原作過去編ー伊勢家
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今回の長期任務は流魂街4箇所に出る虚を捕獲して帰ることだった。
技術開発局の霊圧監視システムの試験も兼ねている。
「ギャァァァァァ!!!」
手荒く切り伏せた虚の悲鳴など聞こえないかのように間髪入れず虚に照準を合わせる。
「縛道の六十一 六杖光牢。」
動きを奪った上で、頭、両手足に技術開発局に指定された拘束具をつけ、地獄蝶で連絡を取る。
「阿近十三席、準備整いました。」
ー了解。
転送開始する。ー
その言葉に咲は懐から巻物を取り出して広げ、霊圧を込めると檻が現れた。
その入口が自動的に開き、底知れぬ闇に虚が吸い込まれ始める。
虚が怯えたように暴れようとするが、咲の六杖光牢と術により手先すら動かすことは叶わない。
ー五、四、三、二、一。ー
阿近のカウントが終わる頃には虚の姿は檻の向うの闇の中に消えていて、ガチャンと音をたてて閉まる入口からは何もうかがうことはできない。
ー転送終了。
ご苦労。ー
「ありがとうございます。」
いつも通り通信が終了し、巻物を懐になおす。
そして咲は戦っている間から感じていた気配を振り返った。
しばらく見つめたが相手が出てくる気配がないので、咲は背中を向けた。
歩き始めようとしたところで立てられた物音に、再び振り返る。
相手が物音を立てずに動くだけの歩法を身に付けていながら音を立てるということは、咲とのやり取りを望んでいるという事だ。
「僕が出てこなかったら、立ち去るつもりだったのかな?」
穏やかな笑顔に咲は深く一礼する。
「お疲れ様です、藍染副隊長。
・・・こちらからお声掛けするのも失礼かと思いまして。」
「そんなことはない。」
思慮深い瞳は、何を考えているのかわからない。
「十二番隊・・・
どちらかというと、技術開発局からの任務中かな?
素晴らしい術だった。」
「はい。
ですが詳しいことは存じ上げません。
上司の命令に従っているだけですので。」
藍染はくすりと笑った。
「君を手離さない六番隊の気持ちがよくわかるよ。」
意味がわからず、咲は首をかしげる。
「もし僕が隊長に掛け合って、席を用意すると言ったら、うちに来てくれるかい?」
唐突な誘いに咲は目を瞬かせる。
それから小さく笑った。
「ご冗談を。」
「冗談ではないよ。
君のような人材こそ、真に必要だ。
高い実力、豊富な経験、深い忠誠心・・・必要なすべてのものを、君は持っている。」
「とんでもございません。
ただの罪深き罪人ですので。」
「そうだろうか。」
一歩、藍染は咲に歩み寄る。
「君は罪を犯したと表現されるべきだろうか。」
深い瞳に見つめられ、咲やはり遠い昔に死んでしまった山上に、彼は似ていると思った。
藍染がまた一歩歩み寄る。
咲は無意識に一歩後ずさった。
「君は」
そこで不意に虚の気配がして、二人は別の方向をそれぞれ見た。
(ここから、北と、それから)
「北と西に一体ずついるようだね。
西の方を頼めるかい?」
「はい。」
咲は一礼すると瞬歩で立ち去った。
その背中を見送ってから、藍染は俯いて小さく笑う。
「さて、どうしたら堕ちるだろうか。」
虚の気配に転がるように駆ける。
獲物を追い詰めるときの独特の叫び声がした。
(近い!)
咲はへし折られた木をかわしながら抜刀する。
目の前に現れた巨大な尾を断ち切り、背中に獲物となっていた子どもをかばう。
「逃げなさ・・・」
「咲さん!!」
逃げるように言うはずだった言葉は、飲み込まれてしまった。
襲われている者の霊圧が妙に高いと思ったら。
「七緒様!?」
慌ててその体を抱えて飛び下がる。
「すぐにここから離れてください!」
「待って、お願いが!」
「それどころじゃ」
必死にすがり付いてくる七緒をまた抱えて飛ぶ。
二人がさっきまでいた場所からは煙が上がっており、辺りの草は枯れているようだ。
虚の尾から放たれるその攻撃を受けるのが危険だと言うのは一目瞭然だ。
早いこと片付けてしまいたいが、いくら子どもとはいえ状況がわからず自分にすがり付いてくる者を抱えての戦闘は不利だ。
「お願いします!」
何も分かっていない七緒は必死にしがみついて、離れようとしない。
「話は後で聞きます。
先に虚を片付けなければ!」
「お願い!」
片手で彼女を抱えている今、思い切り動くこともできない。
右手に斬魂刀、左手に七緒では鬼道を放って隙を作ることも難しい。
「七緒様、赤火砲を撃てますか?」
ちらりと見下ろせば、少女は口を一文字に結んで、睨むように見上げてきた。
「もちろんです。」
「私の言うタイミングで放ち、あの虚の体全てを焼き付くしてください。」
それが無理な話だと言うことは百も承知だ。
「はい!」
七緒の頼もしい返事に咲は再び飛び上がる。
「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ!」
咲は虚の攻撃を避けながら距離を縮める。
「焦熱と争乱 海隔て」
虚から発された連続攻撃が咲の腕を擦り、七緒が息を詰めて咲を見上げる。
「敵から目を離すな!
続けて!」
七緒を見ずにそう指示する咲に、慌てて虚に向けて手をつきだした。
「逆巻き南へと歩を進めよ!」
咲が虚の懐に入り込み、大きく刀を下から振り上げ、仮面を庇おうとした腕を切り落とす。
「今です!」
仮面と七緒を隔てるものが、なくなった。
虚が自分が発した赤火砲で焼けてゆくイメージを、脳内に鮮明に描くことが出来た。
「破道の三十一!
赤火砲!!!」
手の平がかぁっと熱を帯びた。
そして次の瞬間、自分では見たことのない大きな火の玉が、イメージ通り虚に襲いかかる。
その攻撃隙に畳み掛けるように、咲が脳天から大きく切り裂いた。
少し離れたところに咲に下ろされたが、そのままへたりこんでしまう。
くすりと笑い声がして、見上げると咲が腰を下ろして視線を合わせてくれた。
「素晴らしい鬼道でしたよ。」
死神になったら、これが日常化するのだ。
自分の母も、斬魂刀を持たない分、鬼道に秀でており、それだけで戦うのだと聞いた。
(今までの甘えたような鬼道では、死んでしまう。)
それが自分だけではなく、目の前の咲であったかもしれない。
大切な仲間や、たった一人の家族になってしまった、母親かもしれない。
「七緒様のお願い、うかがいましょうか。」
優しい言葉に七緒はきゅっと手を握りしめた。
「母上から聞きました。
父上が亡くなったのは、伊勢家の呪いのせいだと。
私が伊勢家を継ぐであれば、私もまた、愛した人を喪うのだと。」
咲は静かに頷く。
「私は両親のように心から愛し合う相手に出会ったことがないから分からりません。
でも、父上がお亡くなりになって悲しい。
母上も可哀想だ。
同じ目に合うと言われると辛いだろうと思う。
でも、会いたいの。
母上に、会いたい。」
七緒は咲をじっと、挑むように見つめる。
彼女の瞳は、前に見たときとは全く違っていた。
「大好きな母上を、悲しみから助けたい!」
彼女の脳裏には、最後に見送った母の凛とした、でも孤独な背中があった。
「ひとりぼっちになんてさせない!」