原作過去編ー伊勢家
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「ではひよ里サン、この予定で進めていきますので、」
「お話し中失礼します!」
慌ただしい足音のあと、浦原の言葉を遮って隊首室に飛び込んできたのは五席の男だった。
「なんや。」
ただならぬことなのは彼の慌てた様子からすぐに伝わってきた。
「7班から救援要請が入りました!
新種の虚で手がつけられず、班は壊滅状態とのことです!」
猿柿はすぐに頷いた。
「わかった!
お前の班は執務室に全員おるんか?」
「はい、おります!」
「すぐに出る。
用意せぇ!」
「はい!!!」
五席は一礼するとすぐに部屋から駆け出した。
「行ってくるわ。」
振り返ると浦原は何やら画面を覗いているようで、猿柿は青筋をたてる。
「なにやっとんねん!」
「あ、ごめんなさい。
どうぞお気をつけて。」
怒鳴ったところで堪えた様子もなく、浦原はへらりと笑った。
その笑顔に猿柿はどこか違和感を覚えたが、追求する時間はなく1つ鼻をならすと部屋から飛び出した。
駆け付けたのは連絡を受けてすぐだった。
機動力にも優れた自分達よりも早く駆けつけられる者はいないはずだ。
その上新種の虚だと聞いた。
1つの班が、壊滅するほど強いと報告を受けたはずだ。
「あいつ・・・。」
それなのに、目の前の女は自分達よりも早く駆け付け、息1つ切らさず巨大な虚の体の右腕を切り落としていた。
無席には有り得ない実力だ。
その上右腕の切り口を鎖状鎖縛の用な鬼道で幾重にも塞いでいる。
回復を防ぐためだろうか。
(策があるとでも言うんか?)
その間にも虚は巨大化を進めているようだ。
この巨大化が手がつけられないという報告の原因だろう。
「我らも助太刀を!」
部下の声に我に返り、慌てて咲の方へ走る。
勝手に手を出すより作戦を聞く方が得策だろう。
(癪だが仕方ない!)
「おい!
十二番隊6名到着した!
今どういう作戦で・・・。」
しかし咲は見向きもせずに飛び上がり、左腕を切り落とした。
鮮やかな剣捌きだ。
「おい!聞いとんのか!!」
思わず怒鳴り付ける。
咲は視線さえ動かさずに叫んだ。
「お下がりください!」
「はぁ!?」
「今は時間勝負です!
お下がりください!」
猿柿は青筋をたてる。
「下がるかボケ!!
うちらがトロい言うんか!!!」
「副隊長!とりあえず任せましょう!
その後でも遅くはありません!」
五席が猿柿の腕を掴む。
咲は虚に向かっていった。
「何やお前まで!!」
思わず五席に噛みつく。
「私の知合いがあの女に助けられたことがあります。
相当の相手だったようですが、難なく倒したとか。」
見上げる彼の顔にも悔しさが見てとれる。
「あの女が一太刀でも浴びたら、我らが代わればよいかと。」
猿柿はふん、と鼻をならす。
「言うようになったやんけ。」
五席は苦笑を浮かべ、後ろに控える残りの班員に被害が及ばない範囲で待機しつつ、生存者を探すよう伝えた。
話している間に、再生しかけていた左腕が再び切り落とされ、その切り口に鬼道が施されて行く。
先に切り落としていた右腕の切り口が隆起し、鎖状鎖縛を引きちぎりそうになる。
その様子から回復力の高さが分かった。
咲は巨大な閃虚を軽くかわし、次の瞬間右足も切り落とした。
バランスを崩し倒れながら放たれた巨大な虚閃を交わし、正面から叩き切った。
その刀を見て、猿柿は目を見開く。
「あいつ、解放しとらん・・・。
解放したら巨大な牙のような白い刀のはずや。」
五席は目を凝らす。
その手には細い日本刀のような形の刀があるだけだ。
「鬼道と斬術だけで倒したと言うことですか・・・。」
二人の傍らに咲が舞い戻る。
「先程は失礼致しました。
副隊長のお手を煩わせるほどのことではないと思いました故。」
息も切らさず、静かにそう告げる姿は余裕さえ感じられる。
「さっきの虚は新種やと聞いた。」
「はい。
霊力を吸いとって巨大化するタイプでした。
そのせいか治癒能力も高いようです。
斬魂刀を解放した状態で切ればその切り口からでも吸いとられる。
鬼道も破道はとくに吸収されやすいようですが、縛道はそれほどと見えました。
また改めて報告書を提出致します。」
短い時間で細かな分析をしたものだと舌を巻く。
話をしていたところに四番隊が到着する。
「生存者は?」
「あの木の裏に3名おります!」
班員が答え、五席はその確認に四番隊と共に向かった。
「お前・・・」
底知れぬ強さに、何かを聞きたいと思うのに、何を聞くべきか思い付かない。
「け、怪我は?」
きょとんと見つめられ猿柿は赤くなる。
咄嗟に出てしまった言葉は、まるで咲を心配しているように聞こえる。
「し、心配してるんとちゃうぞ!
ただうちの隊士が世話になったから!!」
そう弁解すればするほど心配しているように見えそうで、ますます慌てる。
「落ち着いてください。
怪我はありません。
お気遣いいただきありがとうございます。」
穏やかな言葉に返す言葉が見つからない。
「副隊長。」
五席に声をかけられ、猿柿は振り返る。
怪我人は運ばれ、全て片付いたらしいことは見てとれた。
「戻るぞ。」
「はい。」
隊士の背中を見送りながら、咲を見る。
「世話になった。」
「とんでもございません。」
目の前の大罪人が、ちっともそうは見えなくて、だからこそどこか恐ろしいと思った。
猿柿は帰り際にもう一度咲を振り返った。
彼女は懐から懐中時計を取り出して時間を確認している。
その懐中時計にどこか見覚えがあったが、すぐには思い出せなかった。
だが全ては隊舎に戻った時に判明する。
「あああああああ!!!」
「何ですか、ひよ里サン。
大きな声を出して。」
目の前のへらりとした男だ。
懐中時計を治していたのも、出動前に画面を覗きこんで意味ありげな笑いを浮かべたのも。
(何知っとんねん・・・!!)
「お茶でも飲みます?」
困ったような笑顔を浮かべる相手に、猿柿は詰め寄る。
「お前知っとったな!
あいつがいること!!」
「あいつ?」
「卯ノ花咲や!!!」
「ああ、咲サン。」
ぽん、と手のひらを叩いて、にへらと笑う。
「お強かったでしょう?」
「・・・一人であっさり倒しよった。」
以前曳船が強いと言っていたことをふと思い出す。
確かに自分でも敵わないかもしれないとちらりと思い、慌てて首を振る。
「昔から強いんですよ。
私達が子どもの頃から。
よく夜一サンと遊びがてら稽古をつけて頂きました。」
懐かしいのかぼんやりと宙を眺めている。
「昔からすごい人なんだぁ。」
罪人に向けられているとは思えない言葉と思いに、猿柿は口を開く。
「何でうちにそんなこと言うんや。」
「何でって、そりゃ大事な事だからですよ。
教育ッス。」
「はぁ?」
相変わらずよくわからないことを言われ、首をかしげる。
「ボク達の仕事はややこしい。
いつ敵になり、味方になるか分かったもんじゃない。
騙されちゃ駄目ですよ。
見た目にも、言葉にも。」
彼の瞳の奥に何か解らないけれど大切なことを言われた気がして、猿柿は黙って頷いた。
「遅かったね。」
隊舎の屋根に降り立ったところ、かけられた声に音もなく飛び降りる。
「申し訳ありません。」
この任務の後、特に予定もなかったため、帰るのが遅くなるとは連絡していなかった。
「帰りに助太刀でもしていたのかな?」
何事もお見通しの上司に咲は目を伏せる。
「虚に遭遇しただけです。」
「そうか。」
蒼純は淡く微笑んだ。
「隊長がお待ちだ。
次の任務について話があるらしい。」
銀嶺は時間に厳しい。
予定から1時間経っても帰ってこないため、蒼純が見に来たと言うところだろう。
「蒼純副隊長、丁度良いところに。」
かけられた声に蒼純は振り返る。
「藍染副隊長。」
穏やかな副隊長として定評がある二人の隊は隣。
親しくしていてもおかしくないはずなのに、二人が話すことは不思議とごく稀だった。
「次の副隊長の集いについてのお知らせです。
体調がよろしければ是非ご参加ください。」
渡された一枚の紙は、親睦会の誘いのようだった。
「いつもありがとうございます。」
蒼純は笑顔で受けとる。
咲は邪魔にならぬよう、隊舎に入ろうとするが。
「そちらにいるのは、卯ノ花さん、だね?」
「・・・そう、ですが・・・。」
不意に話を振られ、藍染を見上げる。
会ったことがあったかと考える。
黒縁めがねに優しい面立ち。
茶色い髪と同じ、茶色い優しげな瞳。
「何か?」
蒼純が尋ねる。
基本的に咲は親しくない隊士と必要以上に接触することはなく、蒼純が傍に居るときであれば彼が間に入る事もしばしばあった。
「若い頃助けて頂いたことがありまして。
覚えてはおられないでしょうが、こちらは命拾いしたものですから。」
その言葉に瞬時に思い出す。
当時は眼鏡もかけず、髪も長く、山上と見間違える容姿をしていた青年だった。
山上と年格好が近かったため、当時は驚いたものだが、歳を重ね、髪型を変えた今ではそれほどまでに似ているようには思わなくなっていた。
「いえ、あの、あまりにご立派になられたのですぐには分からず・・・」
「覚えていてくれたとは。
うれしいやら恥ずかしいやら。」
藍染ははにかんだ。
「昔から優秀と言われた貴方が、そんなこともあったのですね。」
蒼純の言葉に照れたように頭をかく。
「とんでもないです。
僕などまだまだ。
ではまたお返事お待ちしています。」
「ありがとうございます。」
「卯ノ花さんも、また。」
咲は深く頭を下げた。