原作過去編ー110年前
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「六番隊の卯ノ花咲?」
「ああ。」
タイムリーな話だ、と平子は怪訝そうに六車を見る。
つい昨日、蒼純と図書館でやり取りをしたところだった。
「前にひよ里の事で話していただろう。
何か詳しいことを知らないかと思ってな。」
「んな知らんて。
俺かてその時初めて話してんから。」
「だよなぁ。」
頭を掻く六車に、首をかしげる。
どうやら頭を悩ませているらしい。
「任務で一緒になることになったんだが、あまりに知らねぇからな。」
「一緒て、まさか魂魄消失案件か?」
「ああ。」
考え込む六車に、返す言葉もなかった。
厄介な案件に、厄介な他隊の隊士。
「そりゃまたなんでや?」
「俺が聞きてぇよ。
四十六室からの通達だ。」
「四十六室?」
ここでまたなんでかと聞けば短気な六車が怒鳴り出すだろうことは長年の付き合いで熟知しているので、口から出掛けた疑問は飲み込む。
「そうだ、だからどうしようもねぇ。
・・・で、どうなんだあいつは。」
短気なだけに、理不尽な話であっても解決策を探してすぐに動き出す。
そんなところが隊長として評価されているのだろうと、平子は思っている。
「白打しか見てへんけど、腕は確かで少なくとも副隊長クラスの実力はあるな。」
「人当たりは?」
「普通やろな。
ひよ里ちゃうかったらあんな揉めることもなかった。
そもそも原因がひよ里が浦原を殴り飛ばそうとしたことやしな。
俺も何も知らんかったら罪人やとは気づかへんわ。」
平子の言葉に、六車は腕を組む。
「罪人らしければ別行動をさせるのも已む無しとなるだろうが、そうでないとすれば難しい。
他隊の隊士を無下にもできん。」
これは悩みどころだと平子も同じく腕を組む。
「直接会ってみて考えるしかねぇか。」
「せやなぁ・・・また聞かせてな、感想。」
「なんだ、気になるのか。」
余計な詮索は好まぬ平子には珍しいと、六車は彼を見た。
「まぁそんなところや。」
いつも通りの飄々とした返しに、六車の卯ノ花咲への疑りが僅かに深くなった。
「邪魔・・・します。」
入口で立っている小さな人影に微笑んで腰をあげる。
「やぁ、お疲れさん。
こっちにおいで、美味しい菓子があるんだ。」
ごそごそと引き出しをあけて中を漁る背中に、思わず引いてしまう。
「こ、子供扱いすなや・・・」
「どうぞ入ってください。」
後ろから声をかけられ、振り返ると清音がお茶を運んできていた。
連絡をしたわけでもなく、滅多なことがないと訪れる事のない猿柿の来訪を、なぜ、目の前の隊長は知っているのだろうか。
にこにこと、人好きのよい笑みを浮かべて、座布団を勧める浮竹に、考えてもわかるはずがないと諦める。
「お、おう。」
躊躇いながらも中に入りおかれた座布団に勧められるまま座る。
物怖じしない猿柿と言えども、古株で自分を子供扱いしてくる浮竹に対しては多少の遠慮もあり、少し距離をおいていた。
「ここはな、柚子の風味が絶品なんだ。」
にこにこと話しかけてくる男に、はぁ、とやる気のない相槌をうち、どこから話始めるべきか迷う。
「咲のお勧めでな。
あ、知らんか?
六番隊の」
「知ってるわ!
・・・いえ、知っています。」
古株云々も勿論だが、彼はひどく鋭く、そして猿柿の本音を引き出す。
それを受け入れてくれるであろうことは分かっていても、彼のペースに巻き込まれることはたとえ心地よいものであっても、少し畏れずにはいられない。
戦闘に関しても、心理戦に関しても、歯が立たない相手は、副隊長になった今ではそれほど多くはないのだ。
くすりと笑って、彼は穏やかに腕を組んで頷いた。
そのおおらかな様子に、猿柿は諦めて溜め息をつく。
彼の前で隠し事など、きっと不可能なのだ。
「そうか。
まぁそう固くならずに。
ほらほら、遠慮せず食べなさい。」
進められるままに足を崩す。
彼の前ではやはり、猿柿のような若さは子ども同然なのだろう。
悔しいけれども、それが現実だ。
進められるままに出された琥珀糖に手をつける。
ほんのりとした甘さと豊かな柚子の風味が格別だ。
「・・・ほんまや、うまいな。」
思わず呟けば、浮竹は、そうかそうか、と嬉しそうに頷いた。
「咲とは話したことはあるのかい?」
「何度か。」
「あいつは無口で引っ込み思案なところがあるのに、珍しい。」
どこか嬉しそうに笑う。
毎回喧嘩になっていることについては黙っていた方が良さそうだと、猿柿はお茶を飲んだ。
「なんでそんなに親しいん?」
「同期だからな。」
「隊長と、平隊士やのに?」
「友達に階級なんて関係ないさ。」
「他にも友達おるのにか?」
「そうだなぁ・・・。」
なお食い下がる猿柿の質問をはね除けるでもなく、浮竹は少し考えてから再び口を開いた。
「同期は何人くらいいるんだい?」
「だいたい160人です。」
「俺達の代は58人入隊して、10年足らずに俺と京楽と咲以外が全員死んだんだ。」
入隊して以来そんなひどい生存率は聞いたことがなく、思わず目を見開く。
「そんなに?」
「当時はひどい人手不足でな、大変だったんだぞ。」
明るい浮竹にしては珍しく、悲しげな笑顔だった。
「大きな戦がでもあったん?」
「ああ。
数えきれないほど沢山の人が亡くなった。
俺達は3人一緒に必死に生き抜いたんだよ。
だから、欠けがえのない人なんだ。」
ついっと細められた目は、疑いようもなかったし、猿柿にはそれ以上彼らの仲を問いただす言葉をもたなかった。
「君もそうだろう?」
「は?」
「平子隊長達と親しいようだが、例え彼らがどんな罪を犯したと後ろ指差されようと、それが彼らの正義ならば君も彼らについていくのではないかい?」
「あいつが犯した罪がまるで正義のような口ぶりやな。」
「そう言うなよ。
例えばの話さ。」
優しい笑顔はいつも通りで、なにも読み取ることはできない。
古株の隊長とは何事もやりあうだけ無駄なのだ。
猿柿は溜め息をついた。
「そう思いたくなるような奴やと言うことか。」
「君も歳を取るうちに、そんな風に思うことがあるかもしれないね。」
やはり楽しげに笑うだけの浮竹。
只者ではないことは知っていた。
そんな彼が猿柿がどれ程尋ねようと友だといい続けた咲。
(あいつも只者やない・・・ちゅうことか。)