原作過去編ー110年前
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「それは本当か?!」
思わず報告に食いつく。
『はい。
住民に聞き込みをした結果、一人は霊圧も高く、来年度霊術院の入試を受けるつもりだったようです。
もう一人は彼女程ではありませんが、やはり霊力はあったそうです。
このことをもとに過去5件についても聞き込みを行いましたが、やはり霊圧が高い者が被害に遭っているとのことでした。
詳細はまた戻った際にお伝えしますが、取り急ぎ瀞霊挺で被害がでる可能性もあるということをお伝えしたく思い、ご連絡致しました。』
隊首会の帰りに地獄蝶がよってくると思えば、あまりに重大な報告に驚く。
咲のことは表には出していないため、報告は一人の時に聞くことにしており、周囲の霊圧を探るのが常だ。
副官のものが近づいてきていることに六車は気づく。
「ああ、よくやった。」
手短に労う。
報告はいつも端的で明確で、短気な六車でもイラつくことはない。
『明日中には戻ります。』
「ああ。」
静かだが聞き取りやすい声は、流石蒼純の部下だと思う。
地獄蝶は必要なことは告げたと飛んでいった。
「ねーねー拳西!」
予想通り背後からかけられた六車は立ち止まる。
「あ?」
面倒だと思いながらも振り返る。
「最近よく地獄蝶連れてるけど、どうしたの?」
流石に気づかれていたかと心の中で舌打ちをする。
「どうしたって、何がだ。」
「だって、話している回数、やけに多くない?」
バカだとは思っているが、久南の勘の鋭さや観察力は人より抜きん出ている。
不味いと思いながらも、六車はしらを切る事にした。
「そうか?
いつもこんなもんだぞ。」
「ウソ!
ぜーったい多い!
何?彼女?!」
「んなわけあるか!
彼女と地獄蝶で話すアホがどこにいる!!」
思わずぶちギレて怒鳴る。
「じゃぁなになにー!?
教えてよ!」
「お前の勘違いだって言ってんだろ!」
久南がしつこいのはいつものことだ。
だがこいつのしつこさは意外と的確で、だからこそ敵に回すと厄介だ。
共にやって来た三席と四席は、いつも通り少し離れたところでこっちの様子を見ているので、久南に余計な加勢はするなと先にガンをとばしておく。
「勘違いなわけないじゃん!
何年の付き合いだと思ってんの?!
私に隠し事なんて百万年早い!!」
「その言い方やめろ!
知らねぇやつが聞くと勘違いされるわ!」
「ねぇねぇ!
そう思うでしょ?」
四席の衛島が急に話を振られ、慌てふためく。
この場合、どちらに加勢しても面倒になる。
そう、いつも通りの展開だ。
だからこのまま押し通せると、六車は思った。
「い、いえ自分は。」
六車の眼力に負け、衛島は首を振った。
だがその眼力にも負けないのが三席の笠城だ。
「ですが副隊長のおっしゃることも一理あります。
もし極秘任務でしたら構いませんが、急ぎの際には我々もある程度情報をいただいておれば対応できますし。」
笠城は必要なことは言う質だ。
だこらこそ三席を与えている。
彼の言葉は正しく、咲を秘密裏に動かすことに限界を感じていた六車は、ついに折れた。
「・・・わかった。
別で魂魄消失案件を任せている奴がいる。
明日中には戻るだろうから、それ以降で都合を合わせる。」
(だが、やはり彼女を通常の班編成に組み込むのは難しい。
どう考えても、だ。)
「別で?」
首をかしげる面々に溜息をつく。
「また連絡すっから、ほら、行った行った!」
隊士達を蹴散らすと頭を掻く。
(あいつなしでは、この案件は片付かねぇ。
だが単独任務も限界だ。
全ての現場であいつの目がいる。
問題は・・・)
「あ、おい笠城。」
隊舎に向かおうとしている所を呼び止める。
「はい!」
彼は真面目だ。
意思も強く、鍛練にもよく励み、部下からの信頼も厚い。
三席として充分な器がある。
そんな彼が、誰を追い続けているか、以前飲み会の席で聞いたことがあった。
(だからだ。
・・・こいつには先に話しておかねぇと。)
「今夜空いてるか?
飲みに行かねぇか?」
「久しぶりですね、飲みにくるのは。
案件が厄介でなかなか時間がありません。」
笠城が表情を崩す。
久南の扱いが厄介な分、以前から笠城と飲むことも多く、彼に任せる仕事も多い。
「笠城、お前、親父さんの・・・笠城隊長のことを聞きたくてな。
ほら昔、お前の目標だと言っていたろ。」
「覚えていらしたんですか、恥ずかしいっすね。
そうです、親父は、俺の目標です。」
盃をじっと見つめる。
「親父はあの男の目論みにいち早く気付いた。
・・・結果、命を奪われることになりましたが、それが護挺のお役にたてたと言うなら、本望でしょう。」
笠城はいつも正しいものを追い求める。
スキンヘッドで厳つい見た目からは想像できない几帳面さもある。
それはきっと、彼が誰よりも清く正しくあろうとするからだと、六車は思っていた。
「真実を、正しく導き出す隊士。
俺もそうなりたいんです。」
少し照れながらもそう語る姿は何一つ曇りなく、そして話す言葉も正しい。
そして彼は三席だ。
その数字は、己を押さえる力もまたあることも意味する。
「そうだな。
俺もそうなってほしい。
・・・だからこそ、お前に話さないといけないことがある。」
「はい。」
「響河の部下として刑に処された隊士を知っているか?」
「・・・はい。」
「あいつは今、俺の下で働いている。」
笠城は目を見開く。
「どういう、ことですか。」
「四十六室から、魂魄消失案件に着くようにと通達があってな。」
「なんでまた。」
「さぁな、危険な任務にずっとつかされているらしい。」
「当たり前だ・・・あんな野郎の部下で散々人を殺したんだ。」
笠城の目は、静かな怒りに燃えていた。
だからこそ六車は言い切る。
「だが、あいつの目は確かだ。」
「隊長・・・。」
憎しみにかられながらも、上司の話に耳を傾けるだけの余裕はまだ残っているようだ。
「笠城、お前を三席にしたのは、お前にその器があるからだ。
お前の親父さんの件もわかっている。
お前の力はうちに不可欠だ。
・・・そんなお前の過去の怒りに触れることになるが、卯ノ花の力は今回の案件解決に向けて使わぬ手はない。」
盃をじっと見つめ、彼は己を殺した。
上に立てば立つほど、己を殺さねばならぬことは増える。
それに耐えうるものだけが、上に立つ資格があるのだと、六車は考えていた。
「あいつが、裏切る可能性は?」
「ゼロとは言えん。
だが、今までの報告では問題はない。」
「いったいどんな能力があるというんですか?」
「更木育ちで、痕跡を読む力に長けている。
霊圧の名残から足跡、攻撃痕まで、読み取る。
俺達では到底無理だ。」
「・・・わかりました。」
笠城は拳を握りしめた。
己を押さえ込む瞳は、鋭い。
「もし、本当にあいつが裏切ったとき、斬っても構いませんか。」
「それが親父さんに誓って、真実であるならば。」
六車の言葉に、笠城は目を閉じ、息を吐き出した。
「勿論です。」