虚圏調査隊編
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戦闘の気配に足を止める。
(……近いな。
数も多い)
普段あまり他の隊士の前に姿を見せないこともあり迷ったが、念のため現場まで駆けた。
二人の隊士が戦っている。
1人の背後から虚が襲いかかるのが見えた。
(仕方ない)
飛び出して虚を切り倒す。
虚にとって不意打ちとなったため、一撃だった。
襲われそうだった青年は、背後に虚が来ていることは分かっていたのか、特に驚いた様子もない。
それだけで実力がある程度あることが分かり、助太刀無用であったかもしれないと普段の咲ならば後悔もしていただろう。
ただ今は、驚いていてそれどころではなかった。
「ありがとうございます」
落ち着いた声に、懐かしいと思ってしまった。
目の前にいる茶色い髪の、温和な笑顔を浮かべた青年。
その一つにまとめられた髪の色も、ゆるく波打つ癖毛も、全てがよく似ている。
「山が……」
思わず呼びかけた名前を飲み込む。
山上がここにいるはずがないのだ。
彼は死んだ。
それはもう10年以上前の話。
「今、なんと」
相手は不意に声をかけられ驚いた顔をしている。
「いえ、失礼いたします」
咲は深く頭を下げ、その場から瞬歩で逃げ出した。
(赤の他人なのに、馬鹿だ)
精神世界に彼にそっくりな者がいる。
だから忘れられないだけなのか、自分が忘れられないから彼が精神世界にいるのか。
咲は独り、胸を抑えた。
(今、私を山上と呼ぼうとしたのでは……)
青年は立ちつくす。
彼にしては珍しいことだった。
なんでもそつなくこなし、大抵のことでは動じない。
そんな自分に、これほどの衝撃を与えた相手に、青年は興味を持った。
「藍染、大丈夫か?」
上司に声をかけられ、青年は振り返る。
「……小狼八席。
はい。
今通りすがりの方が一体倒してくださったんです」
「通りすがり?」
首をかしげる上司。
「ええ。
銀白風花紗を身につけた女性の死神でした」
小狼は思い当たった相手がいたのか、頷いた。
だがそれ以上は言わない。
それを不審に思って藍染は尋ねる。
「どなたですか」
「……六番隊の卯ノ花殿だ」
「卯ノ花……?
卯ノ花隊長の血縁の方ですか?」
「ああ。
……またどこかで話を聞くこともあるだろう」
どこか言葉を選んでいる様子に、訳ありなのだろうか、と思う。
「有名な方なんですか」
確かに、斬術も素晴らしく、瞬歩も見事だった。
卯ノ花殿と呼ぶからには、席はないのだろう。
だがその技はどれも、上位席官並みだ。
だが、小狼の顔色をうかがうと明るい話ではなさそうだ。
「……刑期中だ。
反逆の罪に問われている」
「反逆?」
あの後ろ姿からは想像もつかない言葉に、思わず反復してしまう。
だが小狼はそれ以上話すつもりはなさそうだ。
(もし、本当に私を山上と呼ぼうとしたなら……
調べる必要がありそうだ)
そんなことを考えていたせいで顔が曇っていたのだろう。
「やはりどこか怪我でも?」
小狼が心配そうに問う。
「いえ、すみません、ちょっと寝不足なんです」
藍染は困ったように微笑んだ。
「じゃあ今日は早く休め」
「はい」
もう一度だけ咲が消えた方を振り返り、藍染は上司に続いた。
「咲!」
花がほころぶように、白哉は笑った。
「遠征に行っておったのだろう?
変わりないか?」
両親の血をひいて、美しく、賢く、優しい子だと思う。
「ご存知でしたか、坊っちゃま」
白哉という名を自分でつけたものだから、何となく呼ぶのが恥ずかしくて、咲はいつも坊っちゃまと呼んでいた。
「なかなか来ないから父上を問いただしたのだ!
遠征に行く時には声をかけろと何度も言っているだろう!」
ぷりぷりと頬を膨らませながらも咲の足に抱きついて見上げてくる姿は愛らしい。
まだまだ咲の腰くらいまでしか身長はないが、もう立派な若様である。
「申し訳ありません。
いつも急に決まるもので」
「仕方ない……次は教えろ!」
「ええ」
「そうだ!
剣術の練習に付き合ってくれ!」
言うが早いかどこかに掛けていき、まだ身体には長いのではと思うような竹刀を持って戻ってくる。
「まぁ白哉さん、まだ咲さんは来たばかりですよ。
お茶を飲んでいただいてからにしなさい」
「お気づかいなく、明翠様」
「いいか?」
「咲さんがそうおっしゃるなら……」
「やったぁ!」
ぴょん、と飛び跳ねる姿は愛らしい。
いつまでこんな可愛いままでいてくれるのだろうと、大人たちは目を細めた。
子どもの成長というのは、あっという間である。
「本当に、ついこの間まで短い子ども用の竹刀でしたのに」
「もうあれでは物足りない!
このくらいの重みがほしいし、長いほうが戦うのにはいい!」
「そうでしょうか」
咲の竹刀が次の瞬間、白哉の竹刀を弾き飛ばしていた。
「短い頃は懐にも入りやすかったでしょうが、長くなってはそうはいきません」
白哉は悔しそうな顔をして、竹刀を拾い上げた。
「分かったっ!
もう一度だ!」
「白哉坊め!
竹刀を落すとは、情けないのぉ」
塀の方から聞こえた声に、白哉や目を見開き、一気に肩をいからせた。
「夜一!」
スタイルの良い褐色の美少女が塀に腰かけ、楽しげに笑っていた。
「咲!
わしと一本勝負じゃ!」
「おい!
咲は今私と勝負しているのだ!
兄はとっとと失せろ!」
「何を。
勝負はもう着いたであろう!
儂にも勝てぬくせに生意気な」
そうこうしているうちにいつも通り鬼ごっこが始まる。
咲は小さく微笑んで、縁側の明翠の隣に座った。
「咲さん、遠征でのお怪我の方は」
「大丈夫です。
大したものはありません」
「良かったです。
あの子ったら、貴方がしばらく来ないとお兄様にひっついてずっと貴方のことを聞いて回るのよ。
お兄様が遠征に行かせるのをやめようかと頭を悩ましていたくらい」
そして鈴の転がるような声で笑う。
「あの子はやはりお兄様の子。
……死神には向かないかもしれません」
「いかがなさいましたか」
「やはり優しすぎるのです。
試合でもあと一本で確実に勝ちと決まるのに、それがなかなか打ち込めない。
剣術の先生も、お兄様の小さいころを見ているようだと笑っておいででした。
お兄様の小さい頃はもう少し静かな子でしたが。
違うのはそれでいてひどく負けず嫌いで泣き虫なところでしょうか」
庭で火のついたような泣き声が上がった。
「ほらまた」
明翠が困ったように笑う。
「白哉坊!
転んだくらいで泣くな!」
夜一が起こして土を払ってくれている。
「坊っちゃま、どこか痛むのですか?」
泣きながら膝を指差す。
汚れた袴をたくしあげれば、赤い血がにじんでいて、咲はそっと治療を施した。
「坊っちゃま、鬼道を覚えましょうね。」
「鬼、道……」
「ええ。
私の養親である卯ノ花烈様であれば、このような傷はものの3秒もあれば完治してしまわれるのですよ」
「烈殿は、すごいな」
「ええ。
坊っちゃまも頑張れば、傷を治せるようになります」
「そうしたら……」
白哉は治療している咲の手を取った。
そこには薄らと傷痕が残っている。
咲は驚いて小さな少年を見下ろした。
「私もお前の傷が治せるのか?」
真剣な瞳が、咲を見つめる。
この子の瞳は亡き母にそっくりだ。
真っ直ぐ、真っ直ぐ、人を守りたいと願う瞳。
「ええ」
「わかった、すぐに習得して見せるぞ!」
意気込む白哉に、夜一と咲は思わず顔を見合せて笑った。
「単純な男子よのぅ」
「誰が単純だって!?」
咲は立ち上がって気配の方を見た。
塀の上に一人の少年が降り立つ。
「夜一サン!
こちらにおいででしたか」
柔らかい金色の髪が風になびく。
色白の彼も、少女と同じく美しく成長していた。
「喜助か」
少女がどこかつまらなそうに名を呼ぶ。
喜助はそれを気にする様子もなく、庭に入ってきて、咲達に頭を下げた。
「お邪魔します、明翠様。
咲さん」
「ええ。
よろしければお茶でもいかがですか」
子どもたちが庭に現れるのが嬉しいのか、明翠の声は自然と明るくなる。
「ありがとうございます。
申し訳ありませんが急いでおりますので。
夜一サン、深夜様がお呼びですよ」
「ああ、分かった。
じゃあまたな、白哉坊!」
夜一が喜助とともに塀に飛び上がる。
「もう来んでよい!!」
叫ぶ白哉を鼻で笑い、咲に手を振ってから夜一と喜助は姿を消した。
「平和ですね」
優しい風が桜を散らし、咲の銀白風花紗を揺らす。
「ええ。本当に」
明翠がそっと微笑んだ。
(……近いな。
数も多い)
普段あまり他の隊士の前に姿を見せないこともあり迷ったが、念のため現場まで駆けた。
二人の隊士が戦っている。
1人の背後から虚が襲いかかるのが見えた。
(仕方ない)
飛び出して虚を切り倒す。
虚にとって不意打ちとなったため、一撃だった。
襲われそうだった青年は、背後に虚が来ていることは分かっていたのか、特に驚いた様子もない。
それだけで実力がある程度あることが分かり、助太刀無用であったかもしれないと普段の咲ならば後悔もしていただろう。
ただ今は、驚いていてそれどころではなかった。
「ありがとうございます」
落ち着いた声に、懐かしいと思ってしまった。
目の前にいる茶色い髪の、温和な笑顔を浮かべた青年。
その一つにまとめられた髪の色も、ゆるく波打つ癖毛も、全てがよく似ている。
「山が……」
思わず呼びかけた名前を飲み込む。
山上がここにいるはずがないのだ。
彼は死んだ。
それはもう10年以上前の話。
「今、なんと」
相手は不意に声をかけられ驚いた顔をしている。
「いえ、失礼いたします」
咲は深く頭を下げ、その場から瞬歩で逃げ出した。
(赤の他人なのに、馬鹿だ)
精神世界に彼にそっくりな者がいる。
だから忘れられないだけなのか、自分が忘れられないから彼が精神世界にいるのか。
咲は独り、胸を抑えた。
(今、私を山上と呼ぼうとしたのでは……)
青年は立ちつくす。
彼にしては珍しいことだった。
なんでもそつなくこなし、大抵のことでは動じない。
そんな自分に、これほどの衝撃を与えた相手に、青年は興味を持った。
「藍染、大丈夫か?」
上司に声をかけられ、青年は振り返る。
「……小狼八席。
はい。
今通りすがりの方が一体倒してくださったんです」
「通りすがり?」
首をかしげる上司。
「ええ。
銀白風花紗を身につけた女性の死神でした」
小狼は思い当たった相手がいたのか、頷いた。
だがそれ以上は言わない。
それを不審に思って藍染は尋ねる。
「どなたですか」
「……六番隊の卯ノ花殿だ」
「卯ノ花……?
卯ノ花隊長の血縁の方ですか?」
「ああ。
……またどこかで話を聞くこともあるだろう」
どこか言葉を選んでいる様子に、訳ありなのだろうか、と思う。
「有名な方なんですか」
確かに、斬術も素晴らしく、瞬歩も見事だった。
卯ノ花殿と呼ぶからには、席はないのだろう。
だがその技はどれも、上位席官並みだ。
だが、小狼の顔色をうかがうと明るい話ではなさそうだ。
「……刑期中だ。
反逆の罪に問われている」
「反逆?」
あの後ろ姿からは想像もつかない言葉に、思わず反復してしまう。
だが小狼はそれ以上話すつもりはなさそうだ。
(もし、本当に私を山上と呼ぼうとしたなら……
調べる必要がありそうだ)
そんなことを考えていたせいで顔が曇っていたのだろう。
「やはりどこか怪我でも?」
小狼が心配そうに問う。
「いえ、すみません、ちょっと寝不足なんです」
藍染は困ったように微笑んだ。
「じゃあ今日は早く休め」
「はい」
もう一度だけ咲が消えた方を振り返り、藍染は上司に続いた。
「咲!」
花がほころぶように、白哉は笑った。
「遠征に行っておったのだろう?
変わりないか?」
両親の血をひいて、美しく、賢く、優しい子だと思う。
「ご存知でしたか、坊っちゃま」
白哉という名を自分でつけたものだから、何となく呼ぶのが恥ずかしくて、咲はいつも坊っちゃまと呼んでいた。
「なかなか来ないから父上を問いただしたのだ!
遠征に行く時には声をかけろと何度も言っているだろう!」
ぷりぷりと頬を膨らませながらも咲の足に抱きついて見上げてくる姿は愛らしい。
まだまだ咲の腰くらいまでしか身長はないが、もう立派な若様である。
「申し訳ありません。
いつも急に決まるもので」
「仕方ない……次は教えろ!」
「ええ」
「そうだ!
剣術の練習に付き合ってくれ!」
言うが早いかどこかに掛けていき、まだ身体には長いのではと思うような竹刀を持って戻ってくる。
「まぁ白哉さん、まだ咲さんは来たばかりですよ。
お茶を飲んでいただいてからにしなさい」
「お気づかいなく、明翠様」
「いいか?」
「咲さんがそうおっしゃるなら……」
「やったぁ!」
ぴょん、と飛び跳ねる姿は愛らしい。
いつまでこんな可愛いままでいてくれるのだろうと、大人たちは目を細めた。
子どもの成長というのは、あっという間である。
「本当に、ついこの間まで短い子ども用の竹刀でしたのに」
「もうあれでは物足りない!
このくらいの重みがほしいし、長いほうが戦うのにはいい!」
「そうでしょうか」
咲の竹刀が次の瞬間、白哉の竹刀を弾き飛ばしていた。
「短い頃は懐にも入りやすかったでしょうが、長くなってはそうはいきません」
白哉は悔しそうな顔をして、竹刀を拾い上げた。
「分かったっ!
もう一度だ!」
「白哉坊め!
竹刀を落すとは、情けないのぉ」
塀の方から聞こえた声に、白哉や目を見開き、一気に肩をいからせた。
「夜一!」
スタイルの良い褐色の美少女が塀に腰かけ、楽しげに笑っていた。
「咲!
わしと一本勝負じゃ!」
「おい!
咲は今私と勝負しているのだ!
兄はとっとと失せろ!」
「何を。
勝負はもう着いたであろう!
儂にも勝てぬくせに生意気な」
そうこうしているうちにいつも通り鬼ごっこが始まる。
咲は小さく微笑んで、縁側の明翠の隣に座った。
「咲さん、遠征でのお怪我の方は」
「大丈夫です。
大したものはありません」
「良かったです。
あの子ったら、貴方がしばらく来ないとお兄様にひっついてずっと貴方のことを聞いて回るのよ。
お兄様が遠征に行かせるのをやめようかと頭を悩ましていたくらい」
そして鈴の転がるような声で笑う。
「あの子はやはりお兄様の子。
……死神には向かないかもしれません」
「いかがなさいましたか」
「やはり優しすぎるのです。
試合でもあと一本で確実に勝ちと決まるのに、それがなかなか打ち込めない。
剣術の先生も、お兄様の小さいころを見ているようだと笑っておいででした。
お兄様の小さい頃はもう少し静かな子でしたが。
違うのはそれでいてひどく負けず嫌いで泣き虫なところでしょうか」
庭で火のついたような泣き声が上がった。
「ほらまた」
明翠が困ったように笑う。
「白哉坊!
転んだくらいで泣くな!」
夜一が起こして土を払ってくれている。
「坊っちゃま、どこか痛むのですか?」
泣きながら膝を指差す。
汚れた袴をたくしあげれば、赤い血がにじんでいて、咲はそっと治療を施した。
「坊っちゃま、鬼道を覚えましょうね。」
「鬼、道……」
「ええ。
私の養親である卯ノ花烈様であれば、このような傷はものの3秒もあれば完治してしまわれるのですよ」
「烈殿は、すごいな」
「ええ。
坊っちゃまも頑張れば、傷を治せるようになります」
「そうしたら……」
白哉は治療している咲の手を取った。
そこには薄らと傷痕が残っている。
咲は驚いて小さな少年を見下ろした。
「私もお前の傷が治せるのか?」
真剣な瞳が、咲を見つめる。
この子の瞳は亡き母にそっくりだ。
真っ直ぐ、真っ直ぐ、人を守りたいと願う瞳。
「ええ」
「わかった、すぐに習得して見せるぞ!」
意気込む白哉に、夜一と咲は思わず顔を見合せて笑った。
「単純な男子よのぅ」
「誰が単純だって!?」
咲は立ち上がって気配の方を見た。
塀の上に一人の少年が降り立つ。
「夜一サン!
こちらにおいででしたか」
柔らかい金色の髪が風になびく。
色白の彼も、少女と同じく美しく成長していた。
「喜助か」
少女がどこかつまらなそうに名を呼ぶ。
喜助はそれを気にする様子もなく、庭に入ってきて、咲達に頭を下げた。
「お邪魔します、明翠様。
咲さん」
「ええ。
よろしければお茶でもいかがですか」
子どもたちが庭に現れるのが嬉しいのか、明翠の声は自然と明るくなる。
「ありがとうございます。
申し訳ありませんが急いでおりますので。
夜一サン、深夜様がお呼びですよ」
「ああ、分かった。
じゃあまたな、白哉坊!」
夜一が喜助とともに塀に飛び上がる。
「もう来んでよい!!」
叫ぶ白哉を鼻で笑い、咲に手を振ってから夜一と喜助は姿を消した。
「平和ですね」
優しい風が桜を散らし、咲の銀白風花紗を揺らす。
「ええ。本当に」
明翠がそっと微笑んだ。