斬魄刀異聞過去編
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「馬鹿なこと考えてんじゃねぇぞ」
突然かけられた声に、窓の外を見ていた浮竹は緩慢に振り返った。
鬼と恐れられる副隊長が腕を組んで自分を睨みつけ、室内に入ってきた。
「馬鹿なこと、ですか」
「ああそうだ」
彼はずんずんと進みベッドの横に置かれた椅子にどさりと腰かけた。
腕を組んで目を閉じる。
彼が熟考の末に持ってきた事を話すときの癖だった。
「てめぇがしたのは正しい判断だ。
誰も責めやしねぇ。
響河にはかなりの重傷を負わせたはずだ。
お陰でここ数日は被害ゼロだ。
それは評価に値する」
「仲間を殺しても、ですか」
紫紺の瞳が開き、浮竹を見据えた。
静かで強い瞳だ。
この瞳に、どれ程の憧れを抱くことか。
「てめぇが殺したのは事実だが、死ぬ奴は死ぬ。
あの状況だ。
どうせてめぇ
原田を含め、お前達が生き残っただけでもいい出来だ」
歯に衣着せぬ物言いが優しさだと痛感する。
「俺でも同じ判断をした。
隊長も、同じことを言った」
浮竹は俯き布団を握り締めた。
「俺達が戦ってんのは、誰かの誇りを守るためじゃねぇんだ。
生きて、守らなきゃなんねぇ尸魂界のために戦ってんだ。
てめぇも分かってるから、あいつらを殺したんだろ。
例え巻き込んで殺してしまおうと、あいつらの誇りを潰しちまってでも、響河を殺そうとしたんだろ」
風が吹き込んで、浮竹の白髪を流し、そして土方の黒髪を揺らした。
「てめぇは正しい。
あの状況下で正確な判断を下した。
……よって七席に任命する」
ぱらぱらと布団に雫が零れた。
唇をかみしめ、浮竹は泣いていた。
「返事!」
土方の鋭い声に、浮竹は後から後から溢れてくる涙をぬぐった。
「はいっ!!!」
唇を噛み締めて必死に答えた部下を見て、土方は一瞬だけ辛そうに目を細めた。
でもそれは本当に一瞬で、すぐに元の強い眼光を携え、立ちあがる。
そして少しだけ考えた後、肩を越えるほど伸びた白髪頭を乱暴に掻き混ぜてから部屋を出た。
京楽は目を開けた。
まだ手に残っている。
藤堂を刺した時の感触が、生々しく。
起き上がり、ベッドに立て掛けてある花天狂骨に手を伸ばそうとして、やめた。
もう一度ゴロンと寝転がる。
「目が覚めたんだね」
掛けられた声にがばりと起き上がる。
「沢田十五席……」
そこには薬の乗った箱を持ちながら穏やかに微笑む沢田がいた。
「おはよう。傷の具合はどう?」
彼の親友を、自分たちが殺したというのに。
山本は咲が殺し、獄寺も浮竹が殺した。
浮竹を止められなかったのは、京楽だ。
「どうしたの?」
柔らかく見つめられ、京楽は口ごもった。
「包帯はずすね」
彼は手際よく包帯を外していく。
「どうして……どうして責めないのですか」
ぽとりと零れた言葉に、沢田は手を止めた。
「責めても二人は帰ってこないし、喜ばないから、かな。
責められた方が気が楽?」
その問いにどきりとする京楽に淡く微笑んで、薬を塗り始めた。
「俺さ、戦闘能力ほとんどないんだ。
だから、仲間が傷ついたら治そうって決めた。
そのために治療の腕を上げた。
……仲間がいなくなったら、俺に意味なんてない」
京楽は固まる。
今までに見たことがないほど、沢田の表情は暗く、冷たかった。
京楽の視線に気づき、彼は慌てて手を振る。
「勘違いしないで!
戦いはさ、どっちも悪いんだ。
互いに互いの仲間を殺しあってるんだから。
今回だってそうだ。
響河三席……もう席は無いんだっけ。
あの人を殺すための戦いなんだから、向こうも殺されないために戦うよね。
僕、あの人に何回も助けてもらったよ。
心の優しい人だった……たくさんの裏切りを受けて、遂には心が折れてしまったんだろう。
守ってくれる人を失って、助けてくれる人を傷つけて……力が強すぎたんだ、不器用なだけの人だったのに。
これはもう仲直りができる子どもの喧嘩じゃない。
……だから辛くても、山本も獄寺も、そして残された者も、文句は言えないと思うんだ。
不器用なあの人を助けられなかった、みんなの責任だよ」
それからどこか照れたように、再び包帯を巻き始めた。
「どっちも悪くて、どっちも自分のエゴなんだよ。
だから君を責めない。
……それにさ」
巻き終わった沢田は優しく笑った。
「君だって俺にとって大事な仲間だから」
綺麗な人だと思った。
もし、彼が逆に浮竹や咲を殺したら、自分は彼を殺しかねないだろうと思う。
そんな自分は当り前で、でも沢田は眩しいと思った。
そして少しだけ、心が軽くなったような気がした。
「他の二人も何か気にしていたらそう言ってあげてね」
片づけをして、うつむきがちに去っていく背中を、呼びとめる。
「沢田十五席……」
立ち止まってくれたけれど、彼は振り返らなかった。
彼がさっきまでいた床には、水滴がいくつか落ちていた。
彼の後ろ姿は、小さく震えていた。
なんと言うべきか言葉が見つからず、少し間が空いた後に、京楽は口を開いた。
そんなことを言う綺麗な彼も、同じくエゴの塊のはずなのだ、と。
「こんな戦い、全力で止めます」
「……そうして」
短くそう言うと、沢田は早足で部屋から出て行った。
「浮竹!!!」
飛び込んできた姿に、浮竹は目を見開いた。
駆け寄ってくる姿は、しばらく前に見た砕けそうな姿とは打って変わって、健康そうにさえ見える。
一体何が彼女を立ち直らせたのだろうと、首を傾げるくらいだ。
「咲、動いていいのか?」
慌ててベッドから降りようとする浮竹を、慌てて咲が押しとどめた。
「それはこっちの台詞。
……心配した」
それでもずいぶんと細くなった友人の垂れた眉に、浮竹は困ったように笑った。
下がるような細い手が愛おしく、思わず抱き寄せる。
「悪かったな」
耳元で囁けば、くすぐったいよ、と腕の中で小さな笑い声がした。
同じ傷薬や湿布の匂いに濡れた友の、骨に筋肉ばかりついた、それでもやはり微かに女性らしい柔らかさの残る身体に、浮竹は目を細めてから、そうっと抱きしめていた手を解いた。
至近距離で見つめる友は、解けるような笑顔を見せる。
何度も彼女を失いかけているこの戦で、ここまで生き残れたことに本当に感謝しかなく、是が非でも彼女と命運を共にしようと心に決めるーーそして彼女も、もしかしたら同じなのかもしれない、と思う。
「本当だよ、全く」
新たに部屋に入ってきた友人を振り返り、咲は嬉しそうに笑った。
「遅かったね、京楽。
呼んだのはそっちなのに」
「ちょっと仕事が残っててね」
こちらもまだ包帯の取れない様子で、頬を掻いた。
「退院はいつ?」
「俺は明日の予定だ。
回診の結果で決まるらしい」
「そっか」
「咲は?」
「私は明後日の回診で決まるみたい」
退院してほしくない、とは言えない。
それが咲達の立場だった。
生きて欲しい。
これ以上誰かを殺して苦しまないでほしい。
だが平和の為に人を殺す必要があり、そのために護挺にいるのだ。
3人は。
浮竹は自分の秘密を知ったであろう友に笑った。
明るく、今まで通りに。
眩しいくらいの笑顔で。
京楽は表情を暗くした。
咲は辛そうに眉をひそめた。
それでも浮竹は笑う。
「やはり、こう、あれだな。
3人そろうといい」
その言葉に、二人の表情もやや明るくなる。
「うん」
「そうだねぇ」
浮竹も優しく頷いて見せた。
「ありがとう。
命をかけて助けてくれたと聞いた」
真剣な礼に、2人は顔を見合わせた後、照れたように笑った。
そしてどちらともなく、浮竹と肩を組む。
3人は額をこつんと合わせて、真剣な眼差しを交わす。
「考え込んでいる時間は無い。
後悔も懺悔も綺麗事も、全て後回しだ」
浮竹は低い声で囁く。
「じゃなきゃ、死ぬぞ」
二人も頷く。
彼は本当に聡明で、優しく、強い。
「この戦、甘くは無い」
咲が拳を握りしめる。
「なんとしてでも、終わらせよう」
「ああ」
「うん」
誰からともなく肩を叩き合いながら円陣を解く。
3人の表情は引き締まったもので、覚悟の重さと互いに寄せる信頼が滲み出ていた。
