原作過去編ー110年前
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「うむ・・・。」
六車は、報告を聞いて考え込む。
「獣のような、人が発するとは到底思えないような、大きくて、耳を塞ぎたくなるような、声と。
そう言ったのだな?」
その表現に思い当たる声は一つだ。
「はい。
彼女は流魂街に来てまだ日が浅く、虚を見たことも聞いたこともないようです。」
六車の思いを読んだかのような言葉に、うむ、と頷く。
今回ははじめての目撃情報の入手であり、今回そのような声が発されてだけなのか、毎回そうなのかはわからない。
「お前の見解は?」
「現場跡を見た限りではなんとも。
ただの霊力の暴走とも見えます。」
冷静な判断だ。
己の得た情報が貴重なものである可能性も高いのに、決して主観や感情に流されず、客観的な考察を述べている。
彼女の実力は確かだと、六車は確信した。
「お前の報告を聞いていると、やはり霊力のあるものが被害に遭っていることは確実のようだ。
残念ながら俺達ではその答えには至らなかっただろうし、今後の調査にはお前の力が不可欠だ。」
「有り難きお言葉。」
頭を下げる咲に、六車は言葉を選ぼうとしたが、あきらめて口を開く。
「お前のことを、魂魄消失案件調査部隊の他の隊士に紹介したい。」
再びあげられた咲の表情は暗い。
やはり他の隊士との任務は辛いのだろう。
「それがご命令とあらば。」
その表情から深い哀しみが垣間見え、僅に狼狽える。
「命令っつうか、あれだ。
俺達の調査では不充分だ。
全ての現場でお前の確認がいる。
九番隊として、お前の力を借りたい。」
咲は驚いたように目を見開き、それから慌てて首を振った。
「わ、私のような者でお役に立てるのでしたら・・・。」
僅に羞恥に頬を染める様子に、本当に彼女が罪人なのかと、内心首をかしげざるを得なかった。
地獄蝶で、今回の案件に関わる五席までの席官を呼び出す。
隊首室の外に複数の気配がすぐに現れ、咲は部屋の中央から端に退いた。
「入れ。」
「失礼します。」
六車の声に答えて入ってきたのは、久南、笠城、衛島、東仙の4名だった。
彼らの入室に際し、咲は深く頭を下げた。
久南が副隊長であることは知っていたし、他の隊士も霊圧で席があることはすぐに知れたからだ。
「言っていた別で調査に当たっている六番隊の卯ノ花だ。」
じっと8つの目に見つめられ、咲は再び深く頭を下げた。
「六番隊の卯ノ花咲と申します。」
その瞬間、鋭い殺気を向けられたのがわかった。
1つはすぐに押し込められるようにして消えた。
もう1つは長髪の男からであることがわかるが、咲はそ知らぬ振りを通す。
「六番隊の銀白風花紗を着けた女の子・・・
って、あ!この子のこと?
ひよりんが言ってたのって。」
久南の言葉に咲は首をかしげる。
「・・・なんとおっしゃっていたのでしょうか?」
「馬鹿、それは」
「朽木の虎の威を借る、すかした生け簀かない奴だってー!」
言いやがった、と思わず目を覆った。
「なるほど、確かにそうかもしれません。」
浮かぶ苦笑からは然程気分を害したようには見えず、六車は安堵する。
何やかんや言っても他隊から来ている隊士には気を遣うものだ。
「きちんとお役に立てるよう、努めさせていただきます。」
咲の言葉にこれ以上話がこじれる前にと口を開く。
「今回の案件に動いているうちの席官で、左から順に副隊長の久南、三席の笠城、四席の衛島、五席の東仙だ。」
笠城の名前を聞いた瞬間、咲の空気が一瞬張り詰めたものに変わった。
それを正面から睨む笠城の空気もやはり鋭い。
(卯ノ花の方も覚えていたということか。
それもそれで厄介だ。)
「何故別の任務についているんですか?
それも無席とは。」
何も知らない東仙が問う。
「・・・隊長、俺、知っています。
彼女、罪人ですよね?」
衛島の言葉に、その場の空気が凍った。
特に咲と笠城の緊張感が高まったのは言うまでもない。
六車は深い溜め息をついた。
「そうだ。」
「危険だと思います。」
衛島の鋭い瞳が咲を射る。
「衛島。」
咎めるように六車が名前を呼ぶが、珍しく彼は引かなかった。
「当時の隊長は・・・笠城の親父さんは、朽木響河に殺されました。」
「やめろ、衛島。」
今度は笠城が制した。
この二人は同期で親しい。
衛島が笠城隊長のことを知っているのは当たり前だろう。
制しはしたものの、笠城の瞳から殺気が消えた訳ではない。
「だが!」
「俺達は六車九番隊士だ。
私情を挟むことは許されん。」
強く言い放つ笠城は、やはり三席に相応しい。
それでも衛島は怒りのこもった瞳で咲を指差す。
「この下に赤色従首輪がある!!
手綱を握られていようと、こいつが罪人であることに変わりはないんだぞ!!」
「そうだ。
だから俺は見張ってやる。」
怒りのこもった瞳は、咲を睨み付けて離れない。
その瞳を睨み返す咲の瞳も、深い悲しみと怒りを抱えているように見えた。
六車の前では常に穏やかな姿しか見せない彼女に、こんな表情があるのかと驚くと同時に、やはり罪を犯しうる者なのかもしれないという疑惑が頭を掠める。
ふと見ると、彼女のきつく握られた拳は、何かをこらえるように震えていた。
「正気か!?
あの惨劇をこいつが・・・こいつが!」
「黙れ衛島!!!」
六車の渇に衛島はようやく黙った。
(やはり同じ任務につけるのは難しいか・・・。)
次に口を開いたのは空気を読まない久南だった。
「単独で今まで任務についてたの?
危険じゃない?
私でよければ組むよ。」
「副隊長?!」
その場にいた誰もが驚いた。
「・・・なぜだ。」
六車は改めて理由を問う。
馬鹿だうざいだと日々漏らしてはいるが、彼女を副官として従えているのは誰でもない彼なのだ。
「拳西でしょ、いつも単独任務はするなって言うの。
何かあれば情報を持ち帰れない可能性も高いし、そもそも生存率も下がるって。」
「ですが罪人とあれば隙を見て副隊長に剣を向けることもあるやもしれません!」
衛島が焦ったように言う。
「うーん、剣を向けることと罪人の烙印を押されていることは、関係ないんじゃない?」
その言葉に一同は瞠目した。
「誰でも、逆らうなら戦うでしょ?
そもそも分かっていたら謀反なんて起きないわけだし。
もし笠城が謀反を起こすなら斬るし、虚に操られても斬る。
拳西でもそう。
何としても止めるよ。
それと一緒じゃん。」
久南は、知性よりは戦闘力で副隊長になった。
彼女の理論はいつもシンプル。
本能のままなのだ。
(ま、それが唯一こいつの救われるところだな。)
六車は頭を掻いた。
「何かあれば斬る、それだけの話でしょ?」
冷たいようで何よりも公平な意見に、咲は頭を下げた。
「・・・ありがとうございます。」