていることに気付いた。
何本もの鎖条鎖縛らしきものが、彼女に絡みついている。
動く久南を捕えるために詠唱破棄で鎖条鎖縛を操るのも難易度が高い。
その上縛道の曲光で鎖条鎖縛を隠していたと気づき、六車は咲の鬼道の腕に舌を巻く。
鎖条鎖縛で動きを封じた上での六杖光牢だったのだ。
ここまで動きを奪われた彼女に、逃げる術はない。
「破道七十三 双蓮蒼火墜!!!」
辺りが昼間のように明るくなった。
六車は顔を背ける。
長い付き合いになった部下は、死んだであろうと。
その幕引きを、自分が行えなかった事への苛立ちを、隠すために。