斬魄刀異聞過去編
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
少し前のこと。
緊急首会半ば、十番隊の大道寺、十三番隊の土方と共に蒼純は命令を受けて会議室を出た。
3人は無言のまま一番隊の廊下を歩く。
大道寺は明らかに疲れ切った不服そうな顔をしているが、土方と蒼純の表情は読めない。
「……嫌ね」
大道寺が呟いた。
土方は黙って眉を顰め、蒼純は苦笑を浮かべる。
「……あんたらに言っても仕方ないか」
溜息をつく大道寺に、やはり2人は同じ表情を深めるだけで声は出さない。
2人も大道寺が副隊長に向かないと常々思っていた。
こういう類の事が、ひどく苦手なのだ。
彼女は優しすぎる。
言い方を変えれば、副隊長以上に進むだけの強さに欠けている。
その結論に至った土方と蒼純は、同時に思った。
ーー響河と一緒だと。
響河と違うのは、彼女が人から恐れられるほどの武力を持たないことだ。
響河の斬魄刀の能力は驚異的であった。
自らの片割れであることを考えると、彼もおそらく驚異的な力を持つのだろう。
その能力が発揮されるべき成長とタイミングが合わなかっただけで。
「土方君、全部片付いたら、休隊の書類ちょうだい」
「……降格願いという手もあります」
「ありがとう、人員不足だものね。
考えとくわ」
疲れきった微笑みに、土方は軽く黙礼をした。
蒼純はつと視線を落とす。
夜はもうすっかり更けた。
時計をちらりと見上げ、静かに窓の外の漆黒を見つめる。
ノックの音が響いた。
「卯ノ花です」
迷いのない声に、蒼純は感情を全て飲みこんで、口を開いた。
「入れ」
足音のない彼女の抑えられた霊圧が滑りこんでくる。
更木で獣のように生きてきた頃からの癖だろう。
そして振り返ると蒼純を見つめ返す真っ直ぐな瞳。
ピンと張り詰められた空気を壊すことのない彼女に、彼女ならばやり遂げられるだろうと肌が粟立つ。
緊張感を高めるように足音を立ててゆっくり歩み寄り、懐から手紙を取り出した。
「総隊長殿から命令だ」
咲はそれを開き、2度読み、頭に作戦を叩きこむ。
総隊長から直接命令されるのは、特別部隊の隊長助役のとき以来になる。
まさか、こんな命令が2度目の命令になるとは、思ってもみなかったが。
「響河を封印する事に対して、もし一抹であろうと躊躇いがあるならば、ここに残れ。
足手纏いだ」
普段は見せることのない蒼純の鋭い眼光にひるむことなく、咲は首を振った。
「行かせてください」
蒼純はその言葉に背中を向ける。
時計を見る。
もうここを発たねばならない。
「奴はもう逃げることはしないようだ。
決めたのだろう」
それは響河の事を言っているのであるが、目の前の蒼純の気持ちでもあるように思えた。
「私も決めました」
咲のはっきりとした声に目を閉じ、それから窓の前から避ける。
大きく開けられた窓が、漆黒の夜が、咲の目の前に現れた。
緊張が一瞬だけ和らぐ。
蒼純本来の柔らかい視線が咲にむけられた。
「隊長は現地でお待ちだ。
……私は君を信じてここで待っているよ」
「はい」
咲も頷き、窓枠に足をかけ、そして淡く微笑む。
「「ーー必ず」」
2人の声が重なった。
それを力に、窓枠を蹴る。
隊舎を出ると集合場所まで一気に瞬歩もでかけた。
そこに到着したのは、咲が最後だった。
元柳斎、銀嶺、浮竹、京楽、咲は顔を見合わせる。
「命に代えてでも封印せよ」
元柳斎の腹の底に響くような声に、3人は深く頭を下げた。
「「「御意」」」
自然とその返事も揃う。
銀嶺もひとつ頷き、5人は闇に姿を消した。
「老人二人、後ろには若造ばかりを引き連れて、何用だ。
オレの力にひれ伏す気にでもなったか」
発される強大な霊圧は、確実に隊長格だ。
最後に合った時よりも強大化、凶暴化しているそれに、京楽は眉をしかめた。
霊圧というのは、これほどまでに変わってしまうものなのかと。
昔の彼の霊圧は強くて凛とした、憧れを抱くようなものであったのにと。
「響河よ、お前の力は理想を叶えるためにあったのではないのか」
銀嶺の言葉に、響河は苦笑を浮かべる。
「理想などこの世に存在せぬ。
その先にあるのはそれをかなえられぬ絶望だけだ。
絶望が己を解き放つ。
力を持つ者が秩序を作る。
その力が黒く醜いものであったとしても、勝ち残りさえすればその黒が正義の色となるのだ」
「響河殿……」
咲が小さく名を呼んだ。
だがその声は最早彼の耳に届くことは無い。
「もうよせ。
力に魅入られた奴に最早聞く耳はない」
元柳斎が杖を刀にかえる。
それを合図に、斬魂刀を持たない京楽と浮竹は腰を落として臨戦態勢となり、咲は抜刀する。
「面白い。
お前らをいつかは叩き斬ってやりたいと思っていたのだ」
響河が静かに刀を抜いた。
次の瞬間、銀嶺が抜刀とともに響河と刀を合わせた。
霊圧同士がぶつかり、あたりの草が風圧でなぎ倒された。
「お前の力をこのソウルソサエティで一番よく知っているのは私だ」
噛み締めるような言葉に、響河は顔をしかめる。
同じく顔をしかめる咲の脇を、浮竹が小突く。
「前だけ向いていろ」
早口な言葉に、咲は歯を噛み締めて頷いた。
「囁け村正」
その解号に、皆が一瞬身構えるが、村正が姿を現すことは無い。
訝しんでいる場合でもないと、浮竹は巻物を懐から取り出すと空に投げ、霊圧を送り込む。
巻物からは彼1人では抱えきれないほどの棺が降ってきた。
「畜生ッ!
囁け村正!!」
元柳斎と銀嶺と打ちあいを続けながら、響河は叫ぶ。
刀と刀のぶつかり合う激しい音の間に、己の斬魂刀を呼び続ける悲痛な声が混じる。
3人はそれに動揺することは無く、淡々と封印に向けた作業を進める。
棺を京楽が開け、そのなかから4本の槍を咲がとりだした。
浮竹は落ちてきた巻物を拾い上げ、懐から取り出した小刀で手首に切り傷をつけると、詠唱をしながら血で紋様を描いていく。
「黒き魂で清める至高なる者に集い
血と盟約と祭壇における黒き天より来たる最愛なる黒曜の贄」
3人の中では一番霊圧の高い浮竹の霊圧が、光るほどに濃縮し、彼の血で描かれた紋様が揺らめき始める。
「村正、解放だ!
俺が呼んでいるというのになぜ出てこないッ!!」
槍は咲と京楽が2本ずつ持つ。
それぞれに浮竹の霊圧がまとわりつき、淡く蒼く光った。
「封印の怨霊に聖杯を掲げ
太古より引き継がれし六つの鍵を持て」
浮竹はようやく巻物から顔を上げる。
その額からは汗が滴っている。
高度で繊細なこの術は、鬼道衆でもない若い彼一人で発動させている事自体驚くべきことなのだ。
響河を見れば、銀嶺に左手を灰縄で捕えられ、村正を持つ右手で山本と鍔迫り合いをしている。
山本が3人をちらりと見た。
京楽と咲は手に持つ槍を順に投げる。
それぞれの先端から浮竹の霊圧が伸び、響河の手足それぞれを絡み取る。
暴れる響河を抑えようと、捕える霊圧は巨大化する。
命ごと根こそぎ持って行かれるような感覚に、浮竹は歯を食いしばって耐える。
響河は目を見開き、その瞳が呪うように咲を見据えた。
「糞餓鬼どもが!!!!
裏切り者め!!!
許さん、許さんぞッ!!!!」
血を吐くような叫びに山本が目を細める。
「耳を貸すな」
銀嶺が短く咲に命じる。
咲はただただ、響河の殺さんばかりの視線と霊圧を受け止めている。
「呪ってやるッ!!!
お前なぞ、地獄に引きずり込んででも死を超える苦痛をッ!!!」
咲を背に庇うように銀嶺が立った。
突然現れた大きな背中に咲は目を我に帰ったように見開く。
「銀嶺……隊長……」
突き刺すような霊圧から、その背中は咲を守る。
「今だ浮竹!!」
京楽が振り返り友を呼ぶ。
浮竹は頷くと血の滴る手を巻物の真ん中に叩きつけ、最後の詠唱をおこなう。
「今まさに永久に閉じよ 我が血の棺!」
棺が響河を飲み込んでいく。
「呪い殺してやるッ!!!
必ずだッ!!!!!」
銀嶺の背中で視えないはずなのに、咲には己を見つめる血走った眼が見える気がした。
「四槍血封!」
浮竹が渾身の力を込めて叫んだ瞬間、響河の霊圧が掻き消える。
強い風が棺から同心円状に広がり、5人は一瞬目を細める。
四本の槍が棺に刺さりを封印が完了したようだった。
山本はゆったりと刀を杖に戻す。
「響河、殿……」
ぽつりと零れるように呟いた咲を、銀嶺は振り返る。
顔は真っ青で、死人のようだった。
「私、は……」
俯き震える少女を銀嶺はじっと見つめる。
「私は、あの方を守れませんで、した。
傷つけ、傷つけ、傷つけ、最後には……」
自分の息子であれば、優しく肩を叩くだろう。
封印されてしまった彼ならば、きっとこの少女の頭をやや荒く撫でまわしただろう。
だが残念ながらどちらもここにはおらず、どちらも自分には似つかわしくない。
こういった役回りは不得意な自分しか居合わせない不幸な少女は、はらはらと涙をこぼしている。
銀嶺はその小さな頭に静かに銀白風花紗をかけた。
「必ず戻れ」
今は無理はしなくていい。
好きなだけ泣いて構わない。
だが、必ず自分のもとへと帰るようにと、そう願って。
小さく頷くのを確認してから、銀嶺は少女の傍らから離れた。
京楽ははっと我に返り、咲の傍に銀嶺がいるのを確認すると、浮竹に駆け寄った。
「大丈夫かい?」
「ああ、霊圧はほとんど空っぽだがな。
情けない」
渇いた笑いを浮かべる友に、京楽は安堵した表情を浮かべる。
だが急にむせ込み始めるものだから、慌てて治癒鬼道を始める。
同時に地獄蝶を呼び寄せた。
「こちら響河封印部隊、京楽」
『おう。
どうやら生きていたらしいな』
にやりと笑っていそうな声は木之元のものだ。
「はい。
作戦無事終了。
響河は封印、5人とも無事です。
4名軽傷、浮竹が霊圧も限界で軽い発作を起こしています。
四番隊出動希望です」
『了解。
すぐに行かせる』
「お願いします」
地獄蝶の向こうで小さな溜息が聞こえた。
『よくやったな』
ほっとした声がそう告げて、通信が切れた。
京楽はなんだかこそばゆくなって俯いた。
「よかったな、お褒めに預かって」
浮竹がにやりと笑う。
顔色が良くなってきたようだ。
京楽は表情が顔に出てしまっているのが妙に恥ずかしく、頬が熱くなる。
「病人は黙っていなよ」
そう口早に言ってそっぽを向いた。
その視線の先に、山田が降り立つ。
あまりに早い到着に目を瞬かせた。
彼は銀嶺を見つめ、銀嶺は小さく頷いた。
それを見て地獄蝶に何かを話しかけてから京楽達の方にやってくる。
京楽はなるほど、と納得した。
(卯ノ花隊長か……)
冷たい反乱は終わった。
多くの者を失ったけれど、自分たちにはまだ帰る場所がある。
山田の手が浮竹の肩に置かれた。
もう片方の手には竹筒がある。
「薬だ、飲みなさい」
咳の間に浮竹はそれを飲み干した。
その頃になって四番隊の沢田と蘭慕が駆け付け、浮竹身体を横たわらせて改めて治療を始める。
朝日が昇ってきた。
響河が封印されている場所では、隊長格が集まって何やら話をしている。
どうやらこの封印された棺は動かすことはできないので、鬼道で存在を隠してしまうようだ。
彼らよりも少し離れたところで、白い頭が見えた。
銀白風花紗を被った咲だ。
その背中に山田が手を伸ばす。
表情は紗のせいで全くわからないが、京楽の視線に気づいたのか、山田がひとつ頷いた。
彼は何かを咲に囁き、立ちあがらせ、どこかへ連れて行った。
「……あまり心に病まないといいが」
ぽつりと浮竹が呟く。
京楽もひとつ、頷いた。
反乱は終わった。
次に待つのは、選別だ。
二度とこのような反乱がおこらぬよう、誰を生かし、誰を殺し、誰を罪に問うのか。
「今はまず休まないと」
沢田のなだめるような声に、二人は誘われるように眠りに落ちた。
緊急首会半ば、十番隊の大道寺、十三番隊の土方と共に蒼純は命令を受けて会議室を出た。
3人は無言のまま一番隊の廊下を歩く。
大道寺は明らかに疲れ切った不服そうな顔をしているが、土方と蒼純の表情は読めない。
「……嫌ね」
大道寺が呟いた。
土方は黙って眉を顰め、蒼純は苦笑を浮かべる。
「……あんたらに言っても仕方ないか」
溜息をつく大道寺に、やはり2人は同じ表情を深めるだけで声は出さない。
2人も大道寺が副隊長に向かないと常々思っていた。
こういう類の事が、ひどく苦手なのだ。
彼女は優しすぎる。
言い方を変えれば、副隊長以上に進むだけの強さに欠けている。
その結論に至った土方と蒼純は、同時に思った。
ーー響河と一緒だと。
響河と違うのは、彼女が人から恐れられるほどの武力を持たないことだ。
響河の斬魄刀の能力は驚異的であった。
自らの片割れであることを考えると、彼もおそらく驚異的な力を持つのだろう。
その能力が発揮されるべき成長とタイミングが合わなかっただけで。
「土方君、全部片付いたら、休隊の書類ちょうだい」
「……降格願いという手もあります」
「ありがとう、人員不足だものね。
考えとくわ」
疲れきった微笑みに、土方は軽く黙礼をした。
蒼純はつと視線を落とす。
夜はもうすっかり更けた。
時計をちらりと見上げ、静かに窓の外の漆黒を見つめる。
ノックの音が響いた。
「卯ノ花です」
迷いのない声に、蒼純は感情を全て飲みこんで、口を開いた。
「入れ」
足音のない彼女の抑えられた霊圧が滑りこんでくる。
更木で獣のように生きてきた頃からの癖だろう。
そして振り返ると蒼純を見つめ返す真っ直ぐな瞳。
ピンと張り詰められた空気を壊すことのない彼女に、彼女ならばやり遂げられるだろうと肌が粟立つ。
緊張感を高めるように足音を立ててゆっくり歩み寄り、懐から手紙を取り出した。
「総隊長殿から命令だ」
咲はそれを開き、2度読み、頭に作戦を叩きこむ。
総隊長から直接命令されるのは、特別部隊の隊長助役のとき以来になる。
まさか、こんな命令が2度目の命令になるとは、思ってもみなかったが。
「響河を封印する事に対して、もし一抹であろうと躊躇いがあるならば、ここに残れ。
足手纏いだ」
普段は見せることのない蒼純の鋭い眼光にひるむことなく、咲は首を振った。
「行かせてください」
蒼純はその言葉に背中を向ける。
時計を見る。
もうここを発たねばならない。
「奴はもう逃げることはしないようだ。
決めたのだろう」
それは響河の事を言っているのであるが、目の前の蒼純の気持ちでもあるように思えた。
「私も決めました」
咲のはっきりとした声に目を閉じ、それから窓の前から避ける。
大きく開けられた窓が、漆黒の夜が、咲の目の前に現れた。
緊張が一瞬だけ和らぐ。
蒼純本来の柔らかい視線が咲にむけられた。
「隊長は現地でお待ちだ。
……私は君を信じてここで待っているよ」
「はい」
咲も頷き、窓枠に足をかけ、そして淡く微笑む。
「「ーー必ず」」
2人の声が重なった。
それを力に、窓枠を蹴る。
隊舎を出ると集合場所まで一気に瞬歩もでかけた。
そこに到着したのは、咲が最後だった。
元柳斎、銀嶺、浮竹、京楽、咲は顔を見合わせる。
「命に代えてでも封印せよ」
元柳斎の腹の底に響くような声に、3人は深く頭を下げた。
「「「御意」」」
自然とその返事も揃う。
銀嶺もひとつ頷き、5人は闇に姿を消した。
「老人二人、後ろには若造ばかりを引き連れて、何用だ。
オレの力にひれ伏す気にでもなったか」
発される強大な霊圧は、確実に隊長格だ。
最後に合った時よりも強大化、凶暴化しているそれに、京楽は眉をしかめた。
霊圧というのは、これほどまでに変わってしまうものなのかと。
昔の彼の霊圧は強くて凛とした、憧れを抱くようなものであったのにと。
「響河よ、お前の力は理想を叶えるためにあったのではないのか」
銀嶺の言葉に、響河は苦笑を浮かべる。
「理想などこの世に存在せぬ。
その先にあるのはそれをかなえられぬ絶望だけだ。
絶望が己を解き放つ。
力を持つ者が秩序を作る。
その力が黒く醜いものであったとしても、勝ち残りさえすればその黒が正義の色となるのだ」
「響河殿……」
咲が小さく名を呼んだ。
だがその声は最早彼の耳に届くことは無い。
「もうよせ。
力に魅入られた奴に最早聞く耳はない」
元柳斎が杖を刀にかえる。
それを合図に、斬魂刀を持たない京楽と浮竹は腰を落として臨戦態勢となり、咲は抜刀する。
「面白い。
お前らをいつかは叩き斬ってやりたいと思っていたのだ」
響河が静かに刀を抜いた。
次の瞬間、銀嶺が抜刀とともに響河と刀を合わせた。
霊圧同士がぶつかり、あたりの草が風圧でなぎ倒された。
「お前の力をこのソウルソサエティで一番よく知っているのは私だ」
噛み締めるような言葉に、響河は顔をしかめる。
同じく顔をしかめる咲の脇を、浮竹が小突く。
「前だけ向いていろ」
早口な言葉に、咲は歯を噛み締めて頷いた。
「囁け村正」
その解号に、皆が一瞬身構えるが、村正が姿を現すことは無い。
訝しんでいる場合でもないと、浮竹は巻物を懐から取り出すと空に投げ、霊圧を送り込む。
巻物からは彼1人では抱えきれないほどの棺が降ってきた。
「畜生ッ!
囁け村正!!」
元柳斎と銀嶺と打ちあいを続けながら、響河は叫ぶ。
刀と刀のぶつかり合う激しい音の間に、己の斬魂刀を呼び続ける悲痛な声が混じる。
3人はそれに動揺することは無く、淡々と封印に向けた作業を進める。
棺を京楽が開け、そのなかから4本の槍を咲がとりだした。
浮竹は落ちてきた巻物を拾い上げ、懐から取り出した小刀で手首に切り傷をつけると、詠唱をしながら血で紋様を描いていく。
「黒き魂で清める至高なる者に集い
血と盟約と祭壇における黒き天より来たる最愛なる黒曜の贄」
3人の中では一番霊圧の高い浮竹の霊圧が、光るほどに濃縮し、彼の血で描かれた紋様が揺らめき始める。
「村正、解放だ!
俺が呼んでいるというのになぜ出てこないッ!!」
槍は咲と京楽が2本ずつ持つ。
それぞれに浮竹の霊圧がまとわりつき、淡く蒼く光った。
「封印の怨霊に聖杯を掲げ
太古より引き継がれし六つの鍵を持て」
浮竹はようやく巻物から顔を上げる。
その額からは汗が滴っている。
高度で繊細なこの術は、鬼道衆でもない若い彼一人で発動させている事自体驚くべきことなのだ。
響河を見れば、銀嶺に左手を灰縄で捕えられ、村正を持つ右手で山本と鍔迫り合いをしている。
山本が3人をちらりと見た。
京楽と咲は手に持つ槍を順に投げる。
それぞれの先端から浮竹の霊圧が伸び、響河の手足それぞれを絡み取る。
暴れる響河を抑えようと、捕える霊圧は巨大化する。
命ごと根こそぎ持って行かれるような感覚に、浮竹は歯を食いしばって耐える。
響河は目を見開き、その瞳が呪うように咲を見据えた。
「糞餓鬼どもが!!!!
裏切り者め!!!
許さん、許さんぞッ!!!!」
血を吐くような叫びに山本が目を細める。
「耳を貸すな」
銀嶺が短く咲に命じる。
咲はただただ、響河の殺さんばかりの視線と霊圧を受け止めている。
「呪ってやるッ!!!
お前なぞ、地獄に引きずり込んででも死を超える苦痛をッ!!!」
咲を背に庇うように銀嶺が立った。
突然現れた大きな背中に咲は目を我に帰ったように見開く。
「銀嶺……隊長……」
突き刺すような霊圧から、その背中は咲を守る。
「今だ浮竹!!」
京楽が振り返り友を呼ぶ。
浮竹は頷くと血の滴る手を巻物の真ん中に叩きつけ、最後の詠唱をおこなう。
「今まさに永久に閉じよ 我が血の棺!」
棺が響河を飲み込んでいく。
「呪い殺してやるッ!!!
必ずだッ!!!!!」
銀嶺の背中で視えないはずなのに、咲には己を見つめる血走った眼が見える気がした。
「四槍血封!」
浮竹が渾身の力を込めて叫んだ瞬間、響河の霊圧が掻き消える。
強い風が棺から同心円状に広がり、5人は一瞬目を細める。
四本の槍が棺に刺さりを封印が完了したようだった。
山本はゆったりと刀を杖に戻す。
「響河、殿……」
ぽつりと零れるように呟いた咲を、銀嶺は振り返る。
顔は真っ青で、死人のようだった。
「私、は……」
俯き震える少女を銀嶺はじっと見つめる。
「私は、あの方を守れませんで、した。
傷つけ、傷つけ、傷つけ、最後には……」
自分の息子であれば、優しく肩を叩くだろう。
封印されてしまった彼ならば、きっとこの少女の頭をやや荒く撫でまわしただろう。
だが残念ながらどちらもここにはおらず、どちらも自分には似つかわしくない。
こういった役回りは不得意な自分しか居合わせない不幸な少女は、はらはらと涙をこぼしている。
銀嶺はその小さな頭に静かに銀白風花紗をかけた。
「必ず戻れ」
今は無理はしなくていい。
好きなだけ泣いて構わない。
だが、必ず自分のもとへと帰るようにと、そう願って。
小さく頷くのを確認してから、銀嶺は少女の傍らから離れた。
京楽ははっと我に返り、咲の傍に銀嶺がいるのを確認すると、浮竹に駆け寄った。
「大丈夫かい?」
「ああ、霊圧はほとんど空っぽだがな。
情けない」
渇いた笑いを浮かべる友に、京楽は安堵した表情を浮かべる。
だが急にむせ込み始めるものだから、慌てて治癒鬼道を始める。
同時に地獄蝶を呼び寄せた。
「こちら響河封印部隊、京楽」
『おう。
どうやら生きていたらしいな』
にやりと笑っていそうな声は木之元のものだ。
「はい。
作戦無事終了。
響河は封印、5人とも無事です。
4名軽傷、浮竹が霊圧も限界で軽い発作を起こしています。
四番隊出動希望です」
『了解。
すぐに行かせる』
「お願いします」
地獄蝶の向こうで小さな溜息が聞こえた。
『よくやったな』
ほっとした声がそう告げて、通信が切れた。
京楽はなんだかこそばゆくなって俯いた。
「よかったな、お褒めに預かって」
浮竹がにやりと笑う。
顔色が良くなってきたようだ。
京楽は表情が顔に出てしまっているのが妙に恥ずかしく、頬が熱くなる。
「病人は黙っていなよ」
そう口早に言ってそっぽを向いた。
その視線の先に、山田が降り立つ。
あまりに早い到着に目を瞬かせた。
彼は銀嶺を見つめ、銀嶺は小さく頷いた。
それを見て地獄蝶に何かを話しかけてから京楽達の方にやってくる。
京楽はなるほど、と納得した。
(卯ノ花隊長か……)
冷たい反乱は終わった。
多くの者を失ったけれど、自分たちにはまだ帰る場所がある。
山田の手が浮竹の肩に置かれた。
もう片方の手には竹筒がある。
「薬だ、飲みなさい」
咳の間に浮竹はそれを飲み干した。
その頃になって四番隊の沢田と蘭慕が駆け付け、浮竹身体を横たわらせて改めて治療を始める。
朝日が昇ってきた。
響河が封印されている場所では、隊長格が集まって何やら話をしている。
どうやらこの封印された棺は動かすことはできないので、鬼道で存在を隠してしまうようだ。
彼らよりも少し離れたところで、白い頭が見えた。
銀白風花紗を被った咲だ。
その背中に山田が手を伸ばす。
表情は紗のせいで全くわからないが、京楽の視線に気づいたのか、山田がひとつ頷いた。
彼は何かを咲に囁き、立ちあがらせ、どこかへ連れて行った。
「……あまり心に病まないといいが」
ぽつりと浮竹が呟く。
京楽もひとつ、頷いた。
反乱は終わった。
次に待つのは、選別だ。
二度とこのような反乱がおこらぬよう、誰を生かし、誰を殺し、誰を罪に問うのか。
「今はまず休まないと」
沢田のなだめるような声に、二人は誘われるように眠りに落ちた。
