学院編Ⅰ
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「何だ、虚では無いのか」
詰まらなそうな虚の声に、咲はぴくりと反応する。
「まぁいい。
こいつを喰らいお前を喰らう。
それだけの事だ」
咲はカタカタと震えながら刀を構える。
それはすでに、咲の理性の範疇を超えている。
ただただ、目の前の虚を殺すためだけに、刀を本能的に構えているに近い。
虚はどこか恍惚としたように目を細める。
「そうだ!その目だ!!
懐かしいなぁ!
待っていたぞ!
喰いいたくて喰いたくて仕方がない、ぞっとするような瞳。
それはもう、愛おしいほどに!!!」
咲の口から細く息が吐き出された。
そして、まるで唸るように、低い詠唱が行われ、虚は目を見開く。
「悲涙流れし 血を啜れ いざ目覚めよ
破涙贄遠 」
予想以上に早い咲の足に見失ってしまい、街中を探しあるいていたところ、浮竹と京楽はひとつの騒ぎに出くわした。
「これは……いったい何が」
浮竹と京楽が見たのは、崩れ去った大きな門。
崩れ落ちた柱などのつくりからも、それが立派なものだったことは容易に想像できる。
そして2人は、この家が誰の家か知っていた。
「いったい何があったんですか?」
京楽が近くで脅えながらも様子をうかがっている人達に聞いてみる。
「わしらにも分からないんじゃ。
ただ、この高い塀の中で、悲鳴や爆音が続くばかり……」
恐ろしげに老人は答えた。
ところどころ壊された塀。
それでも中をのぞいて様子を知ることはできそうにない。
というのも、どうやら結界が張ってあるようで、簡単には中の様子が見られないようにしてあるのだ。
「いったいどうして……」
「やはり山上君は何か……」
2人が同時に呟き、その意味が正反対であることに顔を見合わせる。
京楽は驚いた顔、浮竹は失言に気づいた顔だ。
浮竹は自分の霊圧が暴走した際、失神することのなかった山上に対して、何らか秘密があるのではと日頃から注視してきた。
だが確信に至らず、京楽には話していなかったのだ。
また件の暴走に関しては詳細を伏せていた為気まずく、鋭い京楽の眼差しに苦笑を浮かべた。
「……詳しくはまた話すよ」
「当然だよ」
「ひとり、女の子が来ませんでしたか?」
浮竹の声に、老人は思い出したという顔をした。
「そうじゃ、先ほど中に飛び込んで行ったが……果たして無事かどうか。
霊術院の制服を着ておった。
知り合いかね?」
浮竹と京楽は顔を見合わせ頷く。
「ええ。
どうも世話の焼ける後輩でして」
京楽はそう言うと崩れた門を飛び越えた。
「危ない、行くんじゃないよ!」
ふわりと消えた京楽の背中を追うように手を伸ばした老人に、浮竹は強気な微笑みを向けた。
「御心配ありがとうございます。
でも、彼女をただ待っていることはできませんから」
そして彼もまた迷いなく瓦礫を飛び越えた。
目に飛び込んできた惨状。
辺りにどれほどの死体があるのだろうか。
そして鼻に付く、煙の匂いと血肉の焦げる匂い。
2人は顔を顰め口元を腕で覆い、視線を逸らした。
「行くぞ」
くぐもった浮竹の声に京楽も頷いて走り出す。
霊圧が感じられる方へと走って行けば、少し開けた場所に出た。
と言っても、そこが屋敷の構成上開けていたわけではなく、破壊された故開けた場所なのだが。
ザンッ
肉の切れる音に2人は目を見開いた。
そこには実習でもまだ数回しか見たことがないが、虚だったものがいた。
きっとその身体の上には首がついていたのだろう。
そこには何も残ってはいなかった。
身体の大きな虚であった。
不気味なトカゲのような形をした身体は、ゆっくりと傾き、地面に倒れ伏した。
その体も徐々に灰となって消えていく。
耳に届く荒い息遣い。
驚いて目を向けると、そこには白い象牙のような巨大な刀身の刀を手に立ちつくす咲がいた。
彼女の指先からは血が滴り、顔も服も血と泥に塗れていた。
「っ……空太刀!」
浮竹の声に咲はぴくりと反応し、ゆっくりと顔を向けた。
駆け寄ろうとした2人は、その目に浮かぶ涙にぎょっとする。
「空太刀咲。
浮竹十四郎。
京楽春水。
動くな」
自分たちの身体が何者かに拘束され、驚くもその気迫に2人は動くことができない。
咲はと言えばただ茫然と立ち尽くしていた。
「院生の力がまさかこれ程だとは、思いもしなかったよ」
黒い影が一斉に残った壁や屋根の上にも現れ、3人を取り囲んだ。
消えてゆく虚の死体の前に立っていた男は風に舞ってゆく灰を名残惜しげに見やり、そして咲を見据えた。
彼女の瞳はもう何も映していないようだった。
静かに涙がこぼれるばかりで、男の言葉に反応もない。
「連れて行くように」
その言葉にいち早く反応したのは浮竹だった。
「空太刀は何もしていない!」
「そうだ、彼女はこんなことしない!」
続いて京楽もそう叫び、咲の方へ駆けようとするも後ろから押さえつけられる。
しばらく揉めたものの、2人とも地面にうつ伏せに倒されてしまった。
「護挺隊士を舐められては困る。
院生にしては手ごたえがあったようだけれど」
その言葉に我に帰った2人は、そう言う男の姿をもう一度まじまじと見つめた。
「ようやく冷静を取り戻したかな」
黒い袴姿に白い羽織。
長い黒髪は後ろで束ねられている。
月の光に照らされた青い目はついっと細められ、その威圧感は間違いない。
「……まさか 李玖楼 殿?」
思わず漏れた京楽の言葉に、彼は目を閉じひとつ頷いた。
「いかにも。
私は護廷十三隊十番隊隊長、李 玖楼 。」
彼の青い瞳は鋭く、2人は身体を固くした。
しかしすぐにその瞳は弧を描く。
逆らってはならない人物だが、恐ろしい人物ではないように感じられる。
「詳しいことは彼女も含め、隊舎の方で聞こう」
ふわりと翻された羽織。
その背中には見間違うことない十の文字が記されていた。
「空太刀はどちらに?」
入れられた部屋に咲の姿が見えず、浮竹は近くにいた銀髪の隊士に尋ねる。
「彼女は治療が先。
四番隊隊舎に運んだよ」
その言葉に2人は心配そうに顔を合わせる。
もう一人の隊士がため息をつき、大丈夫だ、と声をかける。
「命に別条はないらしい。
そこに座れ」
示された場所には机を挟んで二脚ずつ椅子が用意されていた。
浮竹と京楽は促されるままに腰を下ろす。
「お前たちの事情聴取を担当する。
十番隊三席、木之本桃也 だ」
「同じく十番隊四席、月城雪兎 」
その三席、四席という数字に、2人は目を見開く。
自分たちから見れば、この人は雲の上の存在だ。
確かに異様な場面に出くわしてしまったとはいえ、なぜ自分たちがこれほどの者に事情聴取をされなければならないのだろうという疑問を抱く。
「霊術院3年、浮竹十四郎、京楽春水で間違いないな?」
木之本の言葉に、2人は肯定を返す。
「それではまず一つ目」
木之本は書類を見ながら2人を見つめる。
月城は筆を持ち、書類に何やら書き始めた。
「空太刀咲との関係は?」
調べればすぐにわかるこの質問はフェイクであり、本当に聞こうとしている質問がいずれやって来るだろうと、2人は僅かに身構えた。
そして顔を合わせて頷き合い、京楽が口を開いた。
「彼女は後輩です」
続く木之本の問いかけに、2人は交互に答えていく。
「何故知り合った?」
「一緒に飛び級試験を受けるために一緒に勉強していました」
「山上家について、何か知っているか?」
「学級の副委員長が山上末雪殿でしたが、上流貴族ということくらいしか知りません」
「ではなぜあの場にいた?」
「空太刀が寮を抜けていくのが見えたので、追いかけました。
途中で見失ってしまったので、街中を走り回っていたら騒ぎが聞こえた者で行きました」
「空太刀の戦いは見たのか?」
「いいえ、私たちがついたのは、護挺の方々が姿を現すまでのほんの少し前です」
それから現場に関する質問が続いた後、一呼吸開けてから木之本は問うた。
「なぜあの場所に虚が現れたと思う?」
(その原因がボク達じゃないかと疑っているのか?)
京楽はまさか院生ごときに、と思いながらも口を開いた。
「私たちも検討がつきません」
「知っていればもっと早く、浅打だけでも倉庫から盗んでこれたのに……」
思わず本音が漏れた浮竹の脇を京楽が小突く。
浮竹もはっとして、慌てて口をつぐむ。
だがその2人の様子に、木之本は何かを納得したのか、ひとつ頷いて質問をやめた。
「本音が出た、か。
お前たちも疲れているんだろう。
部屋に案内する」
立ち上がった木之本に、2人は驚く。
部屋に案内されるということはしばらくは帰れないということだろうかと、不安が胸を占める。
「すみません、空太刀は?」
京楽が木之本を見る。
その顔に2人は驚いたような顔をした。
「怖い顔するなよ。
今彼女の治療をしている四番隊は、彼女の保護者である卯ノ花隊長の隊でもある。
悪い扱いは受けていないだろう」
苦笑を洩らす木之本に京楽は慌てて失礼しました、と頭を下げた。
「そんなに心配なら、また明日の朝……って言っても今日か。
朝食を持っていくときにでも彼女の体調を報告させるよ」
ふわりと微笑む月城に、2人も毒気を抜かれる。
「行くぞ」
木之本の声に慌てたように立ち上がり、部屋から出た。
残された月城は書類を整え、慌てていたせいで出したままになっている浮竹と京楽が座っていた椅子を直す。
そして部屋の奥の扉に向かって笑顔を向けた。
「たぶん白でしょうね、大道寺副隊長」
扉が静かに開いた。
「知っているわ。
報告にも黒とは上がっていなかったし、彼らはまだまだ弱いもの」
ボブカットの茶色い髪に勝気な瞳。
「ただ、彼女の方は手を出していることもあり得るわ。
ただ偶然居合わせたなんて、全寮制の院生がおかしいわ」
窓の外では松明が燃え、慌ただしく隊士たちが走り回る。
「あの山上家の末っ子、なかなかの生き様だったわね」
その言葉に、月城は目を伏せた。
一夜にして、上流貴族山上家が全壊、生存者は無し。
その事件は瞬く間に静霊挺内に広がって行った。
詰まらなそうな虚の声に、咲はぴくりと反応する。
「まぁいい。
こいつを喰らいお前を喰らう。
それだけの事だ」
咲はカタカタと震えながら刀を構える。
それはすでに、咲の理性の範疇を超えている。
ただただ、目の前の虚を殺すためだけに、刀を本能的に構えているに近い。
虚はどこか恍惚としたように目を細める。
「そうだ!その目だ!!
懐かしいなぁ!
待っていたぞ!
喰いいたくて喰いたくて仕方がない、ぞっとするような瞳。
それはもう、愛おしいほどに!!!」
咲の口から細く息が吐き出された。
そして、まるで唸るように、低い詠唱が行われ、虚は目を見開く。
「悲涙流れし 血を啜れ いざ目覚めよ
予想以上に早い咲の足に見失ってしまい、街中を探しあるいていたところ、浮竹と京楽はひとつの騒ぎに出くわした。
「これは……いったい何が」
浮竹と京楽が見たのは、崩れ去った大きな門。
崩れ落ちた柱などのつくりからも、それが立派なものだったことは容易に想像できる。
そして2人は、この家が誰の家か知っていた。
「いったい何があったんですか?」
京楽が近くで脅えながらも様子をうかがっている人達に聞いてみる。
「わしらにも分からないんじゃ。
ただ、この高い塀の中で、悲鳴や爆音が続くばかり……」
恐ろしげに老人は答えた。
ところどころ壊された塀。
それでも中をのぞいて様子を知ることはできそうにない。
というのも、どうやら結界が張ってあるようで、簡単には中の様子が見られないようにしてあるのだ。
「いったいどうして……」
「やはり山上君は何か……」
2人が同時に呟き、その意味が正反対であることに顔を見合わせる。
京楽は驚いた顔、浮竹は失言に気づいた顔だ。
浮竹は自分の霊圧が暴走した際、失神することのなかった山上に対して、何らか秘密があるのではと日頃から注視してきた。
だが確信に至らず、京楽には話していなかったのだ。
また件の暴走に関しては詳細を伏せていた為気まずく、鋭い京楽の眼差しに苦笑を浮かべた。
「……詳しくはまた話すよ」
「当然だよ」
「ひとり、女の子が来ませんでしたか?」
浮竹の声に、老人は思い出したという顔をした。
「そうじゃ、先ほど中に飛び込んで行ったが……果たして無事かどうか。
霊術院の制服を着ておった。
知り合いかね?」
浮竹と京楽は顔を見合わせ頷く。
「ええ。
どうも世話の焼ける後輩でして」
京楽はそう言うと崩れた門を飛び越えた。
「危ない、行くんじゃないよ!」
ふわりと消えた京楽の背中を追うように手を伸ばした老人に、浮竹は強気な微笑みを向けた。
「御心配ありがとうございます。
でも、彼女をただ待っていることはできませんから」
そして彼もまた迷いなく瓦礫を飛び越えた。
目に飛び込んできた惨状。
辺りにどれほどの死体があるのだろうか。
そして鼻に付く、煙の匂いと血肉の焦げる匂い。
2人は顔を顰め口元を腕で覆い、視線を逸らした。
「行くぞ」
くぐもった浮竹の声に京楽も頷いて走り出す。
霊圧が感じられる方へと走って行けば、少し開けた場所に出た。
と言っても、そこが屋敷の構成上開けていたわけではなく、破壊された故開けた場所なのだが。
ザンッ
肉の切れる音に2人は目を見開いた。
そこには実習でもまだ数回しか見たことがないが、虚だったものがいた。
きっとその身体の上には首がついていたのだろう。
そこには何も残ってはいなかった。
身体の大きな虚であった。
不気味なトカゲのような形をした身体は、ゆっくりと傾き、地面に倒れ伏した。
その体も徐々に灰となって消えていく。
耳に届く荒い息遣い。
驚いて目を向けると、そこには白い象牙のような巨大な刀身の刀を手に立ちつくす咲がいた。
彼女の指先からは血が滴り、顔も服も血と泥に塗れていた。
「っ……空太刀!」
浮竹の声に咲はぴくりと反応し、ゆっくりと顔を向けた。
駆け寄ろうとした2人は、その目に浮かぶ涙にぎょっとする。
「空太刀咲。
浮竹十四郎。
京楽春水。
動くな」
自分たちの身体が何者かに拘束され、驚くもその気迫に2人は動くことができない。
咲はと言えばただ茫然と立ち尽くしていた。
「院生の力がまさかこれ程だとは、思いもしなかったよ」
黒い影が一斉に残った壁や屋根の上にも現れ、3人を取り囲んだ。
消えてゆく虚の死体の前に立っていた男は風に舞ってゆく灰を名残惜しげに見やり、そして咲を見据えた。
彼女の瞳はもう何も映していないようだった。
静かに涙がこぼれるばかりで、男の言葉に反応もない。
「連れて行くように」
その言葉にいち早く反応したのは浮竹だった。
「空太刀は何もしていない!」
「そうだ、彼女はこんなことしない!」
続いて京楽もそう叫び、咲の方へ駆けようとするも後ろから押さえつけられる。
しばらく揉めたものの、2人とも地面にうつ伏せに倒されてしまった。
「護挺隊士を舐められては困る。
院生にしては手ごたえがあったようだけれど」
その言葉に我に帰った2人は、そう言う男の姿をもう一度まじまじと見つめた。
「ようやく冷静を取り戻したかな」
黒い袴姿に白い羽織。
長い黒髪は後ろで束ねられている。
月の光に照らされた青い目はついっと細められ、その威圧感は間違いない。
「……まさか
思わず漏れた京楽の言葉に、彼は目を閉じひとつ頷いた。
「いかにも。
私は護廷十三隊十番隊隊長、
彼の青い瞳は鋭く、2人は身体を固くした。
しかしすぐにその瞳は弧を描く。
逆らってはならない人物だが、恐ろしい人物ではないように感じられる。
「詳しいことは彼女も含め、隊舎の方で聞こう」
ふわりと翻された羽織。
その背中には見間違うことない十の文字が記されていた。
「空太刀はどちらに?」
入れられた部屋に咲の姿が見えず、浮竹は近くにいた銀髪の隊士に尋ねる。
「彼女は治療が先。
四番隊隊舎に運んだよ」
その言葉に2人は心配そうに顔を合わせる。
もう一人の隊士がため息をつき、大丈夫だ、と声をかける。
「命に別条はないらしい。
そこに座れ」
示された場所には机を挟んで二脚ずつ椅子が用意されていた。
浮竹と京楽は促されるままに腰を下ろす。
「お前たちの事情聴取を担当する。
十番隊三席、木之本
「同じく十番隊四席、月城
その三席、四席という数字に、2人は目を見開く。
自分たちから見れば、この人は雲の上の存在だ。
確かに異様な場面に出くわしてしまったとはいえ、なぜ自分たちがこれほどの者に事情聴取をされなければならないのだろうという疑問を抱く。
「霊術院3年、浮竹十四郎、京楽春水で間違いないな?」
木之本の言葉に、2人は肯定を返す。
「それではまず一つ目」
木之本は書類を見ながら2人を見つめる。
月城は筆を持ち、書類に何やら書き始めた。
「空太刀咲との関係は?」
調べればすぐにわかるこの質問はフェイクであり、本当に聞こうとしている質問がいずれやって来るだろうと、2人は僅かに身構えた。
そして顔を合わせて頷き合い、京楽が口を開いた。
「彼女は後輩です」
続く木之本の問いかけに、2人は交互に答えていく。
「何故知り合った?」
「一緒に飛び級試験を受けるために一緒に勉強していました」
「山上家について、何か知っているか?」
「学級の副委員長が山上末雪殿でしたが、上流貴族ということくらいしか知りません」
「ではなぜあの場にいた?」
「空太刀が寮を抜けていくのが見えたので、追いかけました。
途中で見失ってしまったので、街中を走り回っていたら騒ぎが聞こえた者で行きました」
「空太刀の戦いは見たのか?」
「いいえ、私たちがついたのは、護挺の方々が姿を現すまでのほんの少し前です」
それから現場に関する質問が続いた後、一呼吸開けてから木之本は問うた。
「なぜあの場所に虚が現れたと思う?」
(その原因がボク達じゃないかと疑っているのか?)
京楽はまさか院生ごときに、と思いながらも口を開いた。
「私たちも検討がつきません」
「知っていればもっと早く、浅打だけでも倉庫から盗んでこれたのに……」
思わず本音が漏れた浮竹の脇を京楽が小突く。
浮竹もはっとして、慌てて口をつぐむ。
だがその2人の様子に、木之本は何かを納得したのか、ひとつ頷いて質問をやめた。
「本音が出た、か。
お前たちも疲れているんだろう。
部屋に案内する」
立ち上がった木之本に、2人は驚く。
部屋に案内されるということはしばらくは帰れないということだろうかと、不安が胸を占める。
「すみません、空太刀は?」
京楽が木之本を見る。
その顔に2人は驚いたような顔をした。
「怖い顔するなよ。
今彼女の治療をしている四番隊は、彼女の保護者である卯ノ花隊長の隊でもある。
悪い扱いは受けていないだろう」
苦笑を洩らす木之本に京楽は慌てて失礼しました、と頭を下げた。
「そんなに心配なら、また明日の朝……って言っても今日か。
朝食を持っていくときにでも彼女の体調を報告させるよ」
ふわりと微笑む月城に、2人も毒気を抜かれる。
「行くぞ」
木之本の声に慌てたように立ち上がり、部屋から出た。
残された月城は書類を整え、慌てていたせいで出したままになっている浮竹と京楽が座っていた椅子を直す。
そして部屋の奥の扉に向かって笑顔を向けた。
「たぶん白でしょうね、大道寺副隊長」
扉が静かに開いた。
「知っているわ。
報告にも黒とは上がっていなかったし、彼らはまだまだ弱いもの」
ボブカットの茶色い髪に勝気な瞳。
「ただ、彼女の方は手を出していることもあり得るわ。
ただ偶然居合わせたなんて、全寮制の院生がおかしいわ」
窓の外では松明が燃え、慌ただしく隊士たちが走り回る。
「あの山上家の末っ子、なかなかの生き様だったわね」
その言葉に、月城は目を伏せた。
一夜にして、上流貴族山上家が全壊、生存者は無し。
その事件は瞬く間に静霊挺内に広がって行った。