虚圏調査隊編
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降り立ったのは白い砂漠の真ん中だった。
どこを見ても白い砂地で、空は暗く深い。
白い月が1つだけ浮かんでいた。
李梅はさっさと歩き出す。
「ようこそ、虚界へ」
雅忘人の言葉は風に吹かれて消えていった。
「初めてだろう?」
白い砂地に足跡を作りながら進んでいく背中を見ながら問いかけられる。
「はい」
「こっちだ」
雅忘人は李梅を追って歩き出した。
咲もそれに続く。
時間が止まっているように感じる。
それか途方もなくゆっくりと進んでいるように。
(喜助様は知っていたのだろうか)
懐にある時計を取り出してみると、尸魂界と同じ速度で時を刻んでいる。
「どうだ感想は」
無表情なまま、雅忘人は背中越しに問う。
「空気が綺麗ですね。
更木に似ています」
雅忘人は立ち止まって隣まで来た咲を見おろした。
驚いたのか目を瞬かせている。
それから小さく笑った。
「そうなのだろうか。
俺は更木には詳しくないからわからないが」
「更木もこんな風に何でも剥き出しなんです。
清々しくて、自由で……恐ろしい」
雅忘人と咲は一瞬のアイコンタクトの後高く飛び上がった。
足元を巨大な白が蠢く。
「何やってんだ急げ!」
李梅の罵声に、二人は瞬歩で彼のとなりに現れる。
「降りるぞ」
彼の足元にはまるで蟻地獄のような深い穴があった。
李梅は躊躇いなく跳んだ。
そして砂の中に吸い込まれていく。
後ろから近づいてくる殺気。
「行け」
雅忘人の瞳に促されるままに、咲も跳んだ。
体が柔らかい砂に飲み込まれる。
呼吸が苦しくなりかけた頃に深い砂が不意に途切れ、柔らかい枝たちが体を撫でる。
少しずつ明るくなってきていて、その枝の群れに終わりが近いと知り、体勢を立て直す。
放り投げられた先で、咲は李梅の横に降り立った。
彼はその時、今日初めて咲を見た。
物言いたげな瞳を向けられ、何を言われるのだろうかと見つめ返す。
雅忘人が咲の隣に降り立ち、二人の様子をうかがう。
李梅は咲からなにも言わぬまま視線をはずした。
「行くぞ」
辺りは深い森だった。
水音がどこかからか聞こえるから、川もあるのだろう。
「今回は前回作成した地図の補完と、虚の生態調査と討伐が主となる。
討伐体数は記録するから、どの級を何体倒したか覚えておくように」
雅忘人の説明に咲はひとつうなずく。
「迷いやすいから気を付けろ。
探してやる気はない」
突き放すような李梅の言葉に辺りを見回すが、咲にとってはそれほど迷いやすい土地には思わなかった。
そういえば、番号の大きい森ばかりの土地に行くと、あの人は良く言っていた。
ー卯ノ花は不思議だ、どうしてこんな同じ景色を見分けられるんだ?ー
そして困ったように首をかしげていたものだ。
金赤風花紗がその頬に緩やかに触れていた。
いつも人に恐れられるほど強いこの人にもできないことがあり、自分がその代わりに役に立てるのだと思うと、くすぐったかった。
(響河、殿……)
「聞いてるのか?」
あきれたような李梅の声に、咲は慌てて返事をする。
「了解いたしました」
「とりあえず今日はここに慣れろ。
……先は長い」
木の幹に触れるとひんやりとしていて心地よい。
(向こうとあまり変わらないんだな)
虚のでき損ないのような動物もいるようだ。
植物もある。
(懐かしい)
殺伐としていたけれど、憧れていた死神を殺すことはない、迷いのない世界。
奇異の目で見られることも、罪人として石を投げられることもない世界。
どこか自分の肩の力が抜けた気がした。
しばらく進むと岩場に出て、そこでは人が生活していた痕跡がある。
どうやらここが拠点らしい。
複数の洞のうち、咲は1つを宛がわれた。
荷物をおいて外に出てくると、二人は岩に座って書類を見て話をしていた。
咲に気づくと顔をあげたので駆け寄る。
「その洞を食堂にする。
水は中に樽がある。
補充は調理担当がすること。
日替わりで当番制だ。
後で川まで案内する。
地図は持っているな?」
懐から支給された地図を取り出す。
この地図は過去2回の調査隊が命を懸けて作り上げた賜物だ。
「ここは尸魂界とは違う。
誇りもプライドも全て捨てろ。
生きることが最優先だ。
常に一人でも多く生き残ることを考えて動け」
「はい」
李梅の鋭い視線を受けて返事をしたが、貴族でも席官でもない、罪人として扱われてきた咲は、そんなものは何も持ち合わせていなかった。
「辺りを見てきてもいいですか?」
「てめぇ今までの話を聞いてたか?」
李梅が青筋を立てたので、咲は慌てて首を縦に振った。
「わかっています!
お二人に案内していただくのも申し訳なく思ったんです。
自分の実力もわかっています」
「気は遣わなくていい。
これから100年共に過ごすのだ、無理はするな」
雅忘人が優しく声をかける。
罪人扱いしない彼が、どこか新鮮だ。
「ありがとうございます。
でも、たぶん大丈夫です」
「探さねぇぞ」
「はい、1時間ほどで戻ります」
無意識に淡く微笑んで飛び上がる背中を、一人は睨み付け、もう一人は少し心配そうに見送った。
そんなことに気づきもせず、咲は力一杯走る。
首の銀白風花紗がたなびく。
強い霊圧に近づいていけば。
「メノスの大群!」
思わず声をあげた。
ひしめき合う愚鈍な彼らに、恐怖と言うよりも圧倒される。
こんなにも鈍い彼らが、尸魂界や現世に襲いにやって来ると言うのだから不思議だ。
咲はくすりと笑った。
(思ったよりも苦痛じゃないかも)
大きく飛び上がり、メノスの頭を踏み台にして更に高く跳んだ。
鈍い彼らは咲の存在にすら気づかないらしい。
枝の中を飛ぶように駆ける。
時折咲を喰らおうと襲いかかってくる虚の攻撃を、まるで子どもの戯れであるかのようにいなしながら、咲は走り回った。
ひょっこりと帰ってきた咲を、李梅はちらりと見ただけで無視し、雅忘人は安心したように溜息をついた。
「恐ろしくなって帰ってこないか、それか迷って戻ってこられないんじゃないかと心配していた」
咲はきょとんとしてから慌てて首を振る。
「そんなことなどしません。
何故そう思われたのですか」
李梅は溜息をついた。
「言っただろ、雅忘人。
こいつはただの人じゃねぇ。
噂に違わぬ獣だ」
その言いように、雅忘人は呆れたように李梅を見やって溜め息をついてから、苦笑を浮かべた。
「今のはあいつなりの褒め言葉とでも思っておいてくれ。
あれでも心配していたのだ。
初めての土地で、怯えたのではないかと」
「そんなこと言ってねぇだろ!
とんだ腰抜けだったかと苦慮しただけだ」
「ご心配おかけしました。
でも、このあたりの土地は大体覚えました。
明日から任務に活かせると思います」
頭を下げると、何かが迫ってきているのが分かって慌てて身を低くする。
「心配してねぇッ!」
李梅の足が頭上を通過したのを確認し、咲は跳び下がる。
「そのくらいにしろ。
まったく」
「てめぇも笑ってんな!」
呆れ顔の雅忘人は、李梅の言うとおり微かに微笑んでいる。
「思ったよりも楽しい100年になりそうだな」
「なるか!」
どこを見ても白い砂地で、空は暗く深い。
白い月が1つだけ浮かんでいた。
李梅はさっさと歩き出す。
「ようこそ、虚界へ」
雅忘人の言葉は風に吹かれて消えていった。
「初めてだろう?」
白い砂地に足跡を作りながら進んでいく背中を見ながら問いかけられる。
「はい」
「こっちだ」
雅忘人は李梅を追って歩き出した。
咲もそれに続く。
時間が止まっているように感じる。
それか途方もなくゆっくりと進んでいるように。
(喜助様は知っていたのだろうか)
懐にある時計を取り出してみると、尸魂界と同じ速度で時を刻んでいる。
「どうだ感想は」
無表情なまま、雅忘人は背中越しに問う。
「空気が綺麗ですね。
更木に似ています」
雅忘人は立ち止まって隣まで来た咲を見おろした。
驚いたのか目を瞬かせている。
それから小さく笑った。
「そうなのだろうか。
俺は更木には詳しくないからわからないが」
「更木もこんな風に何でも剥き出しなんです。
清々しくて、自由で……恐ろしい」
雅忘人と咲は一瞬のアイコンタクトの後高く飛び上がった。
足元を巨大な白が蠢く。
「何やってんだ急げ!」
李梅の罵声に、二人は瞬歩で彼のとなりに現れる。
「降りるぞ」
彼の足元にはまるで蟻地獄のような深い穴があった。
李梅は躊躇いなく跳んだ。
そして砂の中に吸い込まれていく。
後ろから近づいてくる殺気。
「行け」
雅忘人の瞳に促されるままに、咲も跳んだ。
体が柔らかい砂に飲み込まれる。
呼吸が苦しくなりかけた頃に深い砂が不意に途切れ、柔らかい枝たちが体を撫でる。
少しずつ明るくなってきていて、その枝の群れに終わりが近いと知り、体勢を立て直す。
放り投げられた先で、咲は李梅の横に降り立った。
彼はその時、今日初めて咲を見た。
物言いたげな瞳を向けられ、何を言われるのだろうかと見つめ返す。
雅忘人が咲の隣に降り立ち、二人の様子をうかがう。
李梅は咲からなにも言わぬまま視線をはずした。
「行くぞ」
辺りは深い森だった。
水音がどこかからか聞こえるから、川もあるのだろう。
「今回は前回作成した地図の補完と、虚の生態調査と討伐が主となる。
討伐体数は記録するから、どの級を何体倒したか覚えておくように」
雅忘人の説明に咲はひとつうなずく。
「迷いやすいから気を付けろ。
探してやる気はない」
突き放すような李梅の言葉に辺りを見回すが、咲にとってはそれほど迷いやすい土地には思わなかった。
そういえば、番号の大きい森ばかりの土地に行くと、あの人は良く言っていた。
ー卯ノ花は不思議だ、どうしてこんな同じ景色を見分けられるんだ?ー
そして困ったように首をかしげていたものだ。
金赤風花紗がその頬に緩やかに触れていた。
いつも人に恐れられるほど強いこの人にもできないことがあり、自分がその代わりに役に立てるのだと思うと、くすぐったかった。
(響河、殿……)
「聞いてるのか?」
あきれたような李梅の声に、咲は慌てて返事をする。
「了解いたしました」
「とりあえず今日はここに慣れろ。
……先は長い」
木の幹に触れるとひんやりとしていて心地よい。
(向こうとあまり変わらないんだな)
虚のでき損ないのような動物もいるようだ。
植物もある。
(懐かしい)
殺伐としていたけれど、憧れていた死神を殺すことはない、迷いのない世界。
奇異の目で見られることも、罪人として石を投げられることもない世界。
どこか自分の肩の力が抜けた気がした。
しばらく進むと岩場に出て、そこでは人が生活していた痕跡がある。
どうやらここが拠点らしい。
複数の洞のうち、咲は1つを宛がわれた。
荷物をおいて外に出てくると、二人は岩に座って書類を見て話をしていた。
咲に気づくと顔をあげたので駆け寄る。
「その洞を食堂にする。
水は中に樽がある。
補充は調理担当がすること。
日替わりで当番制だ。
後で川まで案内する。
地図は持っているな?」
懐から支給された地図を取り出す。
この地図は過去2回の調査隊が命を懸けて作り上げた賜物だ。
「ここは尸魂界とは違う。
誇りもプライドも全て捨てろ。
生きることが最優先だ。
常に一人でも多く生き残ることを考えて動け」
「はい」
李梅の鋭い視線を受けて返事をしたが、貴族でも席官でもない、罪人として扱われてきた咲は、そんなものは何も持ち合わせていなかった。
「辺りを見てきてもいいですか?」
「てめぇ今までの話を聞いてたか?」
李梅が青筋を立てたので、咲は慌てて首を縦に振った。
「わかっています!
お二人に案内していただくのも申し訳なく思ったんです。
自分の実力もわかっています」
「気は遣わなくていい。
これから100年共に過ごすのだ、無理はするな」
雅忘人が優しく声をかける。
罪人扱いしない彼が、どこか新鮮だ。
「ありがとうございます。
でも、たぶん大丈夫です」
「探さねぇぞ」
「はい、1時間ほどで戻ります」
無意識に淡く微笑んで飛び上がる背中を、一人は睨み付け、もう一人は少し心配そうに見送った。
そんなことに気づきもせず、咲は力一杯走る。
首の銀白風花紗がたなびく。
強い霊圧に近づいていけば。
「メノスの大群!」
思わず声をあげた。
ひしめき合う愚鈍な彼らに、恐怖と言うよりも圧倒される。
こんなにも鈍い彼らが、尸魂界や現世に襲いにやって来ると言うのだから不思議だ。
咲はくすりと笑った。
(思ったよりも苦痛じゃないかも)
大きく飛び上がり、メノスの頭を踏み台にして更に高く跳んだ。
鈍い彼らは咲の存在にすら気づかないらしい。
枝の中を飛ぶように駆ける。
時折咲を喰らおうと襲いかかってくる虚の攻撃を、まるで子どもの戯れであるかのようにいなしながら、咲は走り回った。
ひょっこりと帰ってきた咲を、李梅はちらりと見ただけで無視し、雅忘人は安心したように溜息をついた。
「恐ろしくなって帰ってこないか、それか迷って戻ってこられないんじゃないかと心配していた」
咲はきょとんとしてから慌てて首を振る。
「そんなことなどしません。
何故そう思われたのですか」
李梅は溜息をついた。
「言っただろ、雅忘人。
こいつはただの人じゃねぇ。
噂に違わぬ獣だ」
その言いように、雅忘人は呆れたように李梅を見やって溜め息をついてから、苦笑を浮かべた。
「今のはあいつなりの褒め言葉とでも思っておいてくれ。
あれでも心配していたのだ。
初めての土地で、怯えたのではないかと」
「そんなこと言ってねぇだろ!
とんだ腰抜けだったかと苦慮しただけだ」
「ご心配おかけしました。
でも、このあたりの土地は大体覚えました。
明日から任務に活かせると思います」
頭を下げると、何かが迫ってきているのが分かって慌てて身を低くする。
「心配してねぇッ!」
李梅の足が頭上を通過したのを確認し、咲は跳び下がる。
「そのくらいにしろ。
まったく」
「てめぇも笑ってんな!」
呆れ顔の雅忘人は、李梅の言うとおり微かに微笑んでいる。
「思ったよりも楽しい100年になりそうだな」
「なるか!」