原作過去編ー110年前
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「蒼純副隊長はいるか?」
隊首室にひょっこり顔を出したのは九番隊の六車だった。
珍しいこともあるものだ、と蒼純は腰をあげる。
「何かありましたか?」
「悪いな急に。
実はこんなものが届いたんでな。」
封書を渡され、それに目を通した蒼純の顔は厳しいものになった。
六車は穏便な彼には珍しいと様子をうかがう。
「四十六室から直接こんな通達が来るのは初めてで、俺も驚いているんだ。」
「こちらは初めてではありません。」
そう言って微笑みを浮かべるが、目は笑っていない。
四十六室からの命令は、九番隊長六車の魂魄消失案件部隊になぜか六番隊の卯ノ花咲を加えるようにとのことだった。
危険な任務である今回の任務に、なぜわざわざ他隊の隊士を加えるような命令がなされたのか甚だ疑問であった。
「彼女に
そんな命令を、したくはないのですが。」
六車は黙らざるを得ない。
蒼純は階級こそ下ではあるが、六車が入隊した頃から席があり、体調不良を理由に異動を拒むからこそ副隊長であり続けているが、実力は隊長格であることは有名な話だ。
穏やかに見えてその貫禄はやはり朽木家時期当主のもの。
その上どうやら事が事だけに下手に口出しできない。
「とはいえ、どうしようもない話。
彼女は本当に強い。
観察眼も鋭く、今回のような原因を究明する案件には向いていると言えるでしょう。
実力に経験、知識も豊富で何の心配もいりません。
確かに彼女を使えば、解決の糸口が掴めるかもしれません。」
彼女の任務成功率については聞き及んでいたし、京楽、浮竹とともに入隊してきた時から随分と優秀だと有名だった。
(だが六番隊の卯ノ花咲と言えば、四番隊の卯ノ花隊長の更木出身の養女であり、朽木響河の一件で罪に問われた罪人。)
50年以上過ぎた今、知らない者も多いが、調べれば直ぐに分かる事だ。
隊士達が彼女と何の隔たりもなく接することができるとは言いがたい。
部隊の編成は困難を極める。
「単独で任務を任せるとよいと思います。」
普段の穏和さは鳴りを潜め、副隊長らしい鋭い瞳をして、蒼純は最も残酷な方法を提案する。
「それで、良いのか?」
思わず確認したが、蒼純はひとつ頷くばかりだった。
きっと六番隊でもそうしているのだろう。
「本人を呼びましょう。」
蒼純は地獄蝶を呼び寄せ、隊首室に来るよう告げると、すぐにドアがノックされた。
「失礼致します。」
入ってきたのは、涼やかな目元に銀白風花紗を首に巻いたすらりとした女で、六車は不躾にもじっと見てしまう。
最後に見たのは彼女がまだ響河の部下だった頃で、まだ少女の域を出ていなかった。
「卯ノ花咲だ。」
蒼純の紹介に彼女はさっと頭を下げた。
「九番隊の任務に同行してほしい。
魂魄消失案件はまだ話していなかったね?」
続いた彼の言葉に、咲は頭をあげた。
「初めてうかがいます。」
少し低めの声に落ち着きを感じる。
蒼純がどこか暗い表情で口を開く。
「最近不可解な失踪、というか、死亡が増えてきていてね。
死んだなら服も一緒にきえるはずだが、服だけ残っているらしい。
生きたまま人の形を保てなくなって消失したと言うのが卯ノ花隊長の見解だ。」
「卯ノ花、隊長の・・・」
ふっと彼女の頬に血の気が差す。
「そうだ。」
蒼純はその表情に目を細める。
「前にも言ったね。
君に代わりはいない。
卯ノ花隊長も、君が成果を携えて無事に帰ってくることを期待されることだろう。
必ず戻ってきなさい。」
(事実は確かに歪んでいるかもしれない。)
まるで幼子に言い聞かせるかのような口振りに、義弟の部下として罪を犯した彼女に対する蒼純の思いがうかがえた。
そして彼を見つめ返す咲の信頼しきった瞳。
これほどの瞳で強く見つめられるのであれば、上司の冥利につきると言うものだろう。
(この二人は、本当にただの上司と部下で、清くて真っ直ぐだ。)