虚圏調査隊編
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「珍しいな。
お前は消えないのか」
初めて出会った虚はそんな風に咲に話しかけた。
その瞳がひどく嬉しそうで、困惑する。
嬉しさの奥に怯える孤独に、共感を覚えた。
私たちと同じ存在だとーー
この果てしなく広い虚圏で40年以上過ごす自分にとって、そんな出会いは初めてだった。
拠点とする洞窟から3日ほど離れた砂漠での出会いだった。
危険性を鑑みて、虚圏調査隊では遠征は基本的に行わない。
前回の派遣では隊を組んで遠征もしたらしいが、今回は格段に人数が少ないからだ。
だがここにきて、実力も確かであることが証明され、しばらく遠征をすることとなったのだ。
「変わった霊圧だ。
お前は何者だ……?」
だが首を捻る相手も、どうやら困惑しているらしい。
死神も人間も虚も、考えてみれば魂魄であることに代わりはなく、似ていてもおかしくもないかもしれない。
実際、人間と死神は生きる時間の流れが違うからこそ違いは生じるが、本来感情や知能に大差はないと学院では習った。
「死神です」
「死神?
珍しいな」
「そうかもしれません」
考えてみれば、咲たちは侵略者だ。
己の住む世界を越え、殺しにやって来たのだから。
「あなたはとても、強い方ですね。
他の虚とは比べ物にならない」
相手に殺気がないことは、互いに分かっていた。
だからどちらも手を出さなかった。
「……なんでこんなところにいるんだ?
死神って言うのは、虚界にはいないもんだろう」
「やはりいてはいけないのでしょうか?」
「……そうじゃねぇけど」
その答えに、咲はどこか安心した。
大きな男の後ろに、小さな影が見えて、咲は膝をついた。
「こんにちは」
「……こんにちは」
女の子が小さな声で恥ずかしそうに返事をした。
咲は優しく微笑むと、男を見上げる。
「あなたたちは尸魂界に行きますか?」
「は?
そりゃ死神の世界だろ。
いかねぇよ」
「現世にも?」
「ああ。
それは人間の世界だろ」
「良かった」
咲が笑った。
ほっとしたのだ。
久しぶりに新しい敵ではない人に出会えて。
「ーーてめぇ、まさか」
最近、彼らは近隣の虚が消失していることを察知していた。
自分達以外でこれほどの能力の高い者に出会ったことがなく、探していたのだ。
「あなたの、仲間でしたか?」
悲しげな瞳が問いかける。
「……いいや。
あんたは、仲間になってくれるのか」
「いい歳して仲間を探しているんですね」
咲がくすりと笑うから、男は照れたように頭を掻いた。
「私は仲間にはならない。
誰とも」
その立ち姿は美しく、風に吹かれた黒髪と銀が風になびく姿は新鮮で、男と少女の目にはひどく眩しく写った。
「どうして」
「罪人ですから。
今刑期中なんです」
「罪人がなんだよ。
俺なんか、虚だぜ」
「そうですね」
小さく笑う姿に、虚は単純に好感を持った。
孤独に落ちた陽だまりのような彼女を、2匹の虚は心から好きになったのだった。
「これ、どちらはどうでしょうか」
翌日やってきた咲が手にしていたのは、死覇装だった。
「布を巻いているだけだと、動きにくいでしょう?」
差しだされた少女は戸惑ったように男を見上げた。
「もらえよ」
「……うん」
「着方は分かる?」
首を振る少女に、咲はそっと着物をはおらせる。
「袴はいらないかな」
子どもには上の着物だけで充分なようだ。
長い袖を折り、帯を後ろでリボン結びにしてやる。
「わぁ……」
少女は嬉しそうに目を瞬かせ、くるくる回る。
帯がゆらゆらと揺れて可愛らしい。
「いいのか。
お前のなんだろ」
男に問われ、咲は頷いた。
「替えなんです。
まだあと2着はあるから」
そして手の中の袴と男を見比べる。
「でもやっぱりあなたには無理そうですね。
ごめんなさい」
男は目を瞬かせる。
「気にするな。
どうせ虚だ」
「でも裸はあんまりだ。
……いえ、あまり良くありません」
丁寧に言いなおす咲に、男は眉をあげる。
「上司が丁寧な言葉づかいを推奨しているんです。
間違えると殴られるので」
くすりと笑う女に、男も久しぶりに微笑んだ。
「名前は?」
「私のですか?」
「ああ」
「卯ノ花咲と申します。
……あの、うかがっても?」
男はまだ楽しげにくるくると回っている少女を見つめた。
「あいつはリリネット。
俺は、スターク」
「リリネットにスターク……
素敵な名前。
初めて聞く響きです」
「俺も、お前のような名は初めてだ」
二人の間にリリネットが飛び込んだ。
いい笑顔だ。
「もう一回呼んで!」
咲は目を瞬かせたあと、優しく微笑んだ。
「リリネット」
そんな咲にリリネットが抱きつく。
思いの外暖かな体温に二人は少し離れて顔を見合せ、それからもう一度抱き締めたーーまるで人と変わらない。むしろ、精霊廷の冷たさよりもよほど温かかった。
孤独に心を枯らす彼女の心はは、ここにいたいと、彼らのそばでただの1人として過ごしたいと叫ぶ。
その一方で責任感が彼女を呼び戻す。
「私、もう行かないと」
「どこに行くの?」
咲は言葉を迷い、口を噤んだ。
リリネットも答えられない質問であることを悟り、質問を変える。
「また会いに来てくれる?」
咲は困った顔で笑った。
「またいつか……会いに来ます、必ず。
すぐには無理ですけれど」
「わかった。
待ってるから」
リリネットは聞き分けよく泣きそうな顔で頷いた。
それが不思議と、遠くに残してきた白哉を思い出させた。
