虚圏調査隊編
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教えられた通りくるりと銀白風花紗を巻いて口元まで深く覆う。
李梅も、雅忘人もそれぞれのストールで口元を覆っていた。
「あと1分で繋がるよ」
画面の青い光に照らされた曳舟がそう告げた。
十二番隊の地下研究所に集まったのは曳舟と副隊長の柄菱鉄斎、元柳斎、雀部の4名だった。
いくら担当とはいえ、一介の席官に過ぎない浮竹は同席を許されなかった。
「誓いを」
元柳斎が刀を抜く。
彼が抜刀するのは、相当の事態か、特別な儀式の時の時だけだ。
これがそれだけ特別な事であるのだと咲は身の引き締まる思いがした。
李梅、雅忘人も刀を抜くので、咲もそれに倣う。
元柳斎の視線が順に向けられ、最後に咲を見つめる。
その深き知恵と経験を讃える瞳は、咲を信じていた。
1つ、その瞳に頷き返す。
4本の刀の切っ先を合わせた。
大きな内乱の鎮圧に行く際に、六番隊がこの儀式をしたことはあった。
末席の咲は、席官達が行っているのを遠目に眺めているだけであった。
総隊長とともに、このような儀式をおこなうなど、またとない栄誉である。
そしてーーこの遠征がそれだけ帰還率が低いものであると言うことも、示していた。
「我等!今こそ決戦の地へ!
信じろ 我等の刃は砕けぬ 信じろ 我等の心は折れぬ!
たとえ歩みは離れても 鉄の志は共に在る!!
誓え!我等 地が裂けようとも 再び生きて この場所へ!!!」
朗々とした総隊長の発声後、3人は総隊長に背中を向けた。
その3人の視線の先で、
初めて見る人工的なそれを食い入るように見る。
李梅がまず飛び込む。
雅忘人に促され咲は足を踏み出そうとしたときだ。
一瞬振り返りかけた咲の頭に手が置かれる。
「振り返らぬのが慣わしだ」
耳元で雅忘人に囁かれ、咲は一度きつく目をつぶると飛び込む。
(いってきます)
烈は、窓の外を見た。
満月が輝くよく晴れた夜だ。
静かに消えた霊圧に、思いを馳せる。
「どうかご無事で」
(あの夜もそう言って見送った)
遠い昔を思う。
強くいつも自分を守っていた背中を思い出す。
そして再会を果たした時にはその背中は、己よりも小さな守ってやりたいものへと変わっていた。
「どうか、もう消えないで」
そう呟いてから首を振る。
喪失感に握りしめていた手を解いた。
これからこれがまた、日常になるのだから、と。
(貴女はあの日、言いましたね。
貴女がすべきことを、ここで全うしなさい、と)
遠い昔に彼女に言われた言葉が、今なお自分を支えるということを、いつか本人に伝える日が来るのだろうか。
答えのない問いに小さく微笑むと、烈は月に背を向け、患者の元へと向かった。
銀嶺もやはり空を見上げた。
銀白風花紗がふわりと揺れる。
その隣で蒼純は俯いた。
二人は何も言わない。
ただじっとしていた。
白哉を寝かしつけた明翠は庭に佇む二人を見て、友の出立を悟った。
(もう無理しないでと言うこともできない。
あの子も泊まっていってとせがむこともできない)
風の噂で、100年の長期任務であると聞いた。
(長すぎる。
私も老いるし、あの子も大人になることでしょう)
白哉もいずれ知るだろうと思うと、胸がつかえた。
そして心やさしい兄の心境を思い、また苦しくなった。
今は亡き夫の悪行を思い、胸が痛んだ。
少女の苦行のきっかけは、間違いなく響河である。
(どうか、どうか生きて……)
明翠は祈るだろう。
100年間、毎日のように。
「あ……」
ごろりと寝転んだ京楽が小さく声を漏らし、起き上がった。
突然見失った霊圧に、彼女の旅立ちを悟った。
それはあまりに唐突で、大きな喪失感を残した。
いつも無意識に彼女の霊圧を探していたことに今になって気づいた絶望感と言ったら、なかった。
義姉はゆったりと手元の本のページをめくる。
「どうした」
部屋の奥で何かを書いていた兄が問いかける。
それには答えず、京楽は長いため息をついて横になる。
懐から風車の簪を取り出した。
祈祷した簪と取り替えた、京楽が最初に贈ったものだ。
「それどうしたんだ?」
「放っておいてよ」
寄ってくる兄を追い払うように立ち上がる。
義姉がくすりと笑った。
仕事をしていた浮竹はふっと筆を止めた。
隣にいた土方がそれに気づき、何か声をかけようとしたときには再び筆を走らせていた。
執務室に残っていたのは、二人きりだった。
土方は黙々と仕事を続ける部下をじっと見つめた。
整った顔立ちを白い髪が縁取る。
伏せられたまつ毛が、知的な鳶色の瞳を隠し、薄い唇はきりりと結ばれている。
部下は視線を感じて筆を止め、上司を見た。
そしていつも通り淡く微笑んだ。
土方は目を細め席を立つ。
「……遅くなったが飯に行くか」
「はい」
部下はそれに従う。
机の上をそれぞれ片付け、戸締まりを済ませた。
明かりを消す。
今日の仕事は、これで終わりだ。
「100年、か」
元柳斎が嗄れた声を出した。
「はい。
ですが今回は終わりも見えております」
雀部が言葉を返した。
「しかも一応仲間もいるし」
曳舟が腕を組んで笑う。
「ね、鉄斎」
「そうですな」
眼鏡の奥で、彼も笑った。
「久しぶりにどうじゃ、なじみの店にでも行くかの。
卯ノ花に、朽木も誘うか」
珍しい誘いに、曳舟は手を叩いた。
「いいですね!」
「そうしましょう」
雀部も嬉しそうに笑う。
「笑っておらねば怒られます」
鉄斎の言葉に、皆が頷いた。
「儂等にしたら、たった100年じゃ」