原作過去編ー110年前
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六車は腕を組んで考え込んだ。
その周りで案件担当の久南以外が皆、難しい顔で立っている。
「・・・お前の報告を聞いていると死神の可能性は確かに高いな。」
「隊長!」
衛島が目を見開く。
「お前はいい加減慎め衛島!
この任から解かれたいか!?」
六車の罵声に衛島は不服そうに押し黙った。
「それが嘘であれ真であれ、最悪の事態を想定することは悪いことではないと思います。」
笠城が静かに言う。
「確かに同士に敵が潜んでいるとなると、案件の解決は一気に難易度を増します。」
東仙の言葉に他も頷いた。
その重苦しい空気の中、その話を始めた咲はちらりと時計を見て、言いにくそうに口を開いた。
「あの、大変申し訳ありませんが、一件任務を片付けてきても良いでしょうか。」
「今からか!?」
流石に六車も組んでいた腕を解いて立ち上がる。
日は既に暮れているし、何度も言うが彼女の観察力は今回の任務に欠かせない。
「はい、近場で、一件今日中にとのことで承っておりまして・・・。
申し訳ありません、終わり次第こちらに戻ります。」
痛手だが彼女はもともと九番隊の隊士ではないのだ。
無理は言えない。
咲も咲でこの近くで出ている新種の虚の捕獲任務を技術開発局から受けていた。
期限は今日、日付が変わるまでである。
他隊からの依頼であり、遂行する以外選択の余地はない。
「申し訳ありません。」
咲がもう一度頭を下げると、六車は再び腰を下ろした。
「ああ・・・。
悪いが、急いで頼む。」
「了解いたしました。」
返事をするや否や、咲は野営テントから飛び出した。
「いいんですか?」
衛島がテントの入り口を睨む。
「いいも悪いも、あいつだって自分の判断で動いているわけじゃねぇ。
受けている任務があるのは事実だ。
こっちには痛手だが、敵に動きがないことを祈るしかねぇな。」
頭を掻きながら六車は立ち上がった。
「交代で見張りだ。
休める時に休まねぇと。」
「そうですね。
何が起こるかわかりません。
まずは私が見張りに立ちます。」
東仙の言葉に、他は各々寝る態勢に入った。
魂魄消失案件に就いているため、技術開発局の方には断りを入れていた。
だがこの一件だけはどうしてもと頼まれたものであった。
何としてでも捕らえる必要があるらしい。
(霊体と融合する能力・・・)
任務の詳細が書かれた用紙には、その虚が特異なものだと記されている。
知能も高いらしく、厄介だ。
また明確には分かっていないが、斬魄刀を消滅させる能力をもつ可能性が高いという。
咲が抜擢されたのにも、彼女の虚圏での実力ゆえだろう。
ふと気配に立ち止まる。
少し離れたところに、1人の男性の隊士がいた。
血の匂いが濃い。
深い傷を負っているようだ。
左手が動かないのか、だらりと力なく垂れている。
「助かった!
虚に襲われたんです、班が壊滅状態で、地獄蝶も失ってしまって・・・。」
咲の方に駆け寄ってくる途中で崩れ落ちた隊士に、駆け寄る。
「大丈夫ですか。」
だが後一歩のところで足を止めた。
男はゆっくりと顔を持ち上げる。
「助けてください、足が・・・。
けがをしていてもう、歩けない。」
その言葉に、咲は一瞬で刀を抜いた。
同時に男が飛び上がって距離をとる。
「・・・何故分カッタ?」
男はにやりと笑う。
彼の口からいつの間にか触腕が生えた。
間違いない、今回捕獲の任が下っているのは、この虚だ。
「理由を聞いてどうする?」
「次ハ、バレナイヨウニスルサ。」
ヒヒヒ、と気色悪い声で虚は笑った。
「それは私に勝つつもりでいるということか。」
「当然。
オ前ヲ、喰ラウ!」
死神の体で、斬魂刀を持ったまま、虚は咲に襲い掛かってきた。
その攻撃を咲は難なく受け流す。
剣捌き自体は特筆することがなく、一般隊士の程度を超えない。
それがこの乗っ取られた隊士の実力なのか、虚の実力なのかは判断がつかない。
幸いなのは、咲がこの隊士と顔見知りではないことだ。
これがもし、浮竹や京楽、蒼純であれば、こうは冷静に分析していられないだろう。
咲は一瞬で攻めに転じる。
音を立てて刀が男の腕を切り落とす。
醜い悲鳴を上げながらも、すぐに触腕が再生した。
再生スピードが速いのは、それだけ死神を喰らっているからだろうか。
これは確かに今日仕留めてしまう必要があるだろう。
その時だった。
魂魄消失案件部隊の野営地の方で異様な霊圧を感じ、思わず動きが止まった。
その一瞬の隙に男は姿をくらました。
虚は狩りの途中で逃げることはあまりない。
知能が低いからだ。
だが、目の前の虚は逃げた。
(捕えておくべきであっただろうが・・・。)
追いかけようか一瞬迷ったが、咲は虚とは反対の方向、つまり野営地の方へ駆け出した。
嫌な胸騒ぎがしたのだ。