原作過去編ー伊勢家
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八番隊長専用の地獄蝶に呼び出されるがままに居酒屋につき、店主に教えられた辺りのテーブルに視線を向けると、節張った手が上がった。
「こっちだよ、悪いねぇ呼び出して。」
京楽の側に行くと一人ではないらしい。
京楽が咲の耳元に口を寄せた。
ふわりと酒の香りがして、すでにある程度飲んでいたであろう事がわかる。
「この前は急に仕事が入って悪いことをしたね。
本当は君の帰還を祝って浮竹と三人で飲んでから彼に紹介するつもりだったんだけど、ちょっと話の流れで、ね。
祝いはまた今度で許してくれないかい。」
「そんなこと気にしないよ。」
そう囁きかえすと、
「悪いね。」
と目配せをして彼は離れた。
強気にああは言ったものの、浮竹に会うのはどこか気まずく、三人での飲み会が先伸ばしになったことには少し安堵して、目の前の青年に目を移す。
見た目の年齢は咲とさほど変わらないように見える。
どこか見覚えのある面影に、思い出そうと記憶をたどり、思い出せずに諦めた。
見つめられた青年は、異様な空気感を纏う女から目を離せずにいた。
護挺に入ってからいろんな人に出会ってきたが、彼女のような人は初めてだった。
穏やかな表情のままなのにその空気はぴんとはりつめていて、刃物のような感覚さえある。
「京楽隊長、彼は・・・?」
京楽はくるくると猪口の中の酒を回した。
彼は元気のない隊士を良く飲みに連れて行っているらしい。
入って彼が居るか尋ねた際、店主が教えてくれた。
だから飲ん兵衛だと噂を聞いても嫌いにならないであげとくれよ、と言葉を添えて。
「志波一心十三席。」
咲は目を見開く。
その名前に覚えはあった。
50年前、実父の反乱の荷担を護挺に知らせた少年だった。
その罪で志波家は貴族の称号を取り上げられてしまった。
そして、彼に見覚えがある理由は、彼の目元が今は亡き志波朱鷺和にそっくりだったからに他ならない。
「うちの隊士さ。
ちなみに従兄弟の海燕君は浮竹んとこの十九席だよ。
まぁ、座りなよ。」
京楽を挟んで咲は腰かけた。
才能があると噂には聞いていた子どもたちは、どうやらその才能を発揮し、そしてその才能が認められているらしい。
罪人の親族であっても、だ。
時代の流れと、人事を行う浮竹の努力が垣間見えた。
「なに飲む?」
「では京楽隊長と同じものを。」
「分かった。
一心君は?」
「では私も同じものを。」
「んじゃとりあえずいつものちょうだい。」
テーブルの向こうで、店の主人が愛想よく笑った。
「ここのは何でもうまいんだけどね。」
京楽も嬉しそうに笑う。
「隊長、こちらの方は?」
痺れを切らしたように志波が問う。
「お、悪い悪い。
六番隊の卯ノ花咲だよ。
ボクの同期でね。」
「ということは、浮竹隊長とも?」
「その通り。
長いこと遠征に行ってたんだよねぇ。」
「はぁ。」
目の前に出された二つの盃に、京楽が酒を注ぐ。
二人はそれを受取る。
「どうなるかわからないものです。
しばらくこちらを離れておりましたら、すっかり様子も変わってしまいました。」
年に何度か遠征部隊が組まれることは知っている一心も、愛想よく笑った。
「そうでしょうね。
町中も当時よりもずいぶんと整備が進みましたから。」
「ええ、本当に。
全てすっかり綺麗になって。」
咲が離れた頃はまだ、利用が少ない地域では反乱で壊された建物が放置されたままだった。
「あれからも一度、大きくもめたこともあってね。
もう一回り整備されたのさ。」
京楽の顔に影が射した気がして、先を促すよう見つめるが、彼は首をふった。
「話をするならボクからよりも浮竹からだろう。
また気が向いたら話してくれるだろうさ。」
ふと顔を曇らせた一心が気にはなるが、こうなった京楽は口を割らないことはよく知っている。
(義理堅いから。)
「なんか・・・。」
それだけ言って一心が口をつぐむから、京楽が首をかしげる。
「どうかしたかい?」
「あ、いえ。
仲いいんですね。
浮竹隊長といるときと、同じように見えて。」
そして彼は笑った。
その笑顔が、遠い昔に亡くした人に良く似ていて、どきりとする。
強くなると誓ったその人に、少しでも近づけているのだろうかと。
「そうだねぇ、見た目なんかはわりと変わったけど、根本的なところはお互い変わらないから。」
京楽は再会の第一印象のままにそう言った。
「ええ、そうですね。」
「こっちは変わらないのもわかるけど、君は遠征先がさぁ・・・。」
溜息をつく京楽に、一心は首をかしげた。
「どちらに遠征に行ってたんですか?」
「虚圏です。」
「え・・・?」
聞き間違えたと思っているのか、目を瞬かせる一心に、京楽は苦笑する。
「虚圏調査隊っていう遠征部隊があるんだ。
100年の任期で、向こうを調査する。」
「そっ・・・そんな部隊があるんですか?!」
「その遠さと長さに忘れられてしまうような、無謀な任務です。
私は愚かにも50年余りで帰ってきてしまいましたが。」
自嘲する咲に、志波は言葉を返せない。
もし自分なら、生きて帰れるだろうか。
例え半分の50年であっても、戦い続けられるだろうか。
「どんなところなんですか?」
「そうですね。
この辺りでは更木に近いかもしれません。
何もなく、命だけが息づいている。
生きるために、必死に。」
更木のことをそんな風にとらえたこなどなくて、あまり想像がつかない。
だが、さぞや過酷なところなのだろうと思った。