虚圏調査隊編
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ー閑話 例えば仲間思いの虚の話ー
鬱蒼と繁る森の奥で霊圧がぶつかり合っていた。
(追われている方はパワーがない。
喰われるな。
いずれも李梅四席に言われていたターゲットではない)
そう思って別へ向かおうとしていたら、急速に強い霊圧が近づいてきた。
慌てて現場に走れば、小さな大虚が間に割って入るようにして攻撃を受け止めていた。
必死だった。
仲間なのだろうか。
虚の中には生態系があり、強い虚は弱い虚を食べる。
(ではなぜ、目の前の大虚は弱者を庇うのか)
もう一体現れた敵が、弱い虚に虚閃を放つ。
大虚は受け止めていた攻撃をいなし、振り返って虚閃を放った。
起きた爆発に2体は吹き飛ばされ、体勢が崩れたところに敵が襲い掛かる。
「悲涙流れし 血を啜れ いざ目覚めよ 破涙贄遠」
気づけば解号を口にしていた。
大虚は吹き飛ばされながらも、必死に中虚をかばおうとしていた。
「破道の三十一 赤火砲!」
大虚と敵の間の砂地に向かって放てば、砂が派手に巻き上がった。
瞬歩でその砂煙の向こうに回り込む。
「嵐気竜!」
大きく刀を振れば、それに従って竜のような竜巻が虚に襲いかかる。
砂を巻き込んだその破壊力は通常を越えていて、敵は一瞬で灰と化した。
助けておきながら、咲は戸惑っていた。
蟷螂から蝶を逃がすのと、同じだ。
否、逆に蟷螂を殺した。
介入すべきではない戦いなのに。
「助かった、ありがとう」
大虚が礼を言った。
彼女の同族を殺したのに。
相手は咲が彼女と違うことに気づいたらしい。
「……ずいぶんと変わっているな」
咲は振り返る。
「……この世界の者ではありませんから」
「どこから来た?」
虚は左肩に怪我をしたらしく、出血が酷い。
治りが悪いところを見ると、傷は深いらしい。
相手は黙っている咲に対して警戒し始めたようだ。
「こことは別の世界を、貴女は知っていますか」
「……昔聞いたことはある。
人間が住む世界と、それから……」
先が出てこないらしく、咲は口を開いた。
「人間が住むのは現世と言います。
人が死ぬとその魂は尸魂界へ行きます。
私はそこから来ました」
「何故」
左肩からの出血を感じていないかのような顔で、彼女は問いかける。
「この世界がどんな世界か知るためです」
多くの虚を殺している事を知ったら、彼女は怒るかもしれないと思った。
腕を伝った血が滴り落ち、砂地が赤く染まっている。
これも調査のうち、と自分に言い聞かせ、咲は少しずつ虚に近づく。
「痛くありませんか」
「放っておけば治る」
(強い人)
「貴女は……別の世界に行きますか」
「分からない」
「人や死神を食べますか?」
「食べる必要はない。
争いが好きな輩もいるが、そうあるべきではないと私は思う。
争って相手を喰らって強くなって何になる」
瞳は強く訴える。
「争いは、無駄だ」
瞳から目が離せなかった。
美しい人だと。
更木にいるときは、生き残るために戦うのは当たり前だと思っていた。
死神になり、求める正義の違いから人を騙し、殺し合い、心から信じた上司さえ封印した。
だがこの虚は違う。
(この虚は、殺してはいけない)
咲はそっと肩に手を翳す。
虚は一瞬身体をすくめたが、傷がなおるのを見て驚いた顔をした。
「西の森には近づかないでください。
私と良く似た者には決して会わないように。
霊圧を感じたらできるだけ逃げてください」
「何故」
隠し事をしていることまで見透かそうと、じっと瞳が見つめる。
「私には仲間がいます。
私よりもずっと強い人が。
その人は容赦なく貴女方を殺すでしょう」
「まさか」
心当たりがあるらしい。
「絶対に近づかないでください。
次に会ったら、私も貴女を……」
殺せないと思った。
きっとまた守ってしまう。
「ではなぜ今助けた?」
まっすぐな人だと思った。
虚は咲から距離をとった。
(適切な判断だ)
「お前は何故殺すのだ。
喰うのか?」
咲は首を振った。
「では何故」
必死な瞳から、目がそらせなかった。
嘘をつきたくなかった。
嘘をついてでも守るべき人はもうここにはいない。
本当の事を話したところで、被害を受ける人もいない。
「私達も争いたくはない。
だが、虚達は現世や尸魂界にやってきて私達の大切な人を傷付けます。
私達の役目は、根本である虚圏を調査し、少しでも危険を減らすことなのです」
言いたいことは分かってくれたらしく、相手は一つ頷いた。
「……だから、貴女が私達を傷つけないなら私は貴女とのこの接触を無かったことにします。
本当に平和を望むなら」
「分かった。
だが残念だな、お前とは仲間になれそうなのに」
不思議だった。
同族からあれほど石を投げられたのに、初対面の彼女は無邪気に淡く微笑んでさえいる。
「せめて名前を教えてくれないか。
私はティア・ハリベル」
咲は少しだけ迷って、一つ頷いて、口を開いた。
「卯ノ花、咲です」