斬魄刀異聞過去編
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毎日のように戦を起こしていた響河がなりをひそめた。
かなりの痛手だったのだろう、もしかしたら死んだやもしれぬ、と噂された。
だが捕縛部隊、隊長格、副隊長格の誰一人として、そう思っている者はいなかった。
ー奴は必ず来るー
それが共通認識だった。
発信器は今まで通り動いていた。
だが、痛手を受けているはずの彼を、どうしても捕らえることはできなかった。
咲は飛び起きた。
ここは六番隊の仮眠室。
響河捕縛部隊が待機する場所でもある。
少数精鋭で組まれた部隊であったが、響河の毒牙にその殆どが死に、そして補充もされなくなった。
がらんとした室内を見まわし、その寒々しさに寒気を覚え、立ち上がり着物の崩れを直すと破涙贄遠を携える。
遠くで微かな霊圧が急速に動くのを感じる。
ーおいてめぇ、こんな時間からどこに行く!?-
駆けだす咲に気づき、叱った獄寺はもうこの世にはいない。
ー一人で行く気か?ー
そう言って困ったように笑った山本も、いない。
京楽も浮竹もここにはいない。
自分を止める者は今、誰もいない。
いてはくれない。
嫌な予感はどんどん大きくなる。
緊張からじとりと汗ばむ手。
自分が行かなければ、また、誰かが苦しむ。
懐にしまった響河の位置受信機と、室内に取り付けられた警報機がけたたましく鳴り響いた。
「出没確認!
零弐七ロ!」
地獄蝶が伝える音声に、咲はひとつ思い当たり、隣室で仮眠をとっている蒼純の指示も待たずに駆けだした。
隊舎を出るなり瞬歩で飛ぶように移動する。
強くなる霊圧に、咲は最悪の事態になったと焦る。
本来であれば玄関から訪ねなければならないような場所ではあるが、今はそんな時間の余裕はないと判断。
最上階まで屋根を伝って体当たりするようにして窓を壊し、室内に飛び込んだ。
「響河殿っ!!」
咲の悲鳴の先に、元上司が刀を振るっていた。
ためらわず抜刀し、彼を上段構えから切り裂く。
響河本人は部屋の隅へと跳んだ。
咲はすぐに刀を持たぬ手も付いてスピードを殺し、襲われていた女性を背に庇う。
盛大な舌打ちとその床にぱらりと血雫が滴る。
音の方を見れば憎悪の瞳が咲を睨みつける。
大きな傷にはならなかったようだが、今の一撃の目的はそこではなかった。
「卯ノ花っ……」
名を呼ぶのは朽木家で何度かあった事のある、蒼純の妻
そう、ここは霞大路家の一室、朽木月雫の部屋である。
出産が近づいたため、実家に帰っていたのだ。
月雫は腹を護るようにして斬魂刀を構えていた。
「何故ッ!!!」
理由は聞きたくないし知りたくない。
でも、言わずにはいられなかった。
朽木家の幸せな思い出が、滅多切りにされていく。
「腹の子がにくい。
当主となった俺を嘲笑っていたことだろう。
子のおらぬ俺を!」
「響河!
蒼純も儂もそのような事をした覚えもなければ、そんなことを思ったことさえないぞ!」
月雫の叫びは響河に届くことはない。
「なんとでも言え!!」
斬りかかってくる刀を咲は受け止める。
「月雫殿にも、お腹のお子様にも、何の罪もございません!」
「俺をこれほどまでに貶めておいて罪がないというのか!」
「響河殿!!!」
「ふざけるな!」
強い霊圧に咲は吹き飛ばされそうになるが、月雫を守る為に対抗して霊圧を高める。
「悲涙流れし 血を啜れ いざ目覚めよ 破涙贄遠ッ!!!」
解放とともに振り返る。
「お逃げください!」
「お前を置いて逃げられるか!」
真っ黒の瞳が、咲を殺すまいと訴える。
だが、今はそれは聞けない。
「私は護りたいものを護れなかった……
お願いします、早く!」
騒ぎを聞きつけた家臣たちが部屋に掛け込み、その惨事に悲鳴を上げる。
響河はうっとおしそうに舌打ちをした。
「無駄な足掻きを……
無鉤条誅村正!」
月雫の斬魂刀がカタカタとなる。
その切っ先が、腹へと向かっている。
咲は目を見開いた。
「おやめください、響河殿っ!!」
そして響河斬りつけようと駆け大きく刀を振りかぶった時だった。
背後で肉が切れる音がした。
目を見開いて振り返る先には、畳に転がる斬魂刀と、美しい白い手。
その手は血にまみれていて、それがあったであろう月雫の右腕は、中ほどで切れている。
「う・・・うぁぁぁっ!!!」
荒い息をして、必死に痛みに耐える月雫の左手から、短刀が落ちた。
護身用だったのだろうことは、その美しいかざりから見て取れた。
「月雫様っ!!」
駆けよる家臣を、月雫の残っている左手が、落ちた斬魂刀を拾い上げて切りつけた。
月雫の黒真珠とうたわれる瞳が、苦しげに揺れる。
そして。
「切り落とせ!」
月雫の罵声が響いた。
しかし家臣たちは歯向かうことさえできずに次々と切られていく。
「姫様を切ることなど、できるはずがございません……」
そう泣きぬれて死んでゆくのだ。
どれほどの信頼関係があっただろう。
忠義を尽くすと誓ったからこそ、腕を切り落とすよりも殺されることを選んだのだろう。
「切ってくれ!
頼むっ!」
「お許しください!!!」
斬るだけの決意を持てた者が飛びかかるも、逆に斬り殺されてしまう。
月雫の能力は、彼らを超えているのだ。
「卯ノ花っ!」
美しい瞳は苦しみに歪みながら咲を映した。
「切れッ!!!」
咲は破涙贄遠を構えた。
「うわぁぁぁぁ!」
悲鳴とともに打ちあい、そして、左腕を切り落とす。
ごとりと音がして腕が落ち、斬魄刀がくるくると床を滑った。
響河はそれで気がすんだのか、解放をやめた。
月雫は生気が抜け落ちたように倒れ伏した。
あたりには咲の荒い呼吸ばかりが響く。
その背中に響河が笑いかける。
「次はお前だ」
「私はっ」
咲が短く叫んだ。
「私は貴方を守りたかったッ!
みんなとともに笑うあなたをっ!」
「ふざけるなっ!
こんなものを渡しておきながら何を言う!!!」
投げつけられたのは、響河の居場所を知るための発信器だ。
それを認識した咲は目を大きく見開き、言葉を発することができない。
「何が俺の役に立てるようにだ!!!
何が俺を守るだ!!!
何が俺の無実を証明するだッ!!!!!」
次の瞬間、響河が咲の首へと一直線に刀を振るうが、首の直前でぴたりと止められた。
咲は刀を止めたまま、じっと目の前の響河を見つめている。
その凪いだ瞳に見つめられ、響河は歯ぎしりをした。
「罪なき命を奪うなら、私は貴方を止める。
それが私が申し上げた言葉を実行することだと信じています」
響河は苦しげに咲を睨みつけ、そして、姿を消した。
