虚圏調査隊編
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焚き火を囲み、明日の日程調整を終え、就寝までの時間もらった懐中時計を開きぼんやり眺めていた。
さすが雀部の物だけあって、作り込みが細やかだ。
文字盤に施された大樹と蔦模様が、揺らめく光を浴びて優しく輝く。
雅忘人が覗き込んだ。
「良いもの持っているな」
「出立に際していただきました」
「烈殿か?」
「いいえ、浦原様にです」
「浦原?
二番隊の旦那の方か?
それか……奥方は十二番隊だったか?」
彼が言っているのはたぶん、喜助の両親のことだろうと思う。
「いいえ、ご子息様です。
霊術院に今年入学されることになった方にございます」
「なら知らんな。
そんな幼い子供が、ずいぶんと洒落た贈り物をするものだ」
咲は少し考えてから、言い方を間違えたかもしれない、と思った。
「十二番隊の調査を兼ねてとうかがっています。
詳しくは存じ上げませんが……」
「だが、それは質が良いものだ。
ただの調査だけにそんなものを寄越すわけではあるまい」
雅忘人は穏やかな瞳で咲を見つめた。
彼も李梅も、彼女の過去全ての報告に目を通している。
「お前を大切に思う者がいるのだな」
その言葉にもう一度手の中の時計を見る。
確かに、雀部がくれたという時計を、涅が改造したと言うのは不思議な話だ。
涅は以前から実験を断らない咲を便利だと思ってか、何かと怪しいものを寄越すから不思議ではない。
不思議なのは雀部だ。
接点など皆無に等しく、記憶にある限り話したことなど無いはずである。
また、涅と雀部が親しいかと言われれば詳しくは知らないが、両者が親しくしているところは想像できない。
かつ、それが彼の言う"大切に思う"と言うことに繋がるかと問われれば、さらに首をかしげなくなる。
悩んでもあと100年は謎のまま。
あれやこれやと考えを巡らす咲に、思わず雅忘人が笑いを漏らす。
「俺が言いたいことは、強くあれ、と言うことだ」
「強く、ですか」
「お前の帰りを待つものがいる。
お前は帰らねばならん。
そうだろう?」
咲は時計を見つめる。
この時計が100年を刻み、無事に帰ることを待つ人がいる。
養母が、上司が、友が……
決して多くはないけれど、でも、それは欠けがえのない思いだ。
「はい」
時計を握ると、どこか、温かいような気がした。
「おい卯ノ花!卯ノ花!!!」
突然の罵声に咲は自分の部屋としてあてがわれた洞穴から飛び出る。
「はい何か!?」
「何かございましたか、だ!!!」
その剣幕に咲は慌てて言い直す。
李梅は礼儀作法に厳しい。
ここが虚圏であることを忘れてしまうほどだ。
「何かございましたか!!」
「てめぇ仮にもあの卯ノ花烈の養女なんだろ!!!
衛生に対する教育はされてねぇのか!!!
きちんと洗い物もできねぇのか!!!」
そして、潔癖症だ。
もう一度言うが、ここが虚圏であることを忘れてしまうほどだ。
「皿に汚れが残ってるだろ!!!」
「申し訳ございません!!!
再度洗って参ります!!!」
皿を抱えて慌てて河に走っていく。
そんな後ろ姿を雅忘人が見て爆笑していた。
「おい李梅、そんなに怒るなって。
あんなちっせえ汚れなんぞ、よく見つけたな!
さすが潔癖症!」
「黙れ雅忘人!
俺は上司だ、あいつは部下だ!
怒鳴られる理由はそれで充分だろ!!」
カリカリとする李梅の横で、雅忘人は真顔で彼を見た。
「彼女の実力を測るのも上司の特権か」
その言葉をかけられた方は、じっと外を見たままだった。
昨日行った討伐で、李梅は彼女1人に4体の大虚を相手させた。
隊長格でも苦戦を強いられるような戦いだ。
「文句があるなら言ってみろ」
「彼女は仲間だ。
無駄死にさせられない」
「そうなるようなら間に入った。
お前が邪魔をしなくともな」
その日は2人が討伐に向かい、雅忘人は別の調査に向かう予定だった。
だがその朝、李梅の様子に雅忘人は違和感を覚えたのだ。
言葉で表せるようなものではない、些細な変化であったが、長年2人で過ごしてきた雅忘人には隠し切れなかった。
途中で2人の様子を見に走れば、咲が孤軍奮闘しているではないか。
その上、左腕を負傷した。
だが彼女は大した傷ではなく、自分のせいだからと治療を拒み、鬼道で治した。
薬は貴重だから、と。
「力量なら分かっていただろう。
過去の任務報告書だけでもある程度知れたはずだ」
「わからん」
李梅は遠くを見つめたまま声を低くした。
「あやつはなぜ罪を負わされた?
確かに彼女を見せしめに罰するのは良い案だろう。
だが本当にそれだけか?
彼女は斬魂刀をなるべく解放しないように戦うーーなぜだ」
「使うまでもないからじゃないか」
「昨日見ただろ。
彼女の、まるで虚の爪のような刀」
「西洋槍風の、巨大な白い刀だ」
雅忘人は嗜める様に十三番隊から提供された情報を告げた。
死神として自身の斬魄刀を虚に例えるなど、侮辱も良いところだ。
李梅は目を細めた。
「お前も分かっているだろう。
あれはどう見ても虚の仮面と同じ素材だ」
雅忘人は肯定も否定もしなかった。
おそらく今までは“西洋槍風の、巨大な白い刀”で通せただろう。
死神相手に誰も虚のようだなどと思うはずもない。
その白は象牙のようだと言うこともできるだろう。
だが確かにこの虚圏では、彼女の刀は虚の一部に見えて仕方がない。
おそらく彼女はそれに気づいている。
だから限界までそれを解放することはないのかもしれない。
「昔、虚と斬魄刀を融合する研究をしていた貴族がいたな……」
「彼女は白だ」
「何故言い切れる。
あいつが更木にいた頃の記録はない」
「流石に護廷がそんな疑いがあるものを虚圏調査隊に入れる事はなかろう」
「厄介払いかもしれん。
虚は虚らしく帰れと」
「流石に言葉がすぎるぞ」
雅忘人が鋭く忠告し、李梅は表情を変えることなく黙った。
少しの沈黙の後、雅忘人は口を開いた。
「俺は朽木蒼純を信じる。
彼が信じる彼女を信じる」
「俺はそう言う信頼の仕方はしない」
「知っている」
走って帰ってくる咲の姿が見えた。
愚かな程真っ直ぐな彼女を2人はじっと見つめる。
「自分で見極めるんだろ」
李梅は何も答えなかった。
