原作過去編ー110年前
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「ねーねー、うのりん、あのお茶やさんでおはぎ食べようよ!」
「笠城三席にご判断いただかねば。」
うのりん、と呼ばれることにはどうも慣れないが、断ることもできずに振り返る。
後ろでは強面の笠城がため息をついた。
「分かりました。
今日はここだけですよ。」
「やったぁ!
拳西はなかなか食べさせてくれないんだよねぇ。」
久南は茶屋へと飛んでいった。
ちなみにおはぎのおねだりは本日3回目である。
結局、夜営を含め本格的な調査を進めるに当たり、六車、衛島、東仙と、久南、笠城、咲の2班に別れ、定期的に合流することとなった。
「俺達も行くぞ。」
顎で動けと示す笠城に、咲は頷き、茶屋へと歩く。
彼は常に咲を見張ってはいるものの、必要以上のことは言わない。
咲もまた、必要以上に口を開くことはなく、移動中は久南ばかりが話している状態だ。
笠城が久南の左隣に腰を下ろす。
「うのりんも!」
ぽんぽん、と隣の座布団を叩くので、久南の右隣に腰を下ろした。
「おはぎ7つ!」
「な・・・7つですか。」
思わず驚いて呟いた咲に、久南が首をかしげる。
「うのりんもっと食べる?
じゃあ」
「食べません食べません!」
「そう?
じゃあおばちゃん7つで!」
どういう割り振りになるのか分からないが、上司が頼んだのであるから咲は黙る。
「嬉しいなぁ、ここの美味しいんだもん!
拳西もここのは美味しいっていってたよ!」
るんるん、と鼻唄を歌う様子に、思わず微笑んでしまう。
「本当に、六車隊長がお好きなんですね。」
「え?そう?」
自覚がないのかと思わずくすりと笑う。
「一日に何度隊長のお話が出てくるんだろうと思うくらい、お話しされていますよ。」
「うーん、何て言うかもう家族みたいな感じかな。
居て当たり前で空気みたい。」
空を眺めてそう笑顔で話す姿はまるで子どものようで、その戦闘力が群を抜いているようには見えない。
純真で明るい瞳は、ただ一人の上司を思い出しているのだろう。
輝いて見える。
「素晴らしい信頼関係です。」
「信頼っていうのかな、うーん、そうかも。」
久南は照れたように笑った。
「拳西になら全て任せておける。
なんの心配も要らないの。
私は力一杯戦えばいい。」
その言葉は、どこか自分に似ていると思った。
上司である蒼純には全てを任せて置ける。
力一杯戦うことこそが咲に唯一できることで、蒼純が帰りを待っていてくれるということだけで咲には充分だ。
「副隊長だけではないぞ。
六車九番隊の結束は固い。
敵の付け入る隙はない。」
久南の向こうで笠城が静かに言った。
咲は少しだけ言葉に迷う。
「皆の結束が固いと言うのは、実に・・・実に羨ましいものです。」
出てきたのはそんな羨望という言葉で誤魔化した疑念だった。
そのニュアンスを感じたったのだろう。
「貴様、何が言いたい。」
笠城が立ち上がって咲の胸ぐらを荒々しくつかんで立ち上がらせた。
不味いことを言ったと思うも、後の祭りだ。
その昔、響河は同士に裏切られ、策に嵌められた。
響河も咲も、部隊の皆の結束は固いと信じていたのだ。
笠城の、それも響河を陥れた笠城隊長の息子の言葉はその事を思い出させるのに充分すぎた。
「やめなよ、おはぎ来たよ。」
のんびりとした声で仲裁する久南に、笠城は歯を噛みしめ、手を離した。
咲を鋭い目で睨み付けたあと、席に戻る。
咲も襟を正して腰を下ろした。
笠城と居るとどうしても響河の事を思い出してしまう。
(良くないな。)
その自覚はあっても、どうしても止めようがなかった。
並べられたおはぎは、1つは笠城、1つは咲、残りの5つは久南のもののようだ。
咲も甘いものは好きだが、流石に5つは食べられない。
よくそれだけ甘いものを食べられるものだと思うし、その体型をよく維持出来るものだと不思議に思う。
きっとそれだけ彼女が戦っている証拠であり、それでも傷を受けない彼女は、やはり群を抜いて強いのだ。
「いっただっきまーす!」
「いただきます。」
「いただきます。」
3人並んでおはぎを食べる。
隊士に紹介される六車に言われたときは、こんな日が来るとはとてもではないが想像していなかった。
おはぎは確かに甘すぎず、粒の食感も絶妙で美味しい。
そう言えば浮竹もおはぎが好きだったとふと思い出す。
彼を思い出すと不思議と心が休まる。
(先日世話になった礼に今度買って帰ろうか。)
食べ終わって熱い茶を飲む。
隣の久南もいつの間にか5つ平らげ、満足そうにお茶を啜っている。
咲はふと湯飲みをおいて立ち上がった。
「どうしたの?」
久南の問い掛けに答える時間も惜しい。
「近くで魂魄に変化が!」
それだけ言うと駆け出す。
久南が遅れずに着いてくるのを気配で感じた。
着いたのはやはり人里離れた林の中。
「うのりん?」
辺りの様子を見て回る咲に、久南が遠巻きに声をかけた。
その頃になって笠城が姿を表した。
「突発的な別行動は慎め!」
きつい物言いに慌てて頭を下げる。
「申し訳ございません。」
「そんなことより、どうなの?」
久南に促され、林の奥へと進む。
「何もないじゃないか。」
笠城の疑いの眼差しを背中に受けながら、咲は辺りを探りながら進む。
そして、目的の場所にたどり着いた。
「本当に・・・」
笠城は目を見張る。
そこには持ち主のいない服が2着落ちていた。
「確認しますから、中には入らないでください。」
「中?」
久南が首をかしげる。
彼女達にはわからないのだと言うことを思いだす。
「その木と、その木と、それからその岩の間には入らないでください。」
周囲の3ヵ所を指し示す。
「なぜだ。」
「土や草を踏んでしまえば、跡が変わってしまいます。」
笠城は黙り込んで少し考えてから口を開いた。
「・・・分かった。」
彼はやはり、三席を与えられるに相応しいと、咲は思った。
草の倒れ方などを見て回ると、以前のものよりも大きな霊圧の暴走であったことがわかる。
それだけ本人たちの霊圧も高かったということだろう。
咲の分析が間違っていなければ、狙われている被害者は徐々に霊圧が高くなってきている。
(・・・隊士に被害が及んでいないのが、不思議なくらいに。)
咲はふと目の端に移った草の倒れ方が不自然なことに気付く。
「・・・誰かがここを通った。」
「ん?それってどういうこと?」
「この奇怪な状況を素通りするとは思えん。
・・・犯人が通ったということか。」
「おそらく。」
咲らが駆けつけるまでの短時間で、ここを通っているとなれば、犯人である可能性が高いだろう。
「手分けして探すぞ。」
笠城の言葉に、咲は迷う。
「次に狙われるのは、隊士である可能性も高いです。」
「深追いは禁物だというのか。」
咲はもう一つ読み取った事実を伝えるために、少し迷ってから口を開いた。
「足跡はここで途切れています。
おそらく・・・瞬歩。」
「それって、犯人がしにが」
久南の口を笠城が塞ぐ。
咲はほっと溜息をついた。
「声がでかいです!!
犯人が戻ってきている可能性もあります。
そうでなくても誰かに聞かれると信用問題です。
あまりに・・・まずい。」
小声で笠城が久南に耳打ちすると、彼女はわかったというように首を縦に振った。
彼女は解放され、笠城は改めて咲をじっと見つめた。
「・・・だがすべてはお前が言うことが正しいという仮定の基に成立する仮説に過ぎない。」
咲は俯き、それからもう一度彼を見上げた。
「六番隊隊士として、私は嘘をついていないと誓います。」
笠城は咲をじっと見つめてから背中を向けた。
「念のためすべて痕跡を読み取ったうえで、報告に戻る。」
その言葉に咲は頭を下げた。
「了解致しました。」