学院編Ⅱ
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頃は春、3月の半ば。
一通の封筒が、担任から手渡された。
そのどこか嬉しそうな表情に促され、封を切る。
飛級試験受験者二十五人
内、合格者九名
内、六学年合格者三名
浮竹十四郎
京楽春水
空太刀咲
「よくやったな、おめでとう」
まだ信じられなくてぼうっと紙を見つめている咲に、担任はそう労った。
「あの……ありがとうございます」
咲は何とかそれだけ言うと職員室を後にした。
実感がないまま窓の外を眺めて立ち止まる。
桜が散る。
去年このころに入学して、苦しい学院生活が始まり、京楽と浮竹に出逢い、山上家の一件では護挺にも厄介になった。
その後あっという間にやってきた試験。
眼の下に隈ができるほど勉強もしたし、動けなくなるほど鍛錬にも励んだ。
更木にいたころとは、まるで違う。天と地ほどに。
隣に共に励む人がいるというのがこれほど幸せなことだとは、思いもしなかった。
バタバタと忙しない足音に振り返って、そのまま突然抱きしめられた腕に、咲は驚いて身体をこわばらせた。
「やったね!空太刀っ!!」
耳のすぐ横でする嬉しそうな京楽の声。
「本当によく頑張ったぞ!!」
髪をわしゃわしゃとかき回す浮竹。
その勢いに思わず目を閉じる。
初めて実感が湧いてきた。
いつもそうだ、と咲は思う。
2人が、導いてくれる。
「ありがとうございます……!
お二人のお陰です!!」
自分の声も、弾んでいる。
「そんなことないよ。
空太刀が頑張ったからさ!」
「これからは同じ学年だな!
よろしくな、空太刀!」
ようやく身体を離して、ヘラっと笑う京楽。
力強く肩をたたく浮竹。
「はい、よろしくお願いします」
ずいぶん明るい表情を浮かべるようになったと、2人も嬉しそうに笑った。
吉報を胸に、春休みに咲は卯ノ花家に挨拶に帰った。
教育係を務めてくれていた女中、谷口が迎えてくれた。
「ご無沙汰しておりました」
「ええ。
この度は随分頑張ったようですね。
さ、中に入りなさい」
谷口は、今では咲のことを娘のように感じている。
温かなその様子がくすぐったくて、咲は少し頬を赤らめ俯いた。
「はい」
卯ノ花家で作法などの復習もしてもらうとのことで、1週間滞在することになっていた。
その間に新学期から後れを取らないよう予習や復習もせねばと、背負う荷物はかなり重い。
与えられた部屋の戸をあけ、やっと荷物を下ろす。
溜息と共に荷物から顔を上げ、咲は思わず目を見開いた。
「おかえりなさい、咲」
温かな微笑みを浮かべ、部屋の中央に座っているのは。
「れ……烈様……!」
「驚いててもらえたようですね」
烈は穏やかに微笑む。
最期に見たころよりずっと豊かになった表情は、まるで花が咲いたようだ。
背も伸び、体つきも少し大人に近づいたように見える。
子どもの成長とは早いものだと目を細めた。
咲は慌てて座って頭を下げる。
「まさかこちらにいらっしゃるとは思いもよらず、失礼いたしました。
空太刀咲、本日第1学年を修業し、来年度より第6学年に進学する次第となりました」
「頭をあげなさい、咲」
「はい」
顔を上げれば、今度は烈が驚いた顔をしていた。
「本当なのですか?」
「はい!」
「今年から飛び級制度が始まるという話は聞きましたが、まさか、1年から6年に飛び級するとは……。
すばらしいですよ、咲。
私も鼻が高いです」
その美しい笑顔に、咲は頬が熱くなるのを感じ、照れたように俯いた。
またその様子に烈は笑みを深め、その頭をそっとなでる。
「成績を見せてもらえますか」
烈の言葉に、慌てて大きな風呂敷から成績表と飛び級の合格書を取り出す。
「素晴らしい成績ですね、本当に」
それもそのはず、全て学年のトップを納めている。
「飛び級試験の方も、上級生もいる中で良く頑張りました」
「ありがとうございます」
はにかんでそう呟く姿に、烈も人知れず安堵をおぼえる。
(もう、他の子供と大差はない……でしょう)
「そういえば、この前は聞きそびれましたが、京楽家と浮竹家のご子息と仲良くさせていただいているそうですね」
この前、とは山上家の一件の時だろう。
あの時はバタバタしていて、烈も仕事が絶えず、咲も傷が癒え次第すぐに退院したため、雑談をする余裕はなかった。
貴族には気をつけるように教育されていた反面、2人との交友関係が話題に上るとどうしても身構えてしまう。
(止められるのだろうか……)
身の程を知らぬ付き合いは身を滅ぼしてしまう。
それがこの社会だ。
「は……はい。
斬術の訓練など、飛び級試験の勉強を一緒にさせていただきました」
その姿に烈は小さくほほ笑む。
「なにを慌てているのですか。
先日、京楽家の御当主にお会いしました時に、喜んでらっしゃいましたよ。
貴方達と一緒に飛び級試験の勉強に励んでいると。
今まであまり勉学に励むことのなかったらしいから、私がお礼を言われてしまいましたよ」
思いもよらぬ言葉に、咲は驚く。
「これからも、頑張りなさい。
貴方が護挺に来てくれる日を楽しみにしていますよ」
その一言に、咲は目を輝かせた。
「……はいっ」
その表情に、烈は穏やかな微笑みを浮かべ部屋から出て行った。
咲はそれを見送ると、成績表と合格書を胸に抱きしめた。
自分を初めて見てくれた彼女には、いくら礼を言っても足りないくらいの恩がある。
(必ずや護挺に……!)
烈は咲の部屋からしばらく離れてからひとつため息をついた。
(もう他の子とも大差がないでしょう)
初めて出会ったときのあの警戒心の強い獣のような姿は、日常生活を送る限り、今の彼女にはもう見られない。
礼儀作法も他の令嬢と比べてもなんの遜色もないだろう。
山上家の一件に関する隊首会で、玖楼が咲を退学させた上で監視すると言った時には何を考えているのかと戸惑った。
それほどまでせねばならぬ事ではないと思っていたからだ。
たかが院生。
虚を捕まえるだけの実力があることが証明されているだけのこと。
(彼女は山上家の滅亡を導くような子ではない)
そう確信しているものの、身内にあたる自分が何を言おうと玖楼はまたあの笑顔を浮かべて言うだろう。
卯ノ花隊長らしくありませんよ、娘のように大切にされているのですから、分からないこともありませんが、と。
それでもひとつだけ、言いたいことがあった。
ー彼女は玖楼隊長がおっしゃった通り、獣です。
ですから、学ばせなければなりません。
道徳、倫理、規律……力があるからこそー
その昔、罪深き烈をそう言って救った人がいた。
自らがその言葉を発する日が来るとは思いもしなかったが、全ては巡り巡ることなのだと目を閉じる。
助け舟を出したのは朽木だった。
ー23体の虚を改造された山上末雪と共にとはいえ、壊滅させた力。
それがもし黒であるならば放置するわけにはいかない。
しかし貴方の言う通り彼女がただの獣であるならば、教育次第でいずれは大きな戦力に成り得るー
それは事実だった。
だからこそ、その場にいた者たちは最終判断を承るべく総隊長を見た。
ー不穏因子を手放しにしておくことはできん。
しかし朽木隊長の意見も一理ある。
よって、空太刀咲は経過観察対象とする。
今後の件については、霊術院の視察にもあたっている六番隊に一任するー
烈の足は客間へと向かう。
ふすまを開けるとその中には、静かに黙想している男がいた。
「あれから半年近くたちましたが、いかがですか?
朽木隊長」
銀嶺は静かに目を開けた。
「私は彼女を半年しか見てはおらぬ。
否、それも私が見ているわけではない。
多くは隊士からの報告にすぎぬ。
しかし隊士達がいつも同じことを言う。」
一度言葉を切り、湯飲みに手を伸ばした。
一口飲んで、彼が表情を変えないところを見ると、どうやら口にあったらしい。
「立ち振る舞いは更木出身とは思えない。
剣拳走鬼の腕は下級隊士より上で、何より歳の割に手慣れている。
まだ力こそ戻りきってはおらぬが、いずれは」
その言葉が含むものに烈は静かに頷いた。
「ええ、間違いないでしょう」
「貴方には礼を言わなければならない」
今度は首を横に振り、そして暗い表情で俯く。
「でも私には分からないのです」
暫くして紡がれた言葉に、銀嶺は不思議そうに烈を見つめる。
「あの子 にとって、これは本当に良いことだったのか。
未来をまた摘み取ってよいのか。
勿論必要なことだと分かっています。
ですが……」
「貴方にしては珍しいことがある者ですな、烈殿。
歳を取って臆病になられたか」
銀嶺は目を細め、昔から馴染んだ名を呼んだ。
からかいであると分かっても、烈は微かに視線を鋭くした。
それは名を変えて何百年の月日が流れようと、彼女の中に流れる”八千流”の血を感じさせるには充分だった。
だが百戦錬磨の老人もそれで怯えたりはしない。
「これは失礼。
ただ、あの頃の貴女ならば、私を睨みつけてこう言っただろう。
私が信じる、私が救う、私が戦う、私が変えるーーそれが彼女からの教えではなかったか」
烈は静かに目を閉じる。
遠い昔、自分を守った大きな背中。
その人は確かに、烈を信じ、救い、戦い、変えた。
そっと目を開き、烈は困ったように笑った。
「ありがとうございます……確かに貴男の言う通りだったかもしれません」
一通の封筒が、担任から手渡された。
そのどこか嬉しそうな表情に促され、封を切る。
飛級試験受験者二十五人
内、合格者九名
内、六学年合格者三名
浮竹十四郎
京楽春水
空太刀咲
「よくやったな、おめでとう」
まだ信じられなくてぼうっと紙を見つめている咲に、担任はそう労った。
「あの……ありがとうございます」
咲は何とかそれだけ言うと職員室を後にした。
実感がないまま窓の外を眺めて立ち止まる。
桜が散る。
去年このころに入学して、苦しい学院生活が始まり、京楽と浮竹に出逢い、山上家の一件では護挺にも厄介になった。
その後あっという間にやってきた試験。
眼の下に隈ができるほど勉強もしたし、動けなくなるほど鍛錬にも励んだ。
更木にいたころとは、まるで違う。天と地ほどに。
隣に共に励む人がいるというのがこれほど幸せなことだとは、思いもしなかった。
バタバタと忙しない足音に振り返って、そのまま突然抱きしめられた腕に、咲は驚いて身体をこわばらせた。
「やったね!空太刀っ!!」
耳のすぐ横でする嬉しそうな京楽の声。
「本当によく頑張ったぞ!!」
髪をわしゃわしゃとかき回す浮竹。
その勢いに思わず目を閉じる。
初めて実感が湧いてきた。
いつもそうだ、と咲は思う。
2人が、導いてくれる。
「ありがとうございます……!
お二人のお陰です!!」
自分の声も、弾んでいる。
「そんなことないよ。
空太刀が頑張ったからさ!」
「これからは同じ学年だな!
よろしくな、空太刀!」
ようやく身体を離して、ヘラっと笑う京楽。
力強く肩をたたく浮竹。
「はい、よろしくお願いします」
ずいぶん明るい表情を浮かべるようになったと、2人も嬉しそうに笑った。
吉報を胸に、春休みに咲は卯ノ花家に挨拶に帰った。
教育係を務めてくれていた女中、谷口が迎えてくれた。
「ご無沙汰しておりました」
「ええ。
この度は随分頑張ったようですね。
さ、中に入りなさい」
谷口は、今では咲のことを娘のように感じている。
温かなその様子がくすぐったくて、咲は少し頬を赤らめ俯いた。
「はい」
卯ノ花家で作法などの復習もしてもらうとのことで、1週間滞在することになっていた。
その間に新学期から後れを取らないよう予習や復習もせねばと、背負う荷物はかなり重い。
与えられた部屋の戸をあけ、やっと荷物を下ろす。
溜息と共に荷物から顔を上げ、咲は思わず目を見開いた。
「おかえりなさい、咲」
温かな微笑みを浮かべ、部屋の中央に座っているのは。
「れ……烈様……!」
「驚いててもらえたようですね」
烈は穏やかに微笑む。
最期に見たころよりずっと豊かになった表情は、まるで花が咲いたようだ。
背も伸び、体つきも少し大人に近づいたように見える。
子どもの成長とは早いものだと目を細めた。
咲は慌てて座って頭を下げる。
「まさかこちらにいらっしゃるとは思いもよらず、失礼いたしました。
空太刀咲、本日第1学年を修業し、来年度より第6学年に進学する次第となりました」
「頭をあげなさい、咲」
「はい」
顔を上げれば、今度は烈が驚いた顔をしていた。
「本当なのですか?」
「はい!」
「今年から飛び級制度が始まるという話は聞きましたが、まさか、1年から6年に飛び級するとは……。
すばらしいですよ、咲。
私も鼻が高いです」
その美しい笑顔に、咲は頬が熱くなるのを感じ、照れたように俯いた。
またその様子に烈は笑みを深め、その頭をそっとなでる。
「成績を見せてもらえますか」
烈の言葉に、慌てて大きな風呂敷から成績表と飛び級の合格書を取り出す。
「素晴らしい成績ですね、本当に」
それもそのはず、全て学年のトップを納めている。
「飛び級試験の方も、上級生もいる中で良く頑張りました」
「ありがとうございます」
はにかんでそう呟く姿に、烈も人知れず安堵をおぼえる。
(もう、他の子供と大差はない……でしょう)
「そういえば、この前は聞きそびれましたが、京楽家と浮竹家のご子息と仲良くさせていただいているそうですね」
この前、とは山上家の一件の時だろう。
あの時はバタバタしていて、烈も仕事が絶えず、咲も傷が癒え次第すぐに退院したため、雑談をする余裕はなかった。
貴族には気をつけるように教育されていた反面、2人との交友関係が話題に上るとどうしても身構えてしまう。
(止められるのだろうか……)
身の程を知らぬ付き合いは身を滅ぼしてしまう。
それがこの社会だ。
「は……はい。
斬術の訓練など、飛び級試験の勉強を一緒にさせていただきました」
その姿に烈は小さくほほ笑む。
「なにを慌てているのですか。
先日、京楽家の御当主にお会いしました時に、喜んでらっしゃいましたよ。
貴方達と一緒に飛び級試験の勉強に励んでいると。
今まであまり勉学に励むことのなかったらしいから、私がお礼を言われてしまいましたよ」
思いもよらぬ言葉に、咲は驚く。
「これからも、頑張りなさい。
貴方が護挺に来てくれる日を楽しみにしていますよ」
その一言に、咲は目を輝かせた。
「……はいっ」
その表情に、烈は穏やかな微笑みを浮かべ部屋から出て行った。
咲はそれを見送ると、成績表と合格書を胸に抱きしめた。
自分を初めて見てくれた彼女には、いくら礼を言っても足りないくらいの恩がある。
(必ずや護挺に……!)
烈は咲の部屋からしばらく離れてからひとつため息をついた。
(もう他の子とも大差がないでしょう)
初めて出会ったときのあの警戒心の強い獣のような姿は、日常生活を送る限り、今の彼女にはもう見られない。
礼儀作法も他の令嬢と比べてもなんの遜色もないだろう。
山上家の一件に関する隊首会で、玖楼が咲を退学させた上で監視すると言った時には何を考えているのかと戸惑った。
それほどまでせねばならぬ事ではないと思っていたからだ。
たかが院生。
虚を捕まえるだけの実力があることが証明されているだけのこと。
(彼女は山上家の滅亡を導くような子ではない)
そう確信しているものの、身内にあたる自分が何を言おうと玖楼はまたあの笑顔を浮かべて言うだろう。
卯ノ花隊長らしくありませんよ、娘のように大切にされているのですから、分からないこともありませんが、と。
それでもひとつだけ、言いたいことがあった。
ー彼女は玖楼隊長がおっしゃった通り、獣です。
ですから、学ばせなければなりません。
道徳、倫理、規律……力があるからこそー
その昔、罪深き烈をそう言って救った人がいた。
自らがその言葉を発する日が来るとは思いもしなかったが、全ては巡り巡ることなのだと目を閉じる。
助け舟を出したのは朽木だった。
ー23体の虚を改造された山上末雪と共にとはいえ、壊滅させた力。
それがもし黒であるならば放置するわけにはいかない。
しかし貴方の言う通り彼女がただの獣であるならば、教育次第でいずれは大きな戦力に成り得るー
それは事実だった。
だからこそ、その場にいた者たちは最終判断を承るべく総隊長を見た。
ー不穏因子を手放しにしておくことはできん。
しかし朽木隊長の意見も一理ある。
よって、空太刀咲は経過観察対象とする。
今後の件については、霊術院の視察にもあたっている六番隊に一任するー
烈の足は客間へと向かう。
ふすまを開けるとその中には、静かに黙想している男がいた。
「あれから半年近くたちましたが、いかがですか?
朽木隊長」
銀嶺は静かに目を開けた。
「私は彼女を半年しか見てはおらぬ。
否、それも私が見ているわけではない。
多くは隊士からの報告にすぎぬ。
しかし隊士達がいつも同じことを言う。」
一度言葉を切り、湯飲みに手を伸ばした。
一口飲んで、彼が表情を変えないところを見ると、どうやら口にあったらしい。
「立ち振る舞いは更木出身とは思えない。
剣拳走鬼の腕は下級隊士より上で、何より歳の割に手慣れている。
まだ力こそ戻りきってはおらぬが、いずれは」
その言葉が含むものに烈は静かに頷いた。
「ええ、間違いないでしょう」
「貴方には礼を言わなければならない」
今度は首を横に振り、そして暗い表情で俯く。
「でも私には分からないのです」
暫くして紡がれた言葉に、銀嶺は不思議そうに烈を見つめる。
「
未来をまた摘み取ってよいのか。
勿論必要なことだと分かっています。
ですが……」
「貴方にしては珍しいことがある者ですな、烈殿。
歳を取って臆病になられたか」
銀嶺は目を細め、昔から馴染んだ名を呼んだ。
からかいであると分かっても、烈は微かに視線を鋭くした。
それは名を変えて何百年の月日が流れようと、彼女の中に流れる”八千流”の血を感じさせるには充分だった。
だが百戦錬磨の老人もそれで怯えたりはしない。
「これは失礼。
ただ、あの頃の貴女ならば、私を睨みつけてこう言っただろう。
私が信じる、私が救う、私が戦う、私が変えるーーそれが彼女からの教えではなかったか」
烈は静かに目を閉じる。
遠い昔、自分を守った大きな背中。
その人は確かに、烈を信じ、救い、戦い、変えた。
そっと目を開き、烈は困ったように笑った。
「ありがとうございます……確かに貴男の言う通りだったかもしれません」