斬魄刀異聞過去編
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爆発は強大だった。
これほどの爆発を引き起こせる人物がいるとしたらそれは総隊長である山本であって、ここには一人もいないと思っていたのだ。
影の中で京楽は恐れを抱いた。
(浮竹……)
だがそれをやってのけたのは、誰よりも共に鍛錬を積んでいたはずの友だった。
自分以外は皆、遺体すら残らなかったかもしれない、と思う。
影から一歩踏み出すと、音を立てて草鞋が焦げた。
そこここからまだ火の手も煙も上がっている。
何よりも熱気がすごい。
咄嗟に感じた浮竹の霊圧を探って追いかけようとする。
「待、て!」
絞り出すように掛けられた声に足を止めた。
崩れ落ちた壁に駆け寄り、慌てて瓦礫を退かす。
「原田四席!!!」
あちこち焦げ、傷だらけだが、そこには確かに生きた原田がいた。
身を翻すことができたのは、響河に操られていない彼だけだったのだ。
「この、爆発が誰のも、のか、お前も……分かってる、はず、だ」
苦しげな息の下、原田はむせながらそう言う。
「浮竹は、村正に操られながらも、自分の意志で、これほどまでに大きな爆発を、起こしたんじゃ、ねぇか……?」
京楽は唇をかむ。
彼の能力の高さと、そしてそれ故背負わなければならない事の重さを思うと、苦しかった。
「響河を、爆発に、巻き込んじまおうとした。
たとえ、俺達も巻き込んで殺しても、だ。
……それができるなら当然そうすべきだ。
実に正しい判断だ。
うちの隊長や副隊長なら……
それから、そうだな、総司くらいならそう判断して、実行できただろうな」
原田は空を振り仰いだ。
俺じゃ無理だ、と、唇だけが動いていたが、京楽はそれを見なかったことにした。
「あいつを捕まえて、言ってくれ。
生きろ。
お前剣は、お前の心は、その強さは、もうお前だけのものじゃない……ってな」
「浮竹っ!!!」
腕を強くつかまれ、浮竹は立ち止まった。
立ち止まらざるを得なかった。
自分の手をつかんだ人の力は強く、また失ったと思っていた人の声で、どうしても振り切ることができなかった。
ぎこちなくゆっくりと振り返り、浮竹は自分を呼びとめた人物に焦点を合わせた。
鳶色の目は大きく見開かれ、身体は震えていた。
「き、きょう、ら、く!!!」
そして一瞬ののち、がばっと勢い良く抱きついた。
京楽も友をしっかりと受け止める。
「よく生きて……」
震える声が、耳元で囁く。
「ああ、生きていたさ。
咄嗟に影の中に入ったんだ。
原田四席も無事だ。
この戦いについて証言してくれるだろう。
君が操られていたことも……
君が……響河の術を解いて成し遂げた、決死の決断も、全部」
骨が軋むほど抱きしめてくる血の香りのする友に、京楽は目をつぶった。
「だから、帰ろう」
浮竹は答えない。
原田の言うことは正しい。
浮竹ほどの実力は、護挺の力と言えるほどに成長しつつある。
「原田四席が言ってた。
もう君の剣は君だけのものじゃない。
君の心も、強さも。
ーー生きなきゃならない」
それが苦しく辛い道で、死を望もうとも、彼の手はこれから、護挺のために多くの命を救うだろう。
そして同じく、護挺のために多くの命を奪うだろう。
でもそんなこととは関係なく、京楽はただただ、彼の生を望んだ。
あまりに多くを失い、罪を背負った自分達三人の誰かが欠けることがあれば、堪えきれず迷わず後を追うだろう。
「それから頼むよ……ボクと咲の為に、生きてくれ」
かすれた声の懇願の後、しばらく経ってから、肩に乗った浮竹の頭が、ようやく一つ頷いた。
「春水。
十四郎」
穏やかな声が二人を呼ぶ。
「雀部副隊長」
抱擁を解いた二人が振り返った。
「帰って傷の手当てをしなさい。
特に十四郎は」
浮竹が激しくむせ込み、倒れ込むのを京楽が支え、背中をさする。
しかし浮竹はぷつりと意識が途絶えたようで力なく自立を失った。
「すぐに四番隊隊舎へ」
雀部が背中を向けて座るので、京楽はその背中へ浮竹を預けた。
「一緒に来なさい」
命令にひとつ頷く。
その頭に大先輩の大きな手が乗った。
「良く引き留めたな」
癖のあるこげ茶色の髪を撫でまわす武骨な手に、涙があふれた。
引き留めた友はきっと、これから死ぬほど苦しむだろう。
それでも生きてほしかった。
それでも生きなければならなかった。
「お前もだよ春水。
お前の力も、心も、強さも、それからその優しさも、最早お前1人のものではない。
進むは修羅の道だが、心に決めた友と共に、歩みを止めてはなりません」
溢れる涙を拭いながら、京楽は何度も何度も頷いた。
激しい自分の息が耳ざわりだった。
「くそっ!!!!」
悪態をつき、岩壁を殴る。
鈍い痛みが腕を伝わった。
だがその痛みをほとんど感じないほど、全身が激しく痛む。
「響河、先に冷やせ」
村正が心配そうにその様子を見る。
「黙れ!!!
あの糞餓鬼がッ!!!
お前に怒りはないのか!!!
あんな野郎に術を解かれたんだぞ!!!」
「お前の方が心配だ。
戦に次はある。
だがお前の傷が治らねば次はない」
冷静な言葉に、響河はもう一度壁を殴ると、洞窟を出て河に入る。
激痛に思わず呻めく。
爆発に巻き込まれたときに身を守ろうとかなり霊圧を消耗したため、完治させることはできないことは分かりきっていた。
治癒鬼道を使っても、治りが遅いのは、それだけ術者の霊圧が高いと言うことでもあり、傷付けられた自負に胸中に渦巻く怒りに残り僅かな霊圧が激しく波打つ。
「……響河。
獄寺が懐から落としたのを拾ったのだ」
後ろからかけられた声に振り返ると、村正の手に青く文字が光る小さな機械があった。
どこか見覚えのある形大きさだ、と思う。
そこには「ハ七九イ」と表示されている。
「捨てておけ」
そう言うと河からあがり、服を着ようと広げた時、ぽろりと何かが落ちた。
それを拾い上げた響河は目を見開く。
「さっきの貸せ!」
驚く村正の手からひったくり、そして拾いあげた勝守の袋を無理に破いて中身を取り出した。
そして現れた、良く似た小さな機械に目を見開く。
たくさんの思い出が脳裏を駆けた。
初めて出会った日の、院生ながらに死神と充分にやりあっていた姿。
生きるために真っ直ぐ前を見つめる瞳。
他の隊士に虐げられようと、強さを求める背中。
響河を守るために傷つく小さな、背中。
ー私は、私にできることを、精一杯やります。
壊れません。
少しでも護挺のお役にたてるように。
それから、響河殿のお役に立てるようにー
そう言って見上げてきた。
頭をかいぐれば恥ずかしそうに、でも嬉しそうに見上げてきた。
ー銀嶺隊長、と、明翠様に、誓った、から、です……
響河殿を、守ると。
私は、私は、響河殿を、お護りする。
無実を、証明す……ー
そう言って血を流して倒れた部下。
彼女の手にあったお守りは、今や響河の足元でぼろ布と化していた。
抑えきれない怨讐で、身体が震えた。
「……殺してやる」
