原作過去編ー伊勢家

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「君たちが見舞いに来てくれるとは嬉しいことだ。」

上体を起こしてそう微笑む京楽家当主は、優しそうで知的な瞳はそのままに、前に見たときよりもずいぶんと痩せていた。

「何度もお世話になりましたから。」

そう言って微笑む浮竹。
その隣には春水が座っている。

「こいつがやんちゃだったからな。
 世話をかけるな、十四郎君。
 いや・・・今や浮竹隊長か。」

「昔のままで構いません。」

浮竹は首を振った。
彼や京楽を君付けで呼んだり、呼び捨てにするような者はもうずいぶんと減った。

「ありがとう。
 だが十四郎君だなんて呼んだら違和感があるほど立派になったな。」

「ありがとうございます。」

彼は原因不明の病に侵されているのだという。
病床にありながらも、その姿には当主としての威厳が垣間見える。
本当に死ぬのかと不思議に思ってしまうほど、彼はここに確かに生きている。

「そちらは卯ノ花さんだね。
 そんなところにいないでこちらへ来なさい。」

流石に浮竹と京楽に並ぶのは憚られて、部屋の出入口な控えていた
京楽と浮竹が振り返り頷くので、は一番末席に腰を下ろした。

「本当に綺麗になった。
 見違えるね。」

「いえ、そんな。」

慌てて首を振る姿は昔の初々しいままで、目を細める。

「妻が君が来てくれるのをずっと待っていてね。」

は気配に振り返る。
彼女が更木出身で、常人とは違うとは聞いていたが、自分には全く分からないほどの気配を読めることに、京楽の兄は驚く。
少しして女性が姿を表した。

「こんにちは。」

「義姉さん。」

「お邪魔しています。」

は見覚えのある顔に少し驚いてから慌てて会釈した。

「お久しぶりです、浮竹隊長。」

「ご無沙汰しています。
お陰さまで最近は体調が良いんです。」

「それは何よりです。
 そちらにおられるのは隊長のお嬢さんですね。」

「はい。
 六番隊の卯ノ花と申します。」

昔から四番隊で何度か見かけたことのある顔だった。
治療してもらったこともあったように思う。
そしてこの人が。

「あの、簪に祈祷してくださってありがとうございました。」

深く頭を下げた。
相手も思い至ったようで、優しく微笑む。

「どういたしまして。
 貴女がご無事で本当に良かったです。
 私は四番隊三席京楽六架(むつか)と申します。」

「みんなが心配していたのに、向こうも案外過ごしやすかった、だなんて言うんだから呆れるよ。」

京楽が茶々を入れるのでは赤くなる。

「本当ですか?」

「お、掟も規則もない、自由な世界・・・ですから。
 その分、何の保証もなく、誰も守ってはくれないですけれど。」

貴族として育ってきている者にすれば、想像さえつかない世界だ。
住む場所や食べ物も自分で確保しなけれはならない。
その上いつ虚に襲われるかもわからない。
たった3人きりしかその世界にはいないなんて。

「烈様にはお話しなさらないでください、叱られてしまいますから。」

「そりゃそうだ。
 ずいぶん心配されていたからなぁ。」

兄がクスクスと笑う。

「だが、実力があるお前らしい見解だな。」

浮竹が感心したように言った。

「まぁそうなんだけどさぁ。」

どこかすねた顔の京楽に、兄夫婦は微笑んだ。
そして二人の視線がなにかに気づいたように出入口の方に向けられた。

「おや。」

出入口で立ち止まったのは、桃色の生地に毬の模様が施された着物の少女だった。
少女もたくさんの瞳を向けられて驚いたらしく、一瞬固まったが、どれも見たことのある顔だったのですぐに緊張も解れたようだ。

「こちらに来なさい。」

父に呼ばれ、少女はその傍らにやってくる。

「こんにちは。」

深く頭を下げる少女の愛らしさに笑みをこぼす。

「こんにちは。」

浮竹がにこにこと挨拶を返す。

「俺と会ったことがあるけれど、覚えているかい?」

「はい。
 浮竹様、それから、卯ノ花様。」

自分の名前も述べられ、は目を瞬かせる。

「その通りだ。
 覚えていてくれるなんて嬉しいなぁ。
 そうだ、これを君にと思って持ってきたんだ。」

小さな包みを七緒に差し出す。

「開けてごらん。」

春水に勧められて包みを開く。
中身をみた七緒の顔がパアッと明るくなる。
縮緬の貼られた六角のかわいらしい小箱の中に、色とりどりの飴が入っている。

「ありがとうございます。」

花がほころぶような笑顔に、浮竹は満足そうに頷いて微笑んだ。

「七緒ちゃんに会ったことあるのか?」

「ええ、以前、少しだけ。」

「そうだ。
 七緒、聞いてごらんなさい。」

そう父親に言われて、少女ははにかみながらを見つめた。

「図書館には、よく行かれるんですか?」

期待のこもった瞳に、は目を瞬かせる。

「よく行く・・・かもしれません。」

仕事で蒼純から必要な書物を探し行くよう頼まれることは多い。
少女の目がきらきらと輝く。

「良かったな。」

こくこくと頷く姿が愛らしい。

「どうやら君の事がお気に入りらしいよ。」

京楽の耳打ちに驚いて目を見開く。

は子どもに好かれる気質だよな。」

浮竹が感心したように言った。
夜一や白哉の事を言っているのだろう。

「君もね。」

春水の言葉にも頷く。

彼らの入隊が決まったとき、兄は3人の祝いにとこの家で宴を開いた。
先が楽しみだと思っていたら、一人罪人の烙印を押されたと聞いて、それもあの少女がと聞いて、愕然とした。

は、優しくて真面目で素直で・・・。
 家柄も席も何もないから、都合が良かったんだ。ー

憤ったようにそう漏らす弟に、嫌な予感がした。
そういう人は遣われやすいと、分かっていたから。
案の定、暫くして憤慨した様子の弟を見かけた。

ー正気とは思えない。ー

どうやら生存率のかなり低い任務を命じられたらしかった。
拳を震わせる姿は、見たことのないものだった。
弟がこんな顔をするのかと、驚くほどに。

時が流れ彼女も無事帰還し、いつの間にか成長した弟達は沢山の人を守り、導いて行く存在となった。

(世代交代、だろうか。)

春水の楽しそうな姿を見て思う。
彼はもう、大丈夫だと。
きっとこの家の事も任せられるはずだと。




それならば精一杯、自分と自分の愛する人のために、運命に抗おうと。








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