原作過去編ー伊勢家
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「それで・・・。」
目を見開いて、矢胴丸は何かを言おうと口を開けたり閉じたりした。
「助かった、と。
めでたしめでたし!というわけさ。」
目の前にいる京楽が言葉を続けると、深いため息をつき、ソファの背に身を投げ出すように座り込んだ。
見上げれば電気の明かりが目に飛び込み、眩しくて目を閉じる。
「よかったぁ・・・。」
浮竹のところを出てすぐに矢胴丸を呼び出し、手分けして刑の執行中止に走った。
既に業務終了後となっての呼び出しであったにもかかわらず、彼女はいつよりも早く駆けつけ、そして頼んだこと全てを迅速に、そして首尾よくやり終えたのだ。
「ありがとう、リサちゃん。
君が副官で本当に良かった。」
だらしない様子の副官に、京楽はくすりと笑う。
「ほんまやで、一生感謝しいや。」
「もちろん。」
矢胴丸は薄く目を開いた。
「・・・冗談や。
うちがしたかっただけのこと。」
以前六架に世話になったことがあると話していたことを思い出す。
何があったのか京楽は詳しくは知らないがそれが互いを救うことになったのなら、何よりのことだと思う。
(良い子なんだ、リサちゃんは。)
鼻の下を伸ばすのとはまた違う、慈しむような表情で副官を見つめる。
矢胴丸はゆっくりと体を起こした。
「何が正解かなんてわからんけど・・・
それでも、やっぱり生きていて欲しいと思ってしまうのは、勝手なんやろか。
六架さんは・・・生きているのはもう辛いんやろか。」
珍しく弱気に呟く彼女に、京楽は淡く微笑む。
彼女はやはり素直で真面目で、そして優しい、と。
「何十人も命を奪ってきたボクが言うのもなんだけど、
人は望まれなければ生きられない弱い生き物なのさ。」
その言葉に矢胴丸は上司を見上げた。
彼は窓の外を見ていた。
誰かを思い起こすように。
その表情から心の内は読み取れない。
きっとそれだけ思いが複雑なのだろうと思う。
「誰かが生きてほしいと願うことが、その人の力になる。」
彼が願った人に心当たりがあって、矢胴丸は立ち上がる。
矢胴丸自身はその人のことを全く信用してはいない。
だが、ひとつの確信はある。
「その人のお陰で、今回六架さんが助かったって、ほんまか。」
え、と間の抜けた顔をしてから、京楽は苦笑を浮かべた。
「何、ばれちゃった?」
「アホ。」
「そうだよ、彼女のお陰。
見直した?」
矢胴丸は少し考えてから、苦笑した。
本人は自覚がないだろうが、その柔らかな目元に京楽は安堵する。
「あんたがあいつを信じてるってことは、よう分かった。」
その言葉以上の気持ちが込められているだろうことを知る上司はひとつ頷いた。
「それで十分だよ。」
あの夜、なぜ七緒に偶然 会えたのか。
その疑問は、咲の中で疑念に代わりつつあった。
なぜあのタイミングで虚が出没したのか。
それもなぜ、七緒の目の前に。
しかも咲が近くにいる時だ。
助けに行って間に合う距離、そして六架を助けに行っても、間に合うタイミング。
虚を倒しに行く直前にあった人をふと思い出す。
ー僕が出てこなかったら、立ち去るつもりだったのかな?ー
柔和な笑みを浮かべた彼はあの時、偶然 現れ、偶然 自分に西に走るよう命じた。
もしあの場にいるのが咲一人であれば、北へ先に走ったかもしれない。
なぜ彼は西へと言ったのか。
偶然か、それとも。
(いずれにせよ、疑うよりは感謝すべきか。)
人を疑うのに、自分の上司が一定の距離を置いているというだけでは理由としてあまりに脆弱だ。
だが咲はそれほどまでに蒼純に信頼を寄せていた。
それは全幅の信頼である。
彼が言うことこそ、咲にとっては真であった。
その昔、罪人と呼ばれるに至った上司が彼女にとってそうであったように、今や蒼純こそ、咲を導く道標あった。
「咲。」
涼やかな声が自分を呼ぶ。
死覇装の裾をひるがえし、咲は上司の足元に舞い降りた。
「新しい任務だ。
少し難しそうだが、どうだろうか。」
上司から差し出された任務内容に目を通す。
確かに新種の虚となれば任務の難易度は増す。
その上集団発生している可能性があるのだという。
「大丈夫です、向かいます。」
上司は一つ頷いた。
「難しいと思ったらすぐに応援を呼びなさい。」
「はい。
準備が整い次第、すぐに出ます。」
そういう咲の頭に、上司ー蒼純はいつものように手を乗せる。
「お前は必ず帰って来るのだよ。
いいね。」
「はい。」
何が正しいか等分からぬ世の中だ。
信じていた人が裏切ることもある。
大切な人の明日が奪われることもある。
それでももし、目の前に小さな平和があるのならば。
「・・・必ず。」
そう答えれば彼は優しく満足げに笑った。
(守れるならば、守りたい。)
目を見開いて、矢胴丸は何かを言おうと口を開けたり閉じたりした。
「助かった、と。
めでたしめでたし!というわけさ。」
目の前にいる京楽が言葉を続けると、深いため息をつき、ソファの背に身を投げ出すように座り込んだ。
見上げれば電気の明かりが目に飛び込み、眩しくて目を閉じる。
「よかったぁ・・・。」
浮竹のところを出てすぐに矢胴丸を呼び出し、手分けして刑の執行中止に走った。
既に業務終了後となっての呼び出しであったにもかかわらず、彼女はいつよりも早く駆けつけ、そして頼んだこと全てを迅速に、そして首尾よくやり終えたのだ。
「ありがとう、リサちゃん。
君が副官で本当に良かった。」
だらしない様子の副官に、京楽はくすりと笑う。
「ほんまやで、一生感謝しいや。」
「もちろん。」
矢胴丸は薄く目を開いた。
「・・・冗談や。
うちがしたかっただけのこと。」
以前六架に世話になったことがあると話していたことを思い出す。
何があったのか京楽は詳しくは知らないがそれが互いを救うことになったのなら、何よりのことだと思う。
(良い子なんだ、リサちゃんは。)
鼻の下を伸ばすのとはまた違う、慈しむような表情で副官を見つめる。
矢胴丸はゆっくりと体を起こした。
「何が正解かなんてわからんけど・・・
それでも、やっぱり生きていて欲しいと思ってしまうのは、勝手なんやろか。
六架さんは・・・生きているのはもう辛いんやろか。」
珍しく弱気に呟く彼女に、京楽は淡く微笑む。
彼女はやはり素直で真面目で、そして優しい、と。
「何十人も命を奪ってきたボクが言うのもなんだけど、
人は望まれなければ生きられない弱い生き物なのさ。」
その言葉に矢胴丸は上司を見上げた。
彼は窓の外を見ていた。
誰かを思い起こすように。
その表情から心の内は読み取れない。
きっとそれだけ思いが複雑なのだろうと思う。
「誰かが生きてほしいと願うことが、その人の力になる。」
彼が願った人に心当たりがあって、矢胴丸は立ち上がる。
矢胴丸自身はその人のことを全く信用してはいない。
だが、ひとつの確信はある。
「その人のお陰で、今回六架さんが助かったって、ほんまか。」
え、と間の抜けた顔をしてから、京楽は苦笑を浮かべた。
「何、ばれちゃった?」
「アホ。」
「そうだよ、彼女のお陰。
見直した?」
矢胴丸は少し考えてから、苦笑した。
本人は自覚がないだろうが、その柔らかな目元に京楽は安堵する。
「あんたがあいつを信じてるってことは、よう分かった。」
その言葉以上の気持ちが込められているだろうことを知る上司はひとつ頷いた。
「それで十分だよ。」
あの夜、なぜ七緒に
その疑問は、咲の中で疑念に代わりつつあった。
なぜあのタイミングで虚が出没したのか。
それもなぜ、七緒の目の前に。
しかも咲が近くにいる時だ。
助けに行って間に合う距離、そして六架を助けに行っても、間に合うタイミング。
虚を倒しに行く直前にあった人をふと思い出す。
ー僕が出てこなかったら、立ち去るつもりだったのかな?ー
柔和な笑みを浮かべた彼はあの時、
もしあの場にいるのが咲一人であれば、北へ先に走ったかもしれない。
なぜ彼は西へと言ったのか。
偶然か、それとも。
(いずれにせよ、疑うよりは感謝すべきか。)
人を疑うのに、自分の上司が一定の距離を置いているというだけでは理由としてあまりに脆弱だ。
だが咲はそれほどまでに蒼純に信頼を寄せていた。
それは全幅の信頼である。
彼が言うことこそ、咲にとっては真であった。
その昔、罪人と呼ばれるに至った上司が彼女にとってそうであったように、今や蒼純こそ、咲を導く道標あった。
「咲。」
涼やかな声が自分を呼ぶ。
死覇装の裾をひるがえし、咲は上司の足元に舞い降りた。
「新しい任務だ。
少し難しそうだが、どうだろうか。」
上司から差し出された任務内容に目を通す。
確かに新種の虚となれば任務の難易度は増す。
その上集団発生している可能性があるのだという。
「大丈夫です、向かいます。」
上司は一つ頷いた。
「難しいと思ったらすぐに応援を呼びなさい。」
「はい。
準備が整い次第、すぐに出ます。」
そういう咲の頭に、上司ー蒼純はいつものように手を乗せる。
「お前は必ず帰って来るのだよ。
いいね。」
「はい。」
何が正しいか等分からぬ世の中だ。
信じていた人が裏切ることもある。
大切な人の明日が奪われることもある。
それでももし、目の前に小さな平和があるのならば。
「・・・必ず。」
そう答えれば彼は優しく満足げに笑った。
(守れるならば、守りたい。)