原作過去編ー110年前
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「六車隊長、卯ノ花です。」
地獄蝶に呼び掛けると少ししてから返答があった。
『ああ。』
「14時53分、消失跡発見しました。
3名、服装からみて男性のようです。
今までのものと同じで、服は着たまま、体だけが消失した様子です。」
淡々と目の前の状況を告げる。
「僅かですが、苦しんでもがいていた様子です。
足元の草が踏みにじられていて、霊力も放出しています。」
向こうで六車が息を飲んだのが聞こえた。
『・・・他に何か分かることは?』
やや緊張した声色に疑問を抱きながら咲は淡々と答える。
「攻撃を受けたわけではないと思います。
受け身をとるために踏みしめた跡はありません。
服にも損傷はありません。
消滅までに少し時間はあったはずですが、どの被害者にも敵を追いかけた痕跡も、敵から逃げようとした痕跡もありません。」
『痕跡?
どう言うことだ?』
「被害者はある程度・・・入隊できる程度の霊圧は持っていたようです。
消失付近の草が苦しんだ際に放出された霊圧にあてられています。
でもその放出の中心が動いていないんです。
敵から逃げるか、敵を追いかけるなら動くはずです。」
六車は何か考え込んでいるようで返事はない。
『・・・続けろ。』
少ししてから返された言葉に、咲は再び口を開いた。
「縛道などで縛られた跡も有りません。
となると、あくまで推測の域を出ませんが、被害者は認知できないような形の攻撃を受けたのだと思われます。
自然発生的な、と申しますか・・・
外からの攻撃では無いように見受けられます。」
咲は微かな人の気配に振り返る。
『わかった。
引き続き頼む。』
「了解いたしました。」
通信を終え、手早く服を回収して風呂敷に包むと、じっと気配のあった方を見る。
随分と霊圧を隠すのがうまい。
「犯人は現場に戻ってくる」と本に書いてあったと、七緒が以前言っていた。
それが事実であるのなら、相手を見過ごすわけには行かない。
「どなたですか?」
木陰から銀髪の少年がひょこっと出て、駆けてきた。
予想以上に幼く、思わず目を瞬かせる。
だが死覇装をこの歳で着ていることから考えると、かなりの実力者なのだろう。
「すごいねんな、お姉さん。
うちの前の三席でも気付かへんかったのに。」
細い目で見上げてくる子に合わせるため、膝を折る。
「それにさっき、何見てたん?
草?土?」
少年はさらにしゃがみこんで小さくなって、咲が見ていた辺りを興味深げに眺める。
「はい。
この草とこの草を見比べると、こちらは右に倒れています。
草自身も、ここを中心に踏みにじられています。
ここで足に強く力を込めたのでしょう。」
本当はそれに加えて霊圧の影響も読み取っていたのだが、そこまで説明すると任務内容についても話が及びかねないため伏せておく。
「ほんまや。
お姉さん、二番隊?隠密機動?」
「いえ、六番隊です。
卯ノ花咲と申します。」
ことりと首をかしげる姿は、その辺りにいる子どもと何ら変わらない。
「卯ノ花?
四番隊の隊長さんの親戚なん?」
「卯ノ花隊長は私の養母です。」
「ふぅん。
なら咲って呼んでええ?」
どこか嬉しそうな表情につられ、咲も微笑む。
「はい、えっと」
「ボクは五番隊三席、市丸ギン。」
にっと笑う少年に、咲は驚く。
(この歳で三席だなんて・・・
どれ程の才能を持つのだろう。)
ぐー、と、かわいらしい音が市丸のお腹から鳴った。
「お腹すいたわ。」
しょぼん、と言う音が聞こえそうな姿に、咲はくすりと笑って、持っていた荷物から飴玉をひとつ取り出した。
「お腹の足しにはならないかも知れませんが、よろしければどうぞ。」
「ええの?
ありがとう。」
浮竹にもらったその飴玉は、綺麗な密色をしている。
「・・・きれい。」
市丸は薄く開いた瞳でそれをじっと眺めてから、口に運んだ。
「おいひー。」
子どもらしい感想に、咲も自然と微笑む。
「そろそろ行かな!
またね。」
ぴょこん、と跳ぶように駆けていく背中を見送る。
罪人の自分に向かって、「また」等というなど、子どもらしいと思う。
(いや、あの方は言っていたな・・・)
ー卯ノ花さんも、また。ー
思い出したのは眼鏡をかけた、市丸の隊の副隊長の姿だった。
帰ってきた咲から報告書が上がってきた。
予想以上の内容で、六車は隊首室で一人、腕を組んで考え込む。
通信で聞いた以上に詳細な報告があった。
霊圧の関知に関する報告は山程ある。
だが、これほど僅かな霊圧の影響などを読み取った報告など、聞いたことがなく、俄には信じがたい。
(嘘か真か。)
嘘にしては手が込んでいるし、真にしては話が上手すぎる。
(蒼純副隊長の言う通り、
彼女が本当に強く、観察眼も鋭く、実力に経験、知識も豊富だとしたらどうだ?
これほどまでの報告ができると言うのか?)
今まで多くの熟練を見てきたが、是とは言えない。
六車はふと思い立って地下書庫へと足を運んだ。
護挺の過去の報告書全てが保管されている場所だ。
探すのは、50年以上前の六番隊の報告書。
(当時は朽木響河の部下だったはずだ。)
大量の報告書を捲り、ようやくひとつの報告書を引き当てる。
ー 報告者 六番隊三席 朽木響河
七班からの救援要請により、一班と、二班が出動。
北地区74八坂に向かった二班は敵と戦闘になり、殲滅した。
二班死亡者1名、負傷者7名。
七班の5名の遺体を回収。
北地区75織部に向かった一班は、三賀七席の遺体発見後、二手に分かれた。
志波十二席が率いた組は3人の敵を討伐。
七班の遺体2名回収。
六番隊朽木副隊長率いた組は5人の敵と戦い、4名討伐、1名捕獲、1名は行方知れず。
死亡者3名。
負傷者5名。
全負傷者内、井戸、津下、村坂、卯ノ花については入院中。ー
大まかにはそのような内容が記載されていた。
卯ノ花が上げてきたような、どうやって敵を追ったかという細かい報告はない。
(魂魄消失案件のような調査の報告ではないから、詳細がないのは致し方ないか。)
六車はある記述を見つけ、ページをめくる手を止めた。
ー卯ノ花は昏睡状態が続いており、復帰の目途は立たず。
他は明日退院予定。
奇襲した敵の殲滅に尽力していた卯ノ花の殺害が、本奇襲の目的であったとのこと。ー
当時入隊して間もない無席の彼女が狙われる等、ただ事ではない。
その実力が、他の隊士を陵駕していたということだ。
(真と言うことか?)
「おや?
これは随分珍しい。」
かけられた声に振り返ると、頭を掻いた浦原が、どうも、と軽く頭を下げた。
「どうしたんですか?」
「ちょっと気になる報告があったんでな。」
「ほう?
50年以上前の報告じゃないッスか。」
手元の資料をみて食いついてくるので、六車はそれを浦原に渡した。
「ここに書いてある卯ノ花っつうのは、六番隊のだろ?
当時入隊したてのこいつを狙うなんて、どんな力があるのかと思ってな。」
さっと目を通した浦原は、ああ、とひとつ頷いた。
「更木出身なんッス。」
「は?」
「だから、更木育ちなんですよ。
あれだけの霊圧をもって、更木で生き残るなんて簡単じゃあない。
ボク達には想像もつかないような勘と経験が、あの人にはあるんです。
二番隊のころもよくお世話になりました。」
「はぁ?!」
ははは、と笑う様子に、あの隠密専門の二番隊が他に頼ることなどあるのかと肝を抜かれる。
「卯ノ花咲さんの実力は本物ッス。
間違いない。」
そう囁く浦原の瞳はひどく真面目で、 疑う余地などなかった。