原作過去編ー伊勢家
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食べ終わった二人は席を立つ。
どちらが支払うか話す前に咲が会計を済ませた。
まだこういったことに慣れていない白哉はすねた顔をする。
「私が御馳走したかった・・・。」
「入学のお祝ですから。
さ、お父様と明翠様へのお土産を買いましょう。」
「うむ・・・。」
二人で選んだ菓子を手に、白哉は微笑む。
家族を思っているのだろう。
咲も流れで買うことになってしまった烈への葛饅頭を見る。
忙しい彼女にいつ渡そうかと。
「卯ノ花隊長もきっと喜ばれる。」
そんな咲を見てか、白哉は言った。
「早く渡さねばな。
帰りによるか?」
日持ちを考えると確かによって帰らなければならないだろう。
黙って考え込んでしまった咲を置いて、白哉が歩き出す。
顔をあげれば、意地悪な笑顔が向けられた。
「こっちだったな。」
「あ、お待ちください。」
「早く来い。」
夕暮れの道を二人でのんびり歩く。
近づいては離れる影は確かに姉弟が戯れているようだ。
微笑ましい二人が近道をするために林の中を進んでいるときだった。
咲が一瞬で白哉の背後に回り込み、手をつき出した。
「縛道の三十九 円閘扇。」
白哉が振り返った先にあったのは、自分の何倍もある虚の攻撃を、薄い盾一枚で遮る咲の背中だった。
「早くお逃げください。」
背中越しにかけられる声に、思わず首を振る。
「お前を置いてか?」
「はい。」
「そんなことができるか!」
自分をかばう背中の大きさは、自分とさほど変わらない。
纏められた髪が露にした項は他人と比べ物にならないくらい白く、構えられた手は細い。
そして何より。
「斬魄刀も持たぬのに!」
彼女の隣に一歩踏み出す。
咲が目を見開いた。
「祖父と父から手解きはうけている。」
鬼道を放とうと構える姿に、咲は顔をしかめた。
「この程度なら私の鬼道で充分。
離れてください。」
そういっても聞く耳を持たない。
「嫌だ!」
しかし振り上げられた爪に白哉は一瞬恐怖に固まる。
ギリギリに迫るそれに、なんとか後ろに跳ぶ。
心臓がかつてないほど音を立てていた。
(祖父も父も、そして咲も、こんな戦いが日常だと言うのか!)
気付けば咲がすぐ傍にいた。
いつの間にかまた透明な盾で白哉を守っている。
その向こうでは虚が雄叫びをあげながら暴れていた。
空気のように澄んだ薄い盾はびくともしない。
それだけ術者が強いということなのだ。
「お分かりでしょう。
若様はまだ霊術院に入学されたばかりです。
私にお任せください。」
その冷静な言葉は、彼女がどれ程慣れているかを示している。
彼女は、白哉が力なく一つ頷くのを待つ余裕さえあるのだ。
そして、一つ頷くのを見届けると、白哉の隣から消えた。
虚が動く先に、ひらりと着物が舞うのが見えた。
(私は、弱い。)
充分距離が離れたところで、巨大な青い火柱が上がった。
見たこともないほど大きな蒼火墜だった。
「なんじゃ白哉坊か。」
呆然としていると声がかけられ、見上げると二人の死神の姿と、その辺りを舞う地獄蝶がいた。
「夜一様、あの術者は卯ノ花咲とのことです。」
「そのようだな砕蜂。」
「鬼道に長けているのでしょうか。」
「否、あやつはどちらかと言えば斬術じゃろな。
一度稽古をつけてもらうといい。」
「若様。」
不意にかけられた声と、目の前に現れた咲にはっと目を見開く。
「お怪我は?」
当然の問いかけなのに、白哉は口を結んだ。
「なんじゃその態度は。」
夜一の言葉に拳を握りしめた。
「若様は強いお力を秘めておられる。
だからこそ、誤ってはなりません。
その尊いお命、貴方様お一人のものではございません。」
「黙れ!」
咲は目を見開いて固まった。
目の前に居るのが50年前の子どもでないことは分かっていた。
でも、それでもどこか、子どもとして見ていたのだ。
彼が一人の大人としての階段を上り始めていることを、きちんと認識できていなかった。
「護られるのが嫌なら強くならんか愚か者!」
罵声に白哉は木上を見上げる。
「それが当主だろう。
護られるな!護る存在にならんか!」
射殺さんばかりに睨み付け、白哉はくるりと背中を向けて走り出した。
「無事に帰るか見届けろ。」
夜一は小声で命じる。
「御意。」
砕蜂は静かに姿を消した。
不安げに背中を見送る咲の隣に夜一は降り立つ。
「気にするな。
あやつも反抗期らしい。」
「・・・ですが。」
「お前は正しいことをし、正しい忠告を与えた。
それだけだ。
・・・ところで、このあとはどうする?
それは誰への手土産だ?」
気を遣ってだろう、話題を変えた夜一に咲は寂しげに微笑んだ。
「夜一様に差し上げます。」
「なら喜助も呼ぶか!」
明るい笑顔に咲は小さく胸が痛んだ。