虚圏調査隊編
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「なんだと!?」
地獄蝶からの報告に土方は目を見開いた。
「何事です?」
珍しい様子に沖田が振り返って尋ねる。
報告が終わった地獄蝶はひらひらと窓から飛んでいった。
「虚圏調査隊を覚えているか?」
「100年位前に出た遠征部隊ですよね?
……ってまさか100年経ちましたか?」
聞き覚えのない話に浮竹は首をかしげる。
「どうやらそうらしいな。
今四番隊で健康状態の確認を受けているとのことだ。
問題なければ明日報告を受けることができそうだ」
「今回の帰還は何名だ?」
近藤が口を挟んだ。
土方は表情を暗くした。
「……二名だ。
十一番隊三席
「あれだけの精鋭を揃えたのに、やはり残るのは彼らくらいか」
近藤は重いため息をついた。
「もう次は志願する隊士もいないんじゃないですか?
前はほら、貴族の次男以降で名前をあげようとして名乗りをあげた隊士もいたけど、時代も変わったし、今わりと平和だし」
「だが調査隊中止というわけにもいかねぇからなぁ。
何とか見繕うしかねぇが……」
頭を悩ませるの上司達に、浮竹は思いきって問いかける。
「あの、虚圏調査隊とは?」
近藤が忘れていたというように浮竹に顔を向ける。
「ああ、浮竹は知らないだろう。
名前の通り、虚圏に調査に出る遠征部隊でな、100年単位の任務になる」
「100年!?」
流石に長期で驚く。
浮竹が今まで見た任務で長いものでも10年余りだった。
いくら死神の寿命が長いとはいえ、100年と言われれば確かに志願者も少ないに違いない。
「虚圏の様子を知り、向こうで虚の数を減らせば出現する虚の数を減らすことにもなるのではと言うことだったけど、さして効果はないんじゃないかなぁ」
「全ては二人の報告次第。
だが、この任務は四十六室も一枚噛んでいるからな、簡単にはなくならん。
実際、敵を知ることほど有効な手立てはないからな。
歳、四番隊から連絡が入ったら俺に繋げてくれ」
「ああ」
浮竹は表情を暗くした。
100年に及ぶ帰還率の低い、志願者が極端に少ない危険な任務。
それだけで誰に白羽の矢が立つか、すぐに分からたからだ。
その表情を横目で見た土方は、誰にも気づかれないように小さくため息をついた。
疲労と栄養不足以外には特に問題がないと診断された狩野と李梅は、翌日帰還の挨拶のため隊首会に出席した。
「十一番隊三席狩能 雅忘人、十番隊四席李梅、この度は過酷な任務ご苦労じゃった」
狩野は長身で赤味がかった髪の男。
李梅は小柄で黒髪の目付きの悪い男である。
どちらも何年も陽を浴びていないような、白い肌をしており、何より一介の隊士とは空気が違う。
威圧感を出しているわけではないのに緊張感があり、それでいて息を潜めているような、静けさがあった。
総隊長の労いに、二人は深々と頭を下げる。
「ここに戻ることが叶わなかった隊士にも深く感謝の意を表する。
表をあげよ」
その言葉に従う。
「まずは休み、英気を養うがよい」
隊長、副隊長ともにずいぶんと顔ぶれが変わっていると、2人は思った。
自分達が知らないということは、相手も自分達を知らぬということだ。
それが虚圏調査隊の辛さのひとつだ。
危険を省みず任務を果たし無事帰還できたとしても、自分が仕えた隊長さえいない。
実際知っている顔など、総隊長、雀部、四楓院、卯ノ花くらいだ。
「これにて隊首会は終了とする」
虚圏調査隊に興味のない隊長や予定のある者から席をはずし、残ったのは総隊長山本、十番隊隊長李玖楼、十二番隊隊長曳舟、そして十三番隊隊長近藤、副隊長土方の5名だった。
「ここに帰ることの叶わなかった隊士については、虚圏にて丁重に葬りました」
「うむ」
各隊から10名程度選出されていた隊士を思い出す。
護挺のため、家のためと各々の目的のために虚圏に向かった100名を越えるの隊士は皆、還らぬ人となった。
「虚圏は相変わらずかい?」
玖楼の問いかけに、狩野が頷く。
「はい、どこまでも続く砂丘と星のない空の広がる場所です。
時を経ようとそれは変わることはありません。
虚の巣はいくつか見つけましたが、撲滅まではなかなか」
「それはそうだろう。
ご苦労であったな」
「100年も経つとこっちの事情はさっぱりですが、また調査隊は組まれるのでしょうか」
「そうじゃろう」
「この帰還率ですが、隊士は集まりそうですか?」
「難しいじゃろう」
当然の返答だ。
現にその任務から帰った二人は表情を変えることはない。
「覚悟のないやつが来ても死ぬだけですから、構いません」
李梅の言葉は真であり、誰も否定はしない。
いくら隊長であっても、実際に虚圏で過ごしたことのあるものは居らず、過去の資料から推察することしかできない。
それでも彼らが、尋常ならざる世界にいた事は理解できる。
そしてその世界で生き残る難しさも。
「俺達は引き続き志願します。
喪った仲間のためにも、この任務で成果を残したい」
強い瞳の二人に、山本はひとつ頷いた。