原作過去編ー伊勢家
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ひらりと空中で身をかわせば、背後の崖に虚光がぶつかり、激しい音を立てて破壊された。
咲の背丈を遥かに上回る敵にも動じることはない。
昔から見慣れていたのだ。
だがそんな巨体は一瞬で消えた。
背後からの気配で大きく飛び上がる。
上空で振り返るがそんな巨体は見当たらない。
咲は木の上に着地するとすぐに跳び跳ねた。
足元に巨体が現れたのだ。
放たれる虚光を裂け、刀に雷を纏わせて速度をあげて一気に切り込む。
振り返ると切裂いたたはずの体はすぐに元通りになった。
刀に纏わせた鬼道の影響で本来治りは遅いはずなのに、異常なまでに早い。
(その上巨体のわりに軽い切れ味だった。)
咲の視線に気づくと、虚はにやりと笑い、姿を消した。
この虚は確定しているだけで 5名の隊士を喰っている。
討伐のために出たまま帰ってこない隊士も含めれば、多くて13名は喰っているのだ。
それだけ力をつけており、また死神慣れしている。
視界の端にに何かが映り、瞬時に跳び下がれば肩に痛みが走る。
(切られた。)
着地と同時に跳び上がる。
自分の影に重なるように落とされる大きな影に目を見開き、見上げれば巨大な口が待ち構えていた。
咲は刀を構える。
(久しぶりだ。)
「悲涙流れし 血を啜れ いざ目覚めよ 破涙贄遠」
そして口の中央に向けてつきだす。
「渦風!」
爆風がうねりをあげ口内に向かって進み、全てを飲み込んだかに見えた。
だが攻撃が終わっても巨大な口は消えない。
咲は気配に振り返る。
そこにはもうひとつの口が開かれていた。
正面の虚に比べると確かに小さいが、それでも咲を一飲みにできるだろう。
(こいつが本体か。)
咲は改めて手をつきだした。
「破道の六十三 雷吼炮!」
目が眩むほどの電撃で、虚はようやく息絶えた。
しかし咲はそのまま空中で身体を捻り、背後に向かって手をつきだした。
「蒼火墜。」
発された青い炎に黒い影が慌てて飛び出した。
「おっと!」
見馴れた姿に咲は首をかしげる。
「浦原様?」
最近任務に就く度に視線を感じており、不信に思っていたのだ。
「ここのところ見張っておられたのはもしや。」
「スミマセン。」
へにゃりと笑う姿に首を振る。
「いやぁ、バレてましたか。
ボクもまだまだですねぇ。」
そんな風に呑気に言っているが、二番隊隠密機動隊の、それも三席の彼が見張る相手などどんな人物かは決まっているもの。
「……また何か疑われるような事をしたでしょうか?」
死刑かそれに準じる刑に処される者だ。
浦原は小さく溜息を付いた。
「いいえ。
あーないわけでもないッス。
でもそれはボクにしたらどうでもいいことでして。」
幼い頃から才能の片鱗を見せていたが、今では咲では想像もつかないことを考えるようになった。
彼の頭脳はとてもじゃ無いが咲にはついていけない。
彼がどうでも良いと言うのであれば、例え四十六室の調査命令であれ、問題はないのだろう。
「興味と言いますか、そんなところです。」
はぐらかした優しい笑顔。
50年余りも離れている間に彼の事が全く分からなくなった。
あの小さかった子どもか、見上げなければならないほど成長し、三席にまで上り詰めているのだから、当然と言えば当然なのだけれども。
「ひとつ聞いても良いッスか?」
「はい。」
「貴女の斬魂刀は風を操る能力を持つ。
間違いありませんね?」
「はい。」
「わかりました。
では、ボクはこれで。」
驚くほどあっさりと、彼は切り上げた。
彼の問いに嘘は一切ついていない。
それは彼の予想通りだっただろう。
そして、彼が求めていた答えに違いない。
彼は、咲の斬魄刀の能力が何なのか、とは尋ねなかった。
そこから得られる答えは、きっと彼は仮定として持っている。
そしてそれを咲達が隠し続ける理由も。
「お疲れ様です。」
咲が頭を下げると、彼は微かに微笑んで会釈し、背を向けた。
森の中、また独り取り残される。
もう慣れっこだった。
昔からそうだったのだから。
浦原の背中が小さくなり、木立の中に消えた。
(・・・早く終わらせよう。)
今回の現世への遠征の期限まではあと1週間。
咲の予定ではあと3日もすればこなせそうだった。