斬魄刀異聞過去編
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塾に帰ると京楽も夜勤を外れていたようで、先に部屋に戻っていた。
どちらも無言で、布団に入る。
ずいぶんとしてから、ぽつりと京楽が尋ねた。
「……会った?」
誰にとは言わないけれど、浮竹にはすぐにわかった。
「……ああ」
だがそれ以上の言葉を紡げなかった。
腕に抱いた咲のぬくもりと細さと柔らかさと、そして血の匂いが忘れられず、浮竹は京楽に背を向けて己の身体を抱きしめる。
京楽もそれ以上聞くことはなかった。
寝苦しい夜が、少しずつ更けていく。
互いの存在が息苦しく感じるのに、同じ部屋にいなければ不安になりそうで、どちらも布団に寝転がったままじっとしていた。
虫の鳴き声がぱたりと止み、二人ははっと目を開けた。
そして唐突に舞い降りた喧騒と見知った霊圧に、浮竹と京楽は飛び起きた。
「奇襲か!?」
「門の方だ!」
枕元に置かれているのは浅打とそれぞれの斬魂刀。
二人は一瞬迷ったのち、斬魂刀をひっつかんで走り出す。
この距離であれば浅打で有っても響河の能力で操られることは必至。
どちらでも同じならば己の刀を帯刀したかった。
向かった先では、道場に寝泊まりする隊士たちが斬り合いをしていた。
自分達よりも席の高いものも、その中にいる。
「何事だッ!?」
「まさか!」
「そのまさか、だ」
二人は声のする方を振り仰ぐ。
そこには朽木響河がおり、彼の手から赤黒い塊が落とされた。
「貴様らの敬愛する先輩、だ」
嘲るような言葉に二人は目を見開いて固まる。
目の前に血を流し黒く焦げ、倒れ伏しているのは、獄寺だった。
かろうじて息はあるが、重症なのは一目瞭然。
「この糞餓鬼がっ……
消灯時間はとうに過ぎてるだろッ」
そう言って苦しげに二人を睨む。
「元字塾は今日が最後だ」
響河が冷たく言い放った。
「彼がその終止符を打つ。
安心しろ、思う存分……」
響河は瞬歩で違う場所に移動した。
彼がいた場所には血がぱらぱらと散った。
「おっと、残念。
切り落としたつもりだったんだがな」
藤堂だ。
その隣に永倉と原田が降り立つ。
響河は斬られた腕を苦々しげに見た。
「お前ごときに傷つけられるとは、油断したものだ」
藤堂はにやりと笑った。
「別で陽動しかけてるな?」
永倉の問いかけに響河はくすりと笑った。
「さぁな」
「そっちに向かおうとしたらなんだかおかしな雰囲気だったからよ。
立ち寄ったってわけ」
探れば、北の方で霊圧がぶつかっているのが分かる。
「総隊長への恨みってか?」
「俺は世界を作りかえると決めた。
となれば、こういう次世代を育てる場所は潰しておくべきだろう?」
「なるほど分かった。
お前はいい奴だと思っていたんだがな、やはりどうやら違うらしい」
原田、永倉が順に浅打を抜く。
彼らは斬魂刀を持ってきてはいないらしい。
「面白い!
飛び入りだがこれでより面白くなった!!!」
後ろで絶叫が上がり、それが中途半端に途切れた。
戦っていた塾生たちが自分の刃で一斉に己の首を落としたのだ。
その惨殺された様子に、6人は目を見開く。
「雑魚はいらん。
見ていても楽しくないからな」
響河に風のように原田が襲いかかる。
それをギリギリ受け止める響河。
「てめぇ、人をなんだと思っていやがる!!!」
目を血走らせ怒鳴りつけるも、響河は面白そうに笑っただけだった。
そして間を開けた次の瞬間だった。
「
6人の身体の自由が利かなくなり、あたりに緊張が走る。
「……決めた。
これで相討ちにしてやる!」
途端に身体に自由が戻ったのは、京楽、永倉、獄寺だった。
原田、浮竹、藤堂はピクリとも動けない。
原田と藤堂の手にある浅打ちが揺らめき、彼らの斬魂刀が現れる。
6人の顔が青ざめた。
最悪の事態になったと理解したのだ。
「殺しあえッ!!!」
浮竹の刃が京楽に、原田の刀が永倉に、藤堂の刀が獄寺に襲いかかる。
浮竹と京楽が至近距離でにらみ合う。
「京楽てめぇ代われ!」
獄寺の罵声が飛ぶ。
「しばらく藤堂の相手をしろ!!!」
普段からの3人の様子を見ている彼には、京楽に浮竹を殺すだけの覚悟ができていないという推測は容易い。
だが彼に浮竹を渡すということは、浮竹は殺されるということだ。
「行け京楽」
静かに浮竹が呟く。
鳶色の瞳が、京楽をじっと見上げた。
彼は学院の頃よりも健康になり、背も伸びた。
それでもやはり、京楽よりも低かった。
いつかは越してやるぞと笑っていたのに。
「行けッ!!!」
逆らえない声色と、相手を服従させようとする強い霊圧が放たれる。
伸びてきていた白い髪が、それになびく。
これほどまでに強い彼は今、死を覚悟しているというのだ。
憧れさえ抱く、真っ直ぐな強さで。
(ボクなんかより、浮竹の方が……)
背中に冷たいものが走る。
「俺にお前を殺させるな」
強い言葉に歯を噛み締める。
急に浮竹が間を取った。
間に獄寺が割って入ったのだ。
その獄寺を襲おうと、藤堂が刀を振りかぶってくるので、京楽はそれを受け止める。
「俺を殺すつもりで来いよ、京楽。
じゃなきゃ殺られるぜ」
藤堂は無理ににやりと笑って見せた。
そんな先輩に、京楽は唇をかみしめる。
咲もこんな気分だったのかと。
こんなにも苦しく、己の死をも望むのかと。
そしてそれに矛盾して、あの皆で生きていた日を願うのかと。
きつく斬魂刀を握り締める。
「戦いっていうのは、刀を握った時点で始まるんだ。
そうした以上、殺しても殺されても、文句は言えねぇ。
覚悟がなきゃ刀なんて持っちゃいけねぇんだ。
分かるな?」
静かな言葉に、京楽は俯いたままひとつ頷く。
「花風紊れて花神啼き 天風紊れて天魔嗤う 花天狂骨」
「よし!」
藤堂はくしゃりと笑った。
そして自分の斬魂刀上総介兼重の動きを読もうとする。
「いいか、こいつの能力は俊敏性を高める事のように見えるが、刀身が高速で伸縮・変形することでそう見えている。
必ず俺の軌道から逃げろ。
離れるだけじゃおいつかねぇからな」
鋭い突きを繰り出され、京楽は言われた通り身体をそらせて軌道から外れる。
確かにさっきの攻撃だけであれば後ろに飛びずされば避けられたはずだが、そりかえって見えた先には確かに一瞬、刀身が伸びていた残像が映った気がした。
そのまま転がる様にして藤堂から間を置く。
「影鬼!」
スピードが勝負ならば、相手の隙を窺うのが一番だ。
珍しく気を利かせた遊びを花天狂骨が選んだものだと安心する。
背後足元ギリギリから一気に飛び出して心臓を狙う。
だが次の瞬間紫電に気づき、刀を振った。
お陰で藤堂の背中は浅く斬られただけに終わった。
だが、京楽は顔をゆがめる。
右脇腹に藤堂の刀のが突き刺さっていた。
逆手に持った藤堂の刀が直角に曲がっているのだ。
「しっかりしろッ京楽!」
藤堂の声に京楽は息を吸い、そして。
「破道の十一 綴雷電!」
上総介兼重を伝って電撃が藤堂を襲う。
「くッ!!!」
藤堂が悲鳴を上げて京楽から刀を抜くと、影を介して距離を取った。
だがゆっくりもしていられない。
姿が見えないと分かれば他の戦闘に手出ししかねないのだ。
(変形するのはずいぶんと厄介だ……。
遠距離で攻めるか?)
響河が操れるのは刀だけだ。
鬼道を使えるわけではない。
京楽は壁にできた影から飛び出し、左手をつきだした。
「破道の三十二 黄火閃!」
振り返った藤堂の顔が見えた。
あたりはしたが、防御はされた、というところだろう。
「凍鬼」
影から出たところを見計らって花天狂骨が遊びを変えてくる。
「凍鬼?
次はどんなルールだ?
いや、教えるな」
藤堂は京楽の能力は知っていても、技の詳細までは知らないらしい。
(ならば言うとおり教えないに限る)
だが今度は厄介な物が出た。
斬られたところが動かなくなる、それが凍鬼のルールだ。
相手の能力を考えれば、こちらにとってずいぶん不利だろう。
だからと言って花天狂骨の気が変わるのを待つことはできない。
京楽は集中力を一気に高め、霊圧を放出した。
「氷牙征嵐」
あたりに冷気が渦巻き、濃い霧となり、京楽の姿を隠した。