原作過去編ー110年前
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「寝たぞ。」
ひょっこり屋根の上に姿を表した家主に、京楽は盃を掲げた。注いでいるのは自前の酒だ。
その隣に浮竹は腰を下ろす。
羽織がないのはきっと、咲にかけてきたからなのだろう。
「気づいてたの?」
「ああ。
だが咲は気づいてないと思うぞ。」
「そ。
飲もうよ、せっかくだし。
今日のも飛び切り美味いよ。」
「それは嬉しい。」
浮竹も京楽の隣に腰を下ろす。
彼が差し出した盃に、友は酒を注いだ。
そして注がれた方は一気に煽る。
「これは美味い。
やはり酒はお前に任せるのが一番だ。」
月光を受ける浮竹はその白い髪が透けるように見える。
それはまるで、彼の心の清さのようだと、京楽は思った。
「君は良い奴だよ、本当に。」
溜め息と共に京楽は呟く。
「ボクなら彼女を・・・抱いただろう。」
浮竹の手が止まった。
凪いだような瞳は、静に池の水面を眺めている。
星月が光らせる白髪も、節張った手も美しい。
長い付き合いになるが、本当に、本当に良い男だ、と思った。
「だから、君で良かったよ、浮竹。」
京楽は心からの称賛と共に盃を煽った。
隣に座る親友は、誰よりも信頼できる。
彼は清く正しく美しい。
京楽が知る、誰よりも。
「・・・いいや、お前でも同じようにしたさ。」
その言葉に驚いて目を瞬かせる。
浮竹も酒を煽った。
そして空になった盃を差し出して、苦笑を浮かべた。
「お前もそういうやつだ。」
「ええ?
そうかなぁ。」
酒を注いでくれる友を穏やかに見つめ、浮竹は言う。
「愛おしい女の気持ちに、無理に蓋をしてまで手にいれるような男じゃないさ。」
「釘刺されちゃった。」
おどけたように言うと、浮竹は緩く微笑んだ。
彼は真にいい男だ。
彼以上の男を、京楽は知らない。
そして彼の心を知っているからこそ、疑問を投げかける。
「浮竹は・・・本当にいいのかい?」
そしてその疑問の答えも、知っていた。
彼は決して己を曲げたりはしないと、この長い付き合いで痛いほどわかっていた。
「俺の命は護挺に捧げると決めた。
この身にミミハギ様が宿っている限りかわらんさ。
あいつと生きては行けん。
・・・お前こそ、いつまで放っておくつもりだ?」
はぐらかすようにそう言って片方の眉を上げる友に、京楽は首を振る。
「とりあえずボクのことは置いといておこうよ。
ミミハギ様のことは気にしなくてもいいんじゃないかと思うよ。
いられる限り一緒にいたらいいのさ。」
「いられる限り・・・そうだろう。
いられる限りを、望んでしまう。
己の命をなげうつべき場になっても、いきる道を探そうと、足掻くだろう。」
人として当然のことであるのに、悲しげに視線を落とし、彼はそれを否定する。
「その足掻きが、もしかしたら尸魂界を危険に陥れるやもしれん。
ミミハギ様の価値は、重すぎるほどに重い。
迷いは命を奪う。」
かの戦のときも、自分たちは迷いを捨てた。
一瞬の迷いが命取りになるからだった。
それは正しかった。
3人は何とか生き残ることが出来たのだから。
もし戦いの中で少しでも迷っていたら、今こうして過ごすことはできなかっただろう。
間違いない。
(でも浮竹・・・それがいつまでも正しいとは、限らないよ。)
そう思ってはいても、友の決意の前に口に出すことは憚られた。
彼は今ここに存在しないはずだった己の命と、向き合っている。
その理由を求めた結論が、それなのだ。
ならばその結論を否定するなど、無粋な真似をするべきではない。
「一つだけ、言わせてもらえるならさ。」
京楽は友から目を引きはがし、酒を煽る。
「何も考えずに3人一緒にいられた霊術院のころって、幸せだったよねぇ。」