原作過去編ー伊勢家

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「おっす、。」

「浮竹・・・隊長。
 どうして・・・こんなところに?」

遠征からの帰り道、人里離れた場所でばったりと出会った友に戸惑いを覚える。
あまりに偶然すぎるし、なにより気不味い。
彼とは以前酒を飲んだ晩から顔を合わせていなかった。
流石に合わせ辛かったのだ。

は結局現世での任務を4日早く終わらせた。
併せて受けていた任務地であるここは比較的番号の大きな区画で、彼は足を運ばねばこられない場所だ。

ならばなぜ今、彼はここにいるのか。

「そんな不思議そうな顔をするな。
 確かめてみたかったんだ。」

「何をですか?」

「十二番隊の霊圧探知。」

その昔、実験段階だった技術は響河の一件で一気に実用化された。
今では発信器がなくともどこにいるのかはもちろん、霊圧の強弱まで関知できるようになったため、救援要請がなくとも救援に向かえるようになったのだと言う。

「お陰でこうして会うことができたと言うわけさ。
大したもんだ。」

どこかはぐらかされた気がしたが、ひとつ頷いた。

「それから今は周りに人はおらん。」

「・・・うん。」

浮竹と京楽は昔のままであろうと言うが、今やと二人の間には埋めようのない大きな溝がある。
二人はもう、ただの人ではない。
多くの隊士から憧れと信頼のこもった瞳で見つめられる存在となったのだ。
一挙一動全てみられていると言っても過言ではない。
蒼純であれば罪人のを監視し任務に就かせると言う理由もあるため共にいても問題はないが、他隊の隊長となれば話は別だ。
信頼に関わってくる。

「でも隊長が一人で出歩くなんて、良くないんじゃない?」

「何、大したことじゃないさ。」

「心配されるよ。」

「大丈夫さ。」

彼は穏やかに笑う。
おおらかなのか楽天的なのか、実力あってのことではあるが、部下達も困るだろうと思う。

「最近妙だと思わないか。
虚の種類が増えた気がしてな。」

「確かに50年前に比べると気になる。」

「虚圏はどうだったんだ?」

「さして気にもならなかったように思う。」

彼のふと視線が肩で止まる。

「怪我したのか。」

「もう治っている。」

切り裂かれたままの死覇装の隙間からは晒が覗く。

「やはり一人で任務に向かうのは危険だと思うんだが。」

「私では対処しきれないと判断される場合には蒼純副隊長が同行してくださるから心配いらない。」

「とは言え、急な奇襲もあり得るだろう。
 基本的に3人以上で当たるのが基本だというのに。」

は小さく笑った。

「大丈夫。」

「その言葉が一番不安だ。」

眉をひそめる姿に安心させるように笑ってみせる。

「ちゃんと実力は分かっているよ。」

「どうだかなぁ。」

なおも渋る様子に首をかしげる。

「信用できない?」

「そうではないが。」

彼はひとつ、溜め息をついた。

「俺も京楽も心配しているんだからな。」

どこか子どものような拗ねた言い草に、は首を振る。

「隊長ともあろう方が何を。」

「友の心配と役職は別物だ。」

「都合がいいこと。」

小さく笑う様子に浮竹は溜め息をつく。

「全くお前と言うやつは。」

頭を掻く様子は学生だった頃となにも変わっていない様に思えるのに、身に付けている物に雲泥の差がある。


白い隊長羽織と赤い罪人の首輪。


は苦しさを隠すように微笑んだ。
彼はそんなことは気にしていないし、のためにも隊長になったと言うようなことを、京楽が言っていた。

どうして、と思う。
にとってはたった二人の友達だったけれど、彼らは違う。
沢山の人に囲まれて生きてきたのに。

眩しくて友人と呼ぶのもためらわれる隣の存在から目をそらす。

「そういえば京楽家の当主・・・
 京楽のお兄さんのことは聞いているかい?」

貴族の鑑だとよく言われていた人だ。
入隊試験合格の折りに京楽家に行ったときから顔を覚えてくれているらしく、それ以来何度か言葉を交わした事がある。

「いや、何か?」

「容体が思わしくないらしい。
 都合が合えば見舞いでもと思っているんだ。」

その誘いのために会いに来たのかと合点が行く。
流石にが隊長二人と連れ立って上流貴族の見舞いなどの相談は簡単にはできないし、前回の気まずい別れかたの後で呼び出されたところで、もなにかと理由をつけて会うことを延期しだろう
京楽と彼の兄は正反対の性格だとは聞いていたが、優しくて気遣いができるところ等はそっくりだった。
先日図書館で会った時、確かに顔色があまりよくなかったと思い出す。

「というのも実は奥方が伊勢家の方なんだ。
 伊勢家には昔から呪いのような物があってな。
 婿入りした男が早世するという呪いが言い伝えられている。
 京楽の義姉は伊勢の血筋を絶やす覚悟で京楽の兄の元へ嫁いだそうだ。」

その女性も受け入れた男性も、どちらも強い人なのだと思う。
両家のそれぞれの運命をかけるなど。

そしてその二人の運命への思いから生まれた娘も、きっと強い人になるのだろう。
知的な可愛らしさのなかに、強さを秘めた少女を思い出す。

不意の気配に振り返れば、激しい爆発音が鳴り、爆風に白髪と白い羽織が舞っていた。
浮竹の出した大きな円閘扇が二人を守っていたのだ。
よりも早く発された、巨大な爆発にびくともしない盾。
その力量が50年前とは比べ物にならず、目を見開いてしまう。

「私が。」

彼の背中にそう声をかけて前に出ようとすれば左手に遮られる。

「俺がせねばならん。」

その背中はの知らない彼の姿だった。
強く偉大なもので、50年前に響河を封印する際に響河からを庇った銀嶺のものによく似ていて、は立ちつくした。

「浮竹十四郎!!!」

荒々しい声を上げて襲いかかる男の刀を、なんなく受け止める。

「お前のせいで兄は消えた!
 どこだ!どこにやった!!」

「何度言えばわかる。
 お前もこのままでは同じ道を歩むことになる。
 兄のことは忘れ、清く正しい道を進め。」

「なにをふざけたことを!」

強力な男の力は、どこか彼に不釣り合いに見える。
徐々に斬魄刀に喰らわれているような印象を受けるのだ。

「お前こそ穢い手を使ってそこまで這い上がったんだろう!
 向こうの女は罪人じゃないか!」

息巻く男の言葉には目を見開く。
この言葉を何よりも恐れていた。
自分のせいで友に危害が及ぶことを。

「なぜお前のような罪人はここにいるのに兄上は!!」

刃の先から発される巨大な電撃がに襲いかかる。
高く飛び上がって避けようとするがそれを追いかけてくる。
迷いなく抜刀し、刀身に電気を帯びさせる。

しかしその目の前に再び白が舞い込んだ。

ー俺がせねばならん。ー

大きな背中から、またそう聞こえた気がした。








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